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COLON:SERIES - アンネ・ラインハルトの記録  作者: 志室幸太郎
ANNE:2020 - アンネ・ラインハルトの黙示録
53/53

[5-16]

 翌日、夜二十一時頃。シノユキとニーナは暦史書管理機構日本支部東京支局にいた。

 まだ日本に滞在していたマシューに面会を申し込み、指定された会議室で待機しているところだった。

 クレセントハート島からの移動中も、マシューになにを聞くべきか考え続けていたシノユキだったが、結論は出ないままだった。この会談は非常に難しい。特に戦争の件について、下手に触れようものならば自身やニーナにも危険が及ぶ可能性がある。


「……出たとこ勝負しかないか」


 そう呟いた直後、会議室の扉がノックされた。シノユキは動揺を見せず、「どうぞ」と声をかける。すぐに扉が開き、マシューが顔を出した。


「やあ。すまない、娘の見舞いに行っていてね」


 シノユキは立ち上がり、深く頭を下げた。ニーナもそれに倣う。


「ご息女に怪我を負わせてしまい、申し訳ありません」

「いや、事情は聞いている。かなりハードな一日だったようだね。あの程度の怪我で済んだのはむしろ不幸中の幸いだ。君が、ニーナだね」

「はい」

「海上に現れたドラゴンを君が撃退したと聞いている。ありがとう」

「いいえ、私は家に帰るよう“お願い”しただけです。戦ったのはむしろヨミヒトさんでしょう」


 正確にはヨミヒトの攻撃によって大群が押し寄せてきたと見るのが自然だったが、ニーナなりにヨミヒトの顔を立てた発言のようだった。マシューはそれを察したのか、笑みをこぼす。


「彼にはいつも娘が世話になっている。早く目を覚ますといいのだが……」

「セーラがついていますから、大丈夫でしょう。それより、お聞きしたいことがあります」

「ああ、そうだったね。報告は軽く目を通したよ。なるほど、イーデンにいたとはな……」


 マシューは背もたれに体を預け、無精髭を撫でた。


「ラスリウネスク家から、なにか聞いていませんか? アンと一緒に消えた、レナードという少年について」

「結論から言って、なにも聞いていない。イーデンに触れたならわかると思うが、あそこは徹底的な秘密主義でね。こちらから情報共有はするものの、オペレーションにも基本的には参加しない、孤立した家系なんだ」

「別の役割があるから、ということですね」


 ニーナが口を挟むと、マシューは「その通り」と指さした。


「つい一週間前にも定例会議で会ったというのに……問い詰めたところで“聞かれなかったから”と言われておしまいだろうがな。しかし、レナードの件について確認することはできるだろう」

「次に会うのはいつなんです?」

「一週間後だ。有栖川と一緒に確認するから、結果は後日彼から聞いてくれ」

「わかりました」

「他になにか聞きたいことは?」

「いいえ、特にありません。引き続きアンネ・ラインハルトの捜索を続けます」


・・


「さすがに聞けませんでしたね、戦争の話」


 助手席のニーナが、まっすぐに正面を見たまま口を開いた。首都高のそばに立ち並ぶビルが次へ次へと後方へ流れていく。ラジオからは落ち着いたパーソナリティの声と眠気を誘うような穏やかな音楽が聞こえてきた。


「ラスリウネスク家が、オペレーションとやらに関わっていないということを聞けただけでも収穫だった。もしかするとかの家系はこちら側についてくれるかもしれない」


 ニーナはようやくシノユキの顔を見た。


「戦争を止める気ですか?」

「ああ。止めないのか?」


 聞き返されて、視線を正面に戻す。


「止めたいとは思いますが、暦史書管理機構を敵に回すことにならないでしょうか。敵に回すことになった場合、我々だけでは戦力に差がありすぎます」


 シノユキはスピードを落としつつハンドルを切って、首都高を下りた。


「なぜ戦うことが前提なんだ。他にも解決の道はある。……と言いたいところだが、絶対に味方につけておきたい人材がいる」

「誰ですか?」


 その質問に答えることなく、車は新宿西口の近くまで来て止まった。


「ついてきてくれ」


 ニーナは言われた通り、車を降りたシノユキを追って地下街へと入った。すでに店舗は閉まる時間で、人気はほとんどなかったが、一軒だけ明かりのついている店があった。その古びた中華料理屋ののれんをくぐると、隅の席でラーメンをすする一組の男女がいた。

 短髪と無精髭、着崩したスーツ姿の男はシノユキに気づいて、麺を持ち上げたまま「よう」と声をかける。もう一人は大学生くらいの女性で、麺をするすると吸い込むと、二人の方を見て軽く会釈する。肩あたりまで延びた黒髪が揺れた。

 シノユキは二人のそばまで行って、ニーナの方へ振り返った。


「紹介しよう。彼は烏山さん。そして彼女は、折紙チトセだ」

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