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勇者を殺すために潜入した魔族の少女が、なぜか俺のパン屋で毎朝働いている

作者:臥裳斗真
最終エピソード掲載日:2026/10/22
 本来の計画どおりなら、数分後、この店は周りの火薬ごと吹き飛ぶ。
 二階の窓辺で、シエルは最後の座標を打ち込んだ。
 王都中央広場まで、八百四十二歩。
 風は北東、高度の補正は二。
 窓の向こうでは、勇者凱旋祭の花火がもう上がり始めていて、赤い光が咲くたびに、少し遅れて腹の底へ音が届く。
 紅茶に混ぜた睡眠薬は効いたらしい。
 階下からは、もう物音ひとつしなかった。
 窓硝子に映った自分の顔から、シエルは目を逸らした。
 懐で、通信石が震える。

「観測点、応答せよ」

「こちら花火師。観測準備、完了」

「目標を確認せよ」

 広場の壇上には、青い飾り紐を掛けた勇者の姿が見える。
 その周りを、王族と騎士団と、祭りに集まった数えきれない人の影が埋めている。
 それから、店先の小さな台。
 昼までパンを並べていた台だった。

「目標を確認せよ」

「……確認しました」

「第一射まで、三分」

 シエルは目を閉じた。
 六日前の自分は、この店の塩と砂糖の区別すらついていなかった。
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