7.いえ、本当にそういうのは(どうでも)いいんで
〜〜貼り出された<<軍部発表>>の前で。〜〜
「ブッ。ちょ、これ!これって!」
「笑ってやるなよ、一応同級生だったんだからさぁ。」
「いや、でもこれは酷くないかあ。だって全方向に対して」
"ドゥーイー家の嫡男はバカなんです"
「って広めただけじゃん。」
「ひでーよなー。」
「いや、でもあれはワザとだろ?」
「ハイウェルんとこも流石に怒ったんじゃね?」
「あそこは親どうしも昔揉めたっていうしな。」
「とはいえなあ。アイツ。」
「ホントにバカだもんなあ。」
「イヤ、アイツの場合はバカっていうか。」
「そう、バカっていうかアレだよな。」
「そうそうアレ!」
「なんだよお前らだけアレアレ言ってさあ。もっとはっきり教えてくれよお。」
「イヤ、アイツってさあ、自己評価がすげー高いのよ。」
「そうそう!アイツさ"キングオブザキャンパス"目指してたんだぜ!」
「えっ、マジで?!だってあれって成績優秀は当然のこと、3千字くらいの推薦文書いてくれるやつを20人以上集めないといけないんじゃなかったっけ?」
「あっ!オレのとこにも来たわ!で成績でひっかかるんじゃね?って言ったのよ。したらさ」
"いや、成績優秀が条件と言いながら王太子殿下も、公爵閣下も一位を取った事がないのに受賞されている。だから優秀ってのは基準が曖昧なんだ!"
「って熱弁されてさ。ポカンてしてたら"推薦文はこのまま書き写してくれたらいいから!"って原稿渡されたの。あーっ!アレ見せてやりたいわーどこやったかなぁ。」
「えっ、なになに?めっちゃ見たいんだけど。まあいいやそれは今度でいいから内容教えてよ!」
「なんだよ!自分だけ思い出し笑いなんて狡いぞ!」
「だ、だってあれ!傑作だったんだよお!ま、内容はお察しの通りどこの世界のタクヴィアンだ?ってくらい現実離れした優秀な男になってたんだけどさ。もう推薦文のタイトル見てオレは推薦するしかない!って思って!後から原稿を見せてやった奴らは全員推薦文書いたよ!だってさ!」
「初っ端からKING of the canvas だぜ!なんだよ今から絵描きでも目指すんですかってさ、アイツがいなくなってから大爆笑だよ。」
「マジか!そっかそういう事だったのか!何か変だと思ってたんだよ、アイツがあっという間に推薦文100人分も集めて立候補したって聞いた時から。」
「そ、そ。みんなキャンバス?なら推薦しないと!ってなったみたいだぜ。」
「なんだーそんな裏があったのかー。流石に推薦人100人も集めたのにハイウェルに決まった時はやっぱり忖度ってあるんだって思ったのにー。」
「いやいやいや。ハイウェルは正真正銘のKING of the campusだよ。推薦人だって50人だっけ?歴代でも多い方だったしな。」
「立ってる土俵が違うってか。」
彼らの遠慮のない笑い声がしばらく続く。
「あー笑った笑った。それにしてもさあ。何故か毎回ハイウェルがターゲットにされて、悪口言われてたよな。」
「そうそう、低学年のうちはそれでも良かったんだよ、間に受けてハイウェルに一緒に嫌がらせする奴もいたからな。」
「あ!そういえばアイツ"オレのひと言でみんな操れる"みたいな事言ってたわ。」
「でも学年が上がるとさ、本当に努力してる奴と口先だけの奴の見分けってつくようになるじゃん?そうしたらもう誰も相手にしなくなってさ。」
「でもハイウェルだけには身分でも成績でも敵わないのに、ずっと突っかかるからなんでだ?って聞いたことあるんだよ。」
「えっ!そんなこと聞いたの?お前勇者だなあ。」
「オレも知りたい!教えろよお。」
「アイツの家さ、本来なら伯爵だったんだって。それをハイウェルの父親と母親に嵌められて男爵にならざるを得なくなったんだって。」
「へ?うそ?アイツ知らないの?」
「そうみたいだよ。俺たちでさえ知ってんのにね。両親からそう聞いて育ったんだってさ。」
「ブッ。」
「うっそ、誰も本当のこと教えてやらなかったんだ!」
「いや、オレはアドバイスはしたんだよ?ご両親以外からもちゃんと話を聞いた方が良いぞって。」
「それでなんて返ってきたの?」
"オレが伯爵に返り咲いたらお前が唯一オレに勝てるはずの爵位でも負けになっちゃうもんな。"
「だってさ。アホくさくなってそれから一切関わってない。」
再びどっと笑う声が聞こえた。
「まあ、あそこは父親も母親もアレだからなぁ。」
「うちの親が言ってたけど、アイツの親がやらかした時に平民にしとけばこんな恥晒さなくて済んだのに、だってさ。」
「そうだよなぁ、いっその事平民だったらアイツもあんなにもがかなくて済んだかもしれないのにな。」
※※※
結局ドゥーイー家は爵位を返上し、兄上の伯爵領に身を寄せることになった。
え?親子二代に渡って尻拭いなんてご愁傷さま?
そうだな、兄上殿はとばっちりとしか言いようがないけど、それが貴族のしがらみってもんだから。
ただ、兄上殿はお父上とは違って甘くないらしいぞ?
とりあえずの家と仕事は与えるが、全て貸付扱いにして、働かなければ借金のカタに売り飛ばすって息巻いているらしい。
そりゃそうだ、彼らのせいで侯爵から伯爵になる羽目になったんだぞ?それでも血の繋がりがあるから?たったそれだけの理由でだ、生活の糧を与えてるんだ、もしこれで文句を言うなら放り出しても誰も責めないよ。
色々と考えの甘い彼ら親子が、毎日汗だくになりながら働くなんてできるとは到底思えないけど。
これ以上堕ちていかないことを少しだけ、願ってやろうかな。
優しすぎないか?だって?それはさ、
「君と夫婦になれたのはアイツのおかげでもあるからなぁ。」
「なあに?なんの話?」
「いや、ほんのちょっとだけ、健闘を祈ってやろうかなって思ってただけ。」
「ふうん?さ!それより早くお茶にしましょう!」
焼きたてのパイの匂いに、あれ?何を祈るんだっけ?と思いながら妻の手を取ってテーブルに向かったのだった。
これにて完結です。
最後までご覧いただきありがとうございました。
あんたの頭が下がったからなんだって?と言いたくなる人って割といますよね?
それと、オレは一言で大勢を動かせるんだ!系の人とか。
自虐志向が強い人も困っちゃうけど、自己評価と他者評価の乖離の激しい人はもっと大変。
しょうもないマウント取ってこようとする人にアセリアみたいにくわっ!とやり返したいと思いつつ。
現実ではなかなか勇気の出ない仕返しの話でした。




