29 神秘罰騎士団(ジャッジメント)
パパパパーン
音楽ギルドの演奏が鳴り響く。
「安いよ安いよ! 出場者なら、なんと、無料だ!」
「うちも、まだ勝ち残ってる者はタダで提供するよ! 食べていきな!」
「おう、あんたは二回戦まで上がったギルドだね。奢ってやるよ」
「ありがとうございます!」
「惜しかったなぁ。いい戦いだったよ」
闘技場へ行くまでの道は多くの出店でにぎわっていた。
フードを被ったダナフォルトが無表情のまま、闘技場へ歩いていく。
一歩下がって後ろをベルフェゴールがついていった。
「ダナフォルト様」
アルバスが周りの目を気にしながらダナフォルトの隣に並ぶ。
「アルバス、よく気づいたな。一応、気配は消してたんだけどな」
「民と一緒に楽しめばいいではないですか」
「・・・まぁ、気分じゃないんだよ。そうゆうアルバスはどうなんだ?」
「ごほん、これでも司祭長なので」
アルバスが少し鼻を高くした。
「偉くなったな。あんなちっこいガキだったのに」
「ははは、ダナフォルト様には敵いません」
「・・・・・・」
「本当に不死なのですね」
「まぁな。今のところは死なないらしいよ」
ベルフェゴールが少し距離を取った。
「私も老体の身、何年も生きられるわけではない。ダナフォルト様、貴方様の守るこの国で過ごせたこと、とても幸せでした」
「・・・・・・・」
ダナフォルトが一瞬目を見開く。
「・・・ったく、何を言うかと思えば。ドルゴールの次はアルバスか。流れ弾に当たって死なないようにな」
「先ほども申し上げたではないですか。司祭長ですぞ。レベルだって高いのですから、民の攻撃など止められるに決まっているではないですか」
「はいはい」
ダナフォルトが軽く笑いながら、フードを押さえていた。
「勝者は、ヘスティア魔法学校先生チーム!」
うおぉおおおおおお
ヘスティア魔法学校の者たちが歓声を上げる。
先生たちは少し照れながら、手を振って応えていた。
負けた帝国軍チームも拍手で称えている。
「うわぁ、今頃、ガルハルトたち悔しがってるだろうな」
「ダナフォルト様、表情に意地の悪さが出ていますよ」
「これで、軍から出ているチームは全滅だな」
ダナフォルトが水を一口飲む。
「先ほどの攻撃に対する隙は、”教師は実戦経験が少ないモノ”・・・という思い込みからでしょう。技が決まってからの・・・あの眼鏡の男性教師の動きが、魔族のようでしたね」
「魔族って・・・まぁ、確かに闇祓いの先生だって聞いてるけどな」
「そうですか。ふふ、私と気が合いそうです」
ベルフェゴールが腕を組みながら目を細める。
「人間同士の戦闘を見るのも面白いものですね。ダナフォルト様はレベル0の状態でバトルを見てるのですか? どう見えてるのでしょう?」
「レベル0なら魔法すら目で追えないよ」
「ダナフォルト様から見えている光景、私も見てみたいものですね」
ダナフォルトはただバトルを楽しんで見ている雷帝を演じるために、2日目からは魔力を使っていなかった。
ただ、100年以上の経験から、肌で感じるもので周囲の様子を伺っていた。
全ては神秘罰騎士団に揺さぶりを入れるためだった。
ダナフォルトが作った笑みを浮かべて拍手をする。
「おっと・・・そう言ってるうちに、リハーナ様たちの番になりましたね」
「クラウド、あいつ戦えるのか?」
「あはは、覇気がないですし、猫背になっていますね。でも、モルウェンがいるなら、勝つでしょう」
クラウドは手を振っていたが、表情は硬かった。
ナターシャは杖を握り締めて、真っすぐ対戦相手を見つめている。
「ん? 相手は魔導ギルド”セレスティアの星詠団”か・・・」
モルガーナがダナフォルトのほうを見て合図をする。
「・・・・・」
瞬きをして瞳を赤くした。
フードを深々と被って、警戒されないよう、殺気を消していた。
ベルフェゴールが、無言のままダナフォルトを隠すように司祭の横に立つ。
「よろしく、君たちのことはよく知ってるよ。アステリア魔法学校の上位魔族襲撃の時の対応は見事だったね」
「後から聞いて、鳥肌が立ったわ」
「ありがとうございます。といっても、私は何もできなくて師匠様を待ってるだけだったんですけどね」
「師匠?」
「そんな話いいわ。早く始めましょう」
「モルガーナ」
モルガーナが苛々しながらモルガーナの前に立つ。
「いい試合になるといいね、お嬢ちゃん」
「初戦のお嬢ちゃんの魔法すごかったね」
露出の多い服を着た女魔導士が、中腰になって、モルガーナに視線を合わせる。
モルガーナがため息をつく。
「お嬢ちゃんじゃないわ。モルガーナよ。それに貴方たちよりも強いから、気安く呼ばないでくれない?」
モルガーナが杖を回して、自分の前で止める。
「!?」
「ダメだ! 試合はまだ・・・」
「どいて」
止めようとした司祭を払いのける。
モルガーナが闘技場に張り巡らされた魔法陣を一気に展開した。
サアァァアアア
赤い光線が観客席にいた一般人のふりをした神秘罰騎士団に伸びていく。
68人が炙り出された。
始めは一般人のように驚いたふりをしていたが、赤い光が自分たちに向けられたとわかると、すぐに闘技場の中央へ向かおうとした。
判断までの時間は約0.9秒・・・。
― ラグナ・ドゥラグ ―
ドドドドッドドドド
ダナフォルトが杖を出して、雷の弾丸を撃っていった。
眼鏡をかけた少年が、ダナフォルトの攻撃を弾き飛ばす。
魔道具のようなものが杖に備わっていて、ダナフォルトの攻撃の軌道を正確に読んでいた。
「まさかこんな早く気づかれるとは」
パン屋の格好をした中年の男が飛び上がって、エプロンを脱ぎ捨てた。
黄金のマントを羽織って、空高く飛んでいく。
「よっと」
一人の少女が黒いローブをひらひらさせて、闘技場の空に魔法陣を展開する。
ジジジジジジジ
白いユニコーンが現れて、ダナフォルトの前に聖なる結界を張った。
ダナフォルトが杖を持ったまま、神秘罰騎士団を一人一人確認していた。
「おぉ、イマドキ召喚士とは珍しい」
ベルフェゴールが空を見上げて感心していた。
「相手は雷帝対策もかなり念入りにされているようですね」
「ベルフェゴールは手を出すなよ」
「もちろん、ダナフォルト様の命に危険が及ばない限り、何もしません」
ベルフェゴールがほほ笑んで手を挙げた。
「何が起こってるんだ!?」
「非常事態だ! 事前に打ち合わせをしていた通り、民の前に結界を!!!」
アルバスが司祭に大声を張り上げる。
司祭たちが散らばっていき、すぐに民の前にシールドを張っていた。
クラウドが天を仰いで、神秘罰騎士団の行動を見つめる。
「何者だ? あいつらは・・・」
「魔族・・・・ではないよね?」
魔導ギルド”セレスティアの星詠団”の男と、ナターシャが同時に前に出る。
モルガーナがリハーナを守るように、杖を握り締めた。
「魔族じゃないわ。でも、リナお姉さまが狙われてるの」
「モルガーナ・・・・・・」
「大丈夫、リナお姉さま。私がついています」
「っ・・・・」
リハーナが顔を曇らせて、一歩下がる。
「なんだって?」
「わかった」
魔導ギルド”セレスティアの星詠団”の4人が、リハーナを囲むようにして、すぐに四方系の結界を展開した。
「え・・・・・?」
「どんな事情があるのかはわからない。でも、魔導ギルド”セレスティアの星詠団”である僕たちがいるのに、行動するのは腹が立つなぁ」
「そうね。もう、せっかくの見せ場が台無しよ」
「まぁまぁ」
「あいつらが収まったら、バトル再開ね」
女性が水色の杖を回して、笑みを浮かべる。
「ラグナディア雷帝国の皆の者、安心してくれ、我々は一般市民を襲うようなことはしない!!」
神秘十字が描かれた黄金のマントを羽織った男が、闘技場の中央の空から呼びかける。
神秘罰騎士団のメンバーがぴたりと動きを止めた。
「よしよし」
召喚士の少女はユニコーンに跨って、白い毛を撫でていた。
「何言ってるんだ!?」
「闘技大会を止めて、どこの国の者だ!?」
観客席から野次が飛ぶ。
中には武器を手にして構えている者もいた。
「今、私の下にいるのは、禁忌の少女だ!」
声高らかに叫ぶ。
「知らないだろう? アンデッドを手に入れた少女、異形の者だ。どんなに血を流しても死なない!!」
マントを翻した。
神秘罰騎士団の紋章である、神秘十字が風になびいた。
「一般人のふりをして、魔導闘技大会に紛れ込んでいるのは彼女のほうだ。おそらく、魔に魂を売ったのだろうな。厄災を撒く者となるだろう」
リハーナを睨みつける。
「っ・・・・・」
リハーナが首を振って震えていると、モルガーナが手を握り締めた。
「大丈夫、リナお姉さま、私がいます」
「・・・・うん」
リハーナがモルガーナの手を握り返して、不安げに頷く。
リハーナの両隣には、クラウドとナターシャが立っていた。




