28 レベナント家のメイドと執事
「お、ミュゼリア」
「ダナフォルト様、おかえりなさいませ」
「どうした? 眠れないのか?」
ダナフォルトが屋敷に戻ると、ミュゼリアが庭の椅子に座っていた。
魔導書を開いて、何かを書き込んでいた。
「そうですね。ちょっと緊張しちゃって。ベアはいびきかいて寝てるんですけどね。煩くて煩くて・・・」
「はは、よっぽど疲れたんだろうな」
「普通眠れなくなると思うんですけどね。同じ双子でも全然違います。ベアの図太さが羨ましいです」
「ベアルリアはミュゼリアがいるから、安心して寝れるんだよ。ミュゼリアもあまり神経質になるなよ。殺し合いを目的とした戦闘じゃないんだからな」
「・・・・はい」
ダナフォルトが軽く笑って、ミュゼリアに近づいた。
「ほら、もう寝ないと明日の戦闘に響くぞ。トーナメントも順調に勝ち上がってるし、次の対戦相手は・・・魔導士ギルドだったな。アルカナムといい、魔導士ギルドはなかなか強いのもいるから・・・」
「あ・・・あの、ダナフォルト様」
「ん?」
ミュゼリアがダナフォルトの言葉を遮る。
魔導書にペンを挟んで立ちあがった。
「!」
すっと息を吸い込んで、目を開く。
銀髪の髪が風に揺れて、額に青く光る刻印が浮き上がった。
「・・・私は、まだ大丈夫でしょうか?」
「待ってろ」
ダナフォルトがすぐに、ミュゼリアの額に手をあてる。
― ルーフォス ―
瞳を赤くして、小さく詠唱する。
刻印が消えていった。
「これで、大丈夫だ。3年ぶりだな・・・封印が解けかけたのは」
「・・・すみません」
「謝ることないって。ここ最近、極端に魔力を使うことが多かったからか。ベアルリアは大丈夫か?」
「・・・はい。私が見る限り、力があふれ出しているようには見えませんでした」
「そうか。悪かったな、魔導闘技大会も無理に出なくていいよ。ここまで酷使させていたとは・・・上位魔族の襲撃もあったもんな」
ダナフォルトがほっと胸を撫でおろす。
「一応ベアルリアも封印し直したほうがいいかもな。今はもう寝てるだろうから・・・そうだな、明日のバトルが終わってからでも間に合うか」
「・・・・・・」
「ミュゼリア?」
ミュゼリアが手を組んで深呼吸をする。
「女神と人間の混血であり、異質な存在である私とベアを、ダナフォルト様は受け入れてくださいました。私たちはダナフォルト様に出会えなければ、あのままむごい殺され方をしていたでしょう。だってこの体は・・・」
ミュゼリアの手は震えて、目は潤んでいた。
ダナフォルトがミュゼリアの手を掴む。
「!?」
「ミュゼリア、もう昔のことは思い出すな。ベアルリアもつられて思い出すだろ」
「・・・・はい」
ミュゼリアがダナフォルトの手を両手で包んだ。
「本当にありがとうございます」
「どうしたんだよ、急に」
「ダナフォルト様が・・・これから何をしようとしているか、未来視してしまったんです。本当にたまたまで、不確定要素も多くて・・・私の間違いならいいのですが・・・」
ミュゼリアが縋るように見上げる。
「・・・・なるほど」
ダナフォルトがため息をついて、ミュゼリアから手を離す。
「なら、話は速いな。ミュゼリアたちは棄権してくれ。ベルフェゴールには言っておくが、間に合うか・・・」
「ダナフォルト様・・・・・」
「失望するだろ。俺は英雄の器じゃないんだよ。身勝手なんだ」
「違います!」
ミュゼリアがダナフォルトの前に立った。
「ダナフォルト様は私とベアルリアにとっての英雄です! 誰が何と言おうと英雄なのです。理由があってのことなのだとわかっています!」
「ミュゼリア・・・」
「私の全てを使って止めますから。この体が消えてしまっても、この先に何をされても、全力で止めます」
「ミュゼリア」
ダナフォルトがミュゼリアの頭に手を置く。
ミュゼリアがびくっとした。
「ありがとな」
サアァァ
「ダナフォルト・・・様・・・」
ミュゼリアが振り返るとダナフォルトが消えていた。
風が吹いて、読みかけの魔導書のページがぱらぱら捲れていく。
レベナント家の屋敷に、朝日が差し込んだ。
ベルフェゴールが朝食の皿を運んでいた。
「おはようございます、ダナフォルト様。どうしましたか? 珍しく疲れていらっしゃるように見えますが」
「全部見えてるくせに。悪趣味だな」
「悪魔ですから」
ダナフォルトが伸びをしながら席につくと、ベルフェゴールがほほ笑んでキッシュの載った皿を置いた。
カップにハーブティーを注ぐ。
「リハーナたちは?」
「もう食事を済ませて出ていきましたよ。早めに行って、緊張をほぐしたいそうです。そうそう、モルウェンから伝言です。馬鹿な真似は止めなさい、と」
「ふうん・・・」
ダナフォルトがさらっと流して、カップに口をつける。
「ん? そういえば、ミュゼリアたちは?」
「先に出ていきましたよ。ベアルリアがやる気満々で、3人を引っ張っていきました。クロエはなかなか眠れなかったらしくぼうっとしてましたね」
「4人とも強いからな。このまま優勝する可能性も高いな」
「クククク、最後までいけばですよね?」
ベルフェゴールが窓の傍に立つ。
「国ごと魔界に沈める。まさに、魔王に相応しい考えです」
「・・・・・・・」
「雷帝ダナフォルト、貴方たち英雄が倒した魔王も、愛するウェンディ=ブラウンのために魔族を率いる者となり、魔族を統べる存在になったのですよ」
「何度も聞いたよ」
「今のダナフォルト様は、あの時の魔王とよく似ておりますから」
「俺は・・・・」
ダナフォルトが手を止めた。
「・・・・・・」
「あのお方も高貴な魂をお待ちでした。そして優しいお方でした」
「魔王の話をするな。気分が悪い」
「これはこれは失礼しました。つい、昔の話をすると嬉しくなって、いろんなことを話してしまいますね」
ベルフェゴールが笑みを浮かべたまま、窓の外を見つめる。
「お前はどっちの味方なんだよ。人間か魔族か・・・」
ダナフォルトがパンをちぎって口に入れる。
「本当に俺に魔王になってほしいのか?」
「そうですね、本音を言えば魔王になっていただきたいですが・・・・私はダナフォルト様の味方です。ダナフォルト様がどの選択をとってもこれだけは変わりません。では・・・」
「・・・・・・・・」
ベルフェゴールが少し開いた窓を閉めて部屋から出ていった。
ダナフォルトがため息をついて、パンにバターを塗った。




