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いえ、本当にそういうのはいいんで  作者: ハシドイ リラ


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6.いえ、本当にそういうのはいいんで…とは思わない人も沢山いたようだ。

そして冒頭に戻る、のだ。


確かにミーウォンの言うとおりで、今更証拠を突きつけることはできなかった。だって王女が突き飛ばされて、侯爵子息が骨折したのだ。周囲は大慌てである。ヤバっと流石に気が付いたタクヴィアンもさっさと逃げたこともあって犯人については有耶無耶になってしまった。


まさかこんなところで再会するなんて!は両者共通の思いであろう。



「さあ、もう本当にお帰りになって。わたくしたちにできることは何もありませんもの。」


「そ、そんな事を言わずに。アセリア、君が兄上に少し口添えしてくれれば…」



「なぜ?」


能面の様な顔でアセリアが問う。


「な、何故って、私たちはみんな同じ学園で仲良く学んだ仲で」


「仲良く、というのは婚約者を騙って密室に呼び出して貞操を奪おうとなさったことかしら?」


「い、いやあれはその…ああ、君たちは!そんな昔のこと!水に流せばいいじゃないか!」


「貞操を奪われかけた事を昔の事として水に流して、さらに我が息子と義娘に暴力を振るった事が周囲にバレた事を王族に取りなしてくれと?」


能面に徹していたアセリアがくわっと目を剥く。


「おいお前ふざけてんじゃねえぞ!その足りない頭でよく考えろ!ここは侯爵家、お前は男爵、その馬鹿な訴えを我慢して聞いてやってんのは侯爵と侯爵夫人だ!更に言うと、お前の息子のやらかしの後始末をしてやったのは侯爵夫人の実の兄で、お前の息子が所属を騙った第一連隊の隊長はその兄の大親友だ!どう言うことか分かってんのか!」


アセリアは姫である。そう"武のヴァルハイン"の。

戦というのは勝たねばならない、と彼女のDNAには刻み込まれている。ただの侯爵夫人と侮るなかれ。

普段ほほほと笑う貞淑な夫人は絶対に。絶対に怒らせてはいけないのだ。


アセリアの見開いた目を見てあの時のことを思い出したのだろう、ひいいっと掠れた声を出しながら丸まって腹を庇うタヴレン。


「証拠が見つからなかったことを幸いと思え。見つかっていたら一族郎党処刑だったぞ。なんたって私たちの義娘はただの気立ての良い娘じゃなくて王女だからな。」


あまりの剣幕にタヴレンどころかネリアンさえヒュッとなっていたところに…


コンコン。


許可を出すとすぐ誰が入ってきた。



「おお、ハイウェルか。お前も何か言いたいことがあったか?」


「はい。男爵にヨシャード第一連隊長からの伝言を。」


さっと広げた書状を読み上げる。


「王女およびハイウェルへの暴行については、証拠になる物(・)はなかったが証言する者(・)は沢山いる。だから処罰に持ち込むことを検討した。」


ここで一度区切ったハイウェルがジッとタヴレンの顔を見つめた。


「更に言うと、軍における所属を偽ることは国家への重大な偽証であることから、勝手に第一連隊所属を名乗った事でも充分に処罰可能である。」


どんどんタヴレンの顔色が悪くなるが、ハイウェルは気にせず読み上げる。


「だが、どちらもこれ以上追及することはしない事にした。」


タヴレンの顔に少しだけ希望が戻った。


「なので、この二件については軍から経緯について発表するのみで手打ちとする。」


この話を聞いて、あからさまにタヴレンの態度が変わった。


「ふむ、どうやら私が頭を下げるまでもなかったようだな。君たちよりも上の存在が私たちに問(・)題(・)な(・)し(・)のお墨付きを与えたということだからな。」


フン、と鼻で笑って


「じゃあこれ以上の話は無駄だな。帰るとするよ。」


呆気に取られている私たちを置き去りに、そう言って帰って行った。


「…相変わらずねぇ。」

「…だな。」

「…話には聞いておりましたが。」


「あれを聞いて"問題なしのお墨付き"と受け取る貴族がいるのですね。」

「そうですよ、世の中は広いのです。貴方もまだまだ精進なさい、ウェル。」




※※※



バタバタと血相を変え、部屋の主人に許可さえ取らずに駆け込んだ者がいた。


「あっ、あなたっ!あの件!あの件では"我が家に非がない"という事になったんじゃないの?!」


「うるさい!私だって今確認しているんだ!ギャアギャア言うんじゃない!」


普段怒鳴らない私が強く言った事でようやくミーウォンが黙った。

タクヴィアンはソファに座って爪を噛んでいる。


あの日、確かに言われた。


"軍から経緯について発表するのみで手打ち"


それが…!


「経緯の発表って!あれじゃあまるで!」







「なあなあ、見た?あの軍発表!」


「見たよ!あそこまで容赦ないとはなあ。」


「いや、あれは多分噂の通りだと…」


「へ?ドゥーイー男爵が?ウィズセイン侯爵を?」


「うん、煽りに煽った末路だな。よっぽど怒らせたんだろ?」


※※※


その日、主だった新聞及び国内の主要な掲示板に軍部の見解が貼り出された。なお、この措置自体は異例のものではない。軍部が関わった案件で国民に周知するべきと見做された場合にとられるよ(・)く(・)あ(・)る(・)発(・)表(・)方(・)法(・)である。




ーー軍部発表--------


一、 サクレシア姫及びハイウェル・ウィズセイン侯爵子息への暴行事件にについて


<<事件の背景と経緯>>

隣国との交渉の過程で、サクレシア姫及びハイウェル・ウィズセイン侯爵子息を中心として現地住民に対する慈善事業が始まった。

両国とも非常に協力的であり、慈善事業は順調に推移していたところに"サクレシア姫に対する暴行事件"が発生した。

犯人はサクレシア姫に対し"敵国の女に施すものなどない"などと物資の受け渡しを拒否した上、抗議したサクレシア姫を強く突き飛ばした。

その際、偶然通りかかったハイウェル・ウィズセイン侯爵子息が身を挺してサクレシア姫を守った。

(その際にウィズセイン侯爵子息が全治3ヶ月の重傷を負っている)

サクレシア姫に怪我はなかったが、王族に対する暴行事件という事で調査は進められた。しかしながら物的証拠が見当たらなかったため処罰は見送られた。


<<犯人についての見解>>

目撃証言は多数存在しており、目撃者が皆同じ人物を指し示した。当時現場は混乱を極め、物的証拠の保全に至らなかった事が悔やまれる。前述の通り物的証拠が不十分という事で処分は見送られた。


なお、目撃証言から犯人はすでに特定されている。しかしながら処罰が見送られた事を鑑み、個人名の記載はしないと決定された。

※目撃証言は全て"第一連絡・補給部隊"所属のある見習い隊員を指し示している。また当該見習い隊員は部隊内で軽口として呼称する略称"第一連隊"を公の場でも使用し、所属を詐称していた事も判明した。そのため、一部目撃証言により犯人が"第一連隊所属者"だと疑われたが、第一連隊とは一切の関係がない事を明記しておく。



二、タクヴィアン・ドゥーイー男爵子息による所属詐称事件について


先日の条約締結を祝う会において、タクヴィアン・ドゥーイー男爵子息による所属詐称事件が発生した。

同男爵子息は自身の所属が"第一連絡・補給部隊見習い"であると理解していたにも関わらず、"第一連隊"所属であるかのように詐称し周囲の誤認を招こうとした。

しかしながら、偶然に現れたケイドリック・ヨシャード第一連隊長を見ても誰か分からず、更に"初めまして"と挨拶した事で誰一人として誤認する事は無かった。

よって、本来ならば軍の所属に対する詐称は重罰が課せられるが、誰も誤認することが無かったため不問とされる事になった。


以上



上記二件について、軍部としての見解を発表致しました。この件について意見がある場合は、下記事務所までお問い合わせいただきたく…


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