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レベル0の雷帝  作者: ゆき
魔導闘技大会

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28/30

27 月夜の闘技場にて

 魔導闘技大会は進むほど、大いに盛り上がっていた。


 実戦に不慣れな者も多かったが、勝ち上がるほど力をつけていった。

 観客にも熱が入り、ベルゼブブの件以降初めて、ラグナディア雷帝国全体が活気に満ちていた。


 ダナフォルトも時折笑いながら民の戦闘の様子を眺めていた。

 ベルフェゴールだけが、ダナフォルトの緊張感を感じ取っていた。


 まだ、神秘罰騎士団(ジャッジメント)は現れていない。



 パパパパパパーン


 1日目終了の合図が流れる。


「師匠様!!」

 リハーナが弾みながらダナフォルトに駆け寄ってくる。

 後ろから疲れ切ったクラウドとナターシャが歩いてきていた。


「勝ち上がりました!」

 リハーナが満面の笑みで興奮気味に言う。


「あぁ、よかったな」

「はい! 私の魔法、どうでしたか・・・? 水帝エレナ様と比べて・・・」

「エレナと?」

 ダナフォルトが目を丸くする。


「あ、すみません! え、エレナ様の足元に及ばないのはわかってますが・・・・い、今のは忘れて・・・」


「はは、エレナと旅した頃に似てるかもな」

「え・・・」

「エレナも昔から洗練された魔法が使えたわけじゃない。何度も戦って魔法を磨いてきたんだ。エレナが強かったのは、逃げなかったからだよ」

 懐かしそうに、長い瞬きをした。


「リハーナも逃げないからな。そうゆうところはよく似てるよ」

「ほ、本当ですか?」


「ちょっと、リナお姉さまに変なこと吹き込まないでくれる?」

 モルガーナが巻き髪をふわっとさせながら降りてくる。


「モルガーナ!」

「リナお姉さまは逃げてもいいのです。むしろ敵からは真っ先に逃げてください」


「はぁ・・・」

「何よ、その目」

「別に」

 モルガーナとダナフォルトの視線が火花を散らしていた。


「お疲れ、クラウドとナターシャ。ん? やけに疲れてるな」


「自分の実力の無さを痛感してね、恥ずかしい限りだよ」

「私も、何もできなかった・・・」

 ナターシャが悔しそうに俯く。


「ラグナディア雷帝国屈指の進学校、アステリア魔法学校の生徒会役員2人が出てこのザマだ・・・生徒に会わせる顔が無い」

「会長はまだみんなから声援受けてたし、魔法が見えてました。でも、私は・・・本当に副会長やってていいのかわかりません」


「いやいや、待てって。2人してそう落ち込むなよ。祭りなんだから」


「だって・・・」

 今にも泣きそうなナターシャを見て、ダナフォルトが戸惑っていた。


「甘いのよね」

 モルガーナが小声で言って、腰に手をあててため息をつく。


 クラウドもナターシャも戦闘に出てくる間も与えず、リハーナが相手を倒していた。

 リハーナに近づこうとする敵がいれば、モルガーナが押さえた火力で吹き飛ばす。


 完全に2人は蚊帳の外で、取り残されていた。


「出ることに意義があるんだから、気軽に楽しんでくれよ」


「・・・・あぁ・・・」

 クラウドが肩を落として、暗い表情のまま頷いた。



「明日も楽しみだな」

 ダナフォルトが伸びをして立ち上がる。



 ふっと、モルガーナがダナフォルトに近づいた。


「ダナフォルト・・・・」


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


「・・・わかった」


 2人が周りには聞こえない周波数の声で話す。



 パンパン



「さぁ、今日の夕食は私が作りますよ。ミュゼリアたちもお疲れでしょうからね」

 ベルフェゴールが手を叩いた。


「クラウドたちも来る? 美味しいよ、うちの料理」


「ありがとう。でも、今日は遠慮しておくよ」

「会長が行かないなら、私も・・・・」 


 ナターシャがクラウドの顔色を見る。

 クラウドは一人で落ち込んだまま、立ち直れないでいた。


「それは残念ですねぇ。また是非来てくださいね」

 ベルフェゴールが胸に手をあてて、笑いかける。


「あ、今日は、ミュゼリアもベアルリアもアルトもクロエも疲れてるしな。俺も手伝おうか?」

「いいえ。私一人で大丈夫です。ダナフォルト様はお料理が下手でございますので、遠慮させていただきます」

「・・・下手ではないと思うんだけど。たまたま、間違えることもあるだけで」 

 ダナフォルトが不服そうに言う。


「師匠様、料理できないのですか?」


「いや、そ・・・」

「そうですね。3か月前、ミュゼリアとベアルリアが、お腹を壊して寝込んでしまいまして」

 ベルフェゴールがダナフォルトが答える前に割り込んだ。


「お腹を壊した?」

「数年前の消費期限の調味料を使ったんだよ。でも、ほら、味が出るかなと思って。俺が食べて美味かったし・・・」


「・・・普通の人間は脆いのですからね」

「ベルフェゴールに言われると複雑だな」


「ふふ、じゃあ、師匠様が作るときは私もサポートしますよ」

「・・・・・」


「帰るぞ」

 リハーナが笑うと、ダナフォルトが気まずそうに歩き出した。

 アルバスとすれ違うと、軽く手を挙げて挨拶をする。


「あー、リナお姉さまお待ちください。私も行きます!」

 モルガーナが表情をころっと変えて、リハーナについていった。







 星が瞬く夜、静まり返った闘技場の中心にダナフォルトが降り立つ。

 瞳は赤く光っていた。


 ダナフォルトが、ゆっくりとフードを取る。


「ダナフォルト、やっと来たのね」

 モルガーナが杖を持って、真ん中に立っていた。


「5分遅いわ」

「・・・・雷帝は色々と忙しいんだよ。で? こんな時間に結界を張って来いだなんて、まさか愛の告白とかじゃないだろ?」

 ダナフォルトが鼻で笑う。


「冗談じゃないわ・・・・待ってて」

 モルガーナが杖を下に向ける。

 詠唱を始めると、闘技場に複数の赤い光の線が浮かび上がった。


 どの光も真っすぐに、ある場所を指している。


「魔力の追跡か? リハーナのいた場所を指してるな」

「そうよ。でも、追跡じゃない」

 モルガーナが息をつく。


「観戦中、リナお姉さまを攻撃しようとした痕よ。58回ね」


「!?」

 ダナフォルトが目を見開く。

 怒りで血管が浮き出ていた。

 

「私が全て防いだの。リナお姉さまに見つからないようにね」


「全方位から・・・って・・・」

「攻撃する直前まで相手のことは見えなかった。誰が狙っていたか、顔さえ見ることはできない。見えないように防ぐのに必死で、ただ、痕跡だけ残るようにすることしかできなかった」


 モルガーナがダナフォルトを見上げる。


「もし、私が見逃したら、リナお姉さまは連れていかれてたわ。相手も私をモルウェンだってわかったのかもね。次はもっと対策を練ってくるかもしれない」

「・・・・・」


「ダナフォルト、貴方は確かに強い。でも、雷帝という立場がある。リナお姉さまを守れないのよ」


 モルガーナが杖を見つめながら、冷たい口調で言う。


「1日目でも相当盛り上がったでしょ? 魔導闘技大会は十分じゃない? 明日からの開催は中止して・・・」

「いや、続行する」

「ダナフォルト!」

 モルガーナがダナフォルトに杖先を向けた。

 目が微かに潤んでいる。


「リナお姉さまは死なないかもしれない! でも、痛みはあるのよ! 神秘罰騎士団(ジャッジメント)に連れていかれたら何をするか・・・」


「もし、リハーナに何かあれば、この国ごと魔界に沈めてやるよ」


 冷淡な声だった。


「え・・・・」


 ぶわっ


 ダナフォルトが魔力を解放すると、一瞬で闘技場が闇に包まれた。

 モルガーナが杖を落としそうになる。


「神秘罰騎士団(ジャッジメント)は魔界では生きられないだろうからな。リハーナは俺が救う」


「ダナフォルト・・・魔界に沈めるって・・・他の一般国民にどんな影響があるかわかって言ってるの!?」


「わかってるよ。弱い者は死ぬか、人の形を失うか・・・」

「雷帝のすることじゃない、正気じゃないわ!」


 モルガーナが信じられないといった表情で、ダナフォルトに訴える。


「モルウェン、俺はおかしいのか?」


「おかしいって・・・言うまでもないでしょ。おかしいに決まってるじゃない・・・雷帝が自国を魔界に堕とすなんて、本気で言ってるの? わ、わかったわ。また、私を騙そうとして・・・」


「本気だよ」

 ダナフォルトが真っすぐモルガーナの目を見る。


「っ・・・・・・」

 モルガーナが息を呑んで、額に汗をにじませた。


「そりゃ、驚くよな・・・俺は、やっぱり英雄じゃないんだよ。3人と肩を並べられるほどの人格者じゃない」


 ダナフォルトが自分の手を見つめながら言う。

 黒々とした電流が蛇のように流れていた。


「ダナフォルト・・・」


「状況はわかったよ。さんきゅ、モルウェン。とりあえず、俺は方針を変えない。もし、何かあったら自分の身は自分で守れよ」

「・・・・・・」


 ダナフォルトがふわっと飛んで、闘技場から消えていく。


 モルガーナが魔法を解いて、杖を握り締めた。

 髪を触りながら、ダナフォルトのいた場所を見つめる。


「まったく、バカな英雄ね。水帝エレナ・・・あの子、どうしてくれるのよ。本当にもう・・・」


 モルガーナが天を仰いだ。


 ダナフォルトの結界が、月明かりに吸い込まれるように無くなっていく。

 モルガーナが闘技場を歩きながら、いくつかの魔法陣を張っては消していた。 

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