26 VS ミュゼリアとベアルリア
「私は、ダナフォルト様ならあそこで殺すと思ったんですけどね」
ベルフェゴールが戻ってきたダナフォルトに声をかける。
「何か問題でもあったのでしょうか?」
「全部見てたくせに白々しい」
「クク、人間らしいダナフォルト様も良いと思いますよ」
「・・・・悪魔が」
「悪魔の執事でございますから」
ダナフォルトが足を組んで椅子に座った。
民衆の視線はダナフォルトに集まっていたが、アルバスが上手く逸らしていた。
ヘカテー魔法学校の生徒会会長ディゼル、副会長ゼファーが並んで出てくる。
後ろから書記のエリオット、会計のリゼッタが緊張しながら歩いてきた。
「おぉ、俺たちの相手は女の子か。双子? すごい、全員美少女・・・めちゃくちゃ可愛い・・・」
「ゼファー、品が無いぞ」
「可愛い子に可愛いって言うくらい、いいでしょ」
ゼファーが制服のネクタイを直した。
「こんにちは」
ミュゼリアとベアルリアがほほ笑む。
「はじめまして、私はレベナント家にお仕えしておりますミュゼリアと申します。彼女は、双子の妹、ベアルリアです」
「はじめましてベアルリアよ」
スカートをつまんでお辞儀をする。
「レベナント家って・・・雷帝ダナフォルトの?」
「はい!」
ミュゼリアが嬉しそうに頷く。
「主人がレベル0で大変じゃない? もしかして、君たちが陰でしりぬぐいしてる・・・・とか?」
「エリオット」
「だって、そうとしか思えないじゃん。雷帝がレベル0ってことは周りが優秀なんだよ。おそらくこの前の襲撃だって・・・」
「・・・・・」
ミュゼリアとベアルリアが瞬時に殺気を静めた。
「アルト、クロエ、自己紹介を」
ミュゼリアが貼り付けたような笑みのまま、後ろを向く。
「僕はアルト、見ての通り妖精族だよ」
メイド服のレースを直しながら、透明な翼がふわっと伸ばす。
ゼファーが見惚れていた。
「私はクロエです。まだレベナント家にお仕えしたばかりですが、ご主人様には大変お世話になっております」
勢いよく頭を下げた。
「こんなかわいい子たちと戦闘するなんて気が引けるなぁ」
エリオットが杖を出しながらため息をつく。
「どうせだったらアステリア魔法学校の生徒会チームとやりたかったけど、仕方ない。悪いけど全力でいかせてもらうよ」
「はい、光栄です」
ミュゼリアがにこやかに言う。
「勝ち上がればいいことだもんね。アルトちゃんごめんね、痛いようにはしないから」
「親しく呼ばないで。僕、あまり人間好きじゃないから」
アルトがゼファーを睨みつけた。
ヘカテー魔法学校、生徒会長のディゼルが、観客にいる生徒たちに手を振っていた。
女の子たちの甲高い声が響く。
「どうして、生徒会長ってどこの奴もモテるんだろうな」
「おぉ、みんな気合入っていますね」
ベルフェゴールが前のめりになる。
「結局クロエが出ることになったのか。あの3人についていくの大変だろうな」
「ダナフォルト様にはクロエの実力も見ていただきたいところですが・・・」
「あの感じだと、クロエが何もしないまま終わりそうだな」
「同感します」
ベルフェゴールが気まずい顔をしていた。
司祭が杖を掲げる。
パンッ
試合の合図が鳴った。
― 聖薔薇の蔦 ―
ミュゼリアが瞬く間もなく魔法陣を張った。
「うわっ」
「なっ!?」
ドドドドドドドドドドド
杖を横にして、一気に4人を縛り上げる。
観客席から歓声が上がった。
キィンッ
「っ!?」
ベアルリアが低い位置から2つの大剣をディゼルとゼファーに突きつけた。
「うっ・・・動けない。エリオット、リゼッタ動けるか?」
「動けない・・・魔力が練れないの。体も・・・」
「クソッ・・・僕も魔法が見えなかった」
エリオットが悔しそうに言う。
リゼッタがもがいていたが、びくともしなかった。
「降参?」
ベアルリアがにやっとする。
「・・・降参だよ・・・」
ディゼルが項垂れながら、あっさり負けを認めた。
パァンッ
司祭が合図をすると、ミュゼリアが魔法を解いた。
「僕たち何もすることない・・・」
「まぁまぁ、アルト様、膨れないで」
「膨れてない。いこ、クロエ」
アルトが頬を膨らませてクロエの服をつまんで歩いていった。
クロエがミュゼリアたちを気にしながら去っていく。
「こんな強いメイドがいるなら、雷帝も安心だな。僕らは魔導闘技大会もここで終わりか。ヘカテー魔法学校生徒会としては他の魔法学校の生徒と戦ってみたかったが・・・・」
ゼファーがため息交じりに言う。
「鍛え直しだ・・・君ら本当は力の半分も使ってないんだろう?」
「そうですね。1割も使っていませんよ」
ミュゼリアの髪が柔らかくなびく。
「正直すぎるね」
ディゼルが苦笑いしながら頭を掻く。
「きっと雷帝のことだ。強い者ばかり周りに置いてるんだろ」
「いえ・・・私たちは元々、魔法が全く使えなかったんですよ」
「え?」
ミュゼリアが大切そうに杖を両手で持つ。
「体力も魔力も無くて・・・ぼろぼろになっていたところを、ダナフォルト様に助けてもらったんです。ダナフォルト様がいなければ私たちは・・・・」
「ミュゼリア、過去のことべらべらしゃべらなくていいよ。早く行こう」
「あ、うん・・・」
ミュゼリアがベアルリアに引っ張られて闘技場から離れていく。
「・・・あの、ダナフォルト様」
「私たちの戦闘、どうでしたか?」
ミュゼリアとベアルリアがダナフォルトの傍に立っていた。
「2人とも上出来だよ。瞬発能力も申し分ないし、魔力も安定してる。レベナント家に仕える者として相応しいな」
「ありがとうございます!」
「嬉しい・・・です」
ミュゼリアとベアルリアが全く同じように顔を赤らめた。
「でも、欲を言うならクロエの戦闘も見たかったかな」
「・・・・そうですね。私はクロエの戦闘能力を見たことないので。まぁ、ミュゼリアたちと同等かとは思っておりますが・・・」
ダナフォルトが言うと、ベルフェゴールが頷いた。
「はっ・・・ごめんなさい! つい・・・」
ミュゼリアが口に手をあてた。
「いいよいいよ。次で見られればいいし」
「ダナフォルト様」
ベアルリアが前に出る。
「・・・・私たち、ちゃんと戦えてましたか? 前回、ダナフォルト様不在の時、魔族に押されるがまま何もできなかったので」
「あのときもよくやってくれてたし、今だってちゃんと強くなってるよ。自信を持て」
「はい!」
ベアルリアが表情を明るくした。
「そうだ。いいことを考えました」
ベルフェゴールが大げさに手を叩いて、ダナフォルトのほうを見る。
「この試合が終わったら、ダナフォルト様が、ミュゼリアとベアルリアの功績をたたえて、1日言うことをなんでも聞くというのはどうでしょう?」
「はぁ!?」
「「えぇっ!?」」
「2人ともダナフォルト様のために強くなってるのですよ? ダナフォルト様のために」
ベルフェゴールが念を押すように言った。
ダナフォルトが首に手をあてる。
「2回言うなよ。わかってる、確かにベルフェゴールの言う通りだな。かなり世話になってるし」
「と、と、とんでもございません!!」
ベアルリアが一歩下がって手を振った。
「ま、考えておいてくれ。俺も2人に何かしたいからさ。ほしいモノでもなんでもいいよ」
「ほしいモノ・・・」
ミュゼリアが小さく呟く。
「ん?」
「ベアルリア、行くよ。ダナフォルト様、失礼します」
「あぁ」
ミュゼリアが真っ赤になったベアルリアを引っ張って、観客席に戻っていく。
「ダナフォルト様が・・・なんでも・・・」
ベアルリアが頬を隠しながら、首を振っていた。
「ベアルリア・・・今、すごくえっちなこと考えてなかった?」
「まさか! ダナフォルト様にそんなことをするわけないでしょ・・・・そうゆうミュゼリアこそ顔が真っ赤。そうゆうこと考えてるんでしょ?」
「えっ!?」
ミュゼリアがびくっとする。
「えっちって・・・ど、どんなの?」
「そっちが言ってきたんじゃない」
「だ、だって、なんでもって言われちゃうと・・・いろいろ考えちゃうじゃない。年頃だし」
「・・・・・」
ミュゼリアが目を潤ませながら顔を隠す。
席に戻った2人が耳まで赤くしながら、声を小さくして熱暴走していた。
「ミュゼリア、ベアルリア」
「わっ!?」
慌てて振り返ると、呆れたようにアルトが立っていた。
「どうしてそんなに驚くんだ?」
「え・・・と、これは・・・次のトーナメント誰かなって話してたから」
「会話がかみ合ってない。別にいいけど」
アルトが言うと、後から来たクロエがほっとしたように笑っていた。




