第十五話 最強魔術師、ハッピーエンドを掴む
ひだまりの庭園での甘いひと時から、さらに数年の月日が流れた。
アルスがエルフィア聖王国の専属騎士となって以来、この国が魔獣の脅威に怯えることはただの一度もなかった。
彼が王都を中心に展開した『常時広域防衛結界』は、あらゆる災厄を完璧に遮断し、今や聖王国は大陸全土から「世界で最も安全で平和な理想郷」と称えられるまでになっていた。
そして今日、その平和の象徴たる王都の大聖堂は、かつての叙任式をも遥かに凌ぐ、純白の光と祝福の歓声に包まれていた。
「アルス様、本当にかっこいいですわ……!」
「見ろよ、あの帝国を追放された青年が、今や我が国の最高位の『聖騎士』にして、聖女様の旦那様だぞ!」
大聖堂の鐘の音が、高らかに王都の空へと響き渡る。
今日は、アルスとエルナ様の『世紀の結婚式』の当日だった。
ステンドグラスから差し込む七色の光の中、バージンロードの先で待つ俺の元へ、ゆっくりと歩みを進めてくる女性がいた。
純白のウェディングドレスに身を包んだエルナ様だ。レースのベールの向こうに見える彼女の顔は、言葉を失うほどに美しく、そのサファイアブルーの瞳には、嬉し涙がうっすらと浮かんでいた。
俺の前に立ったエルナ様が、そっとベールを上げられる。
その瞬間、彼女はいつもの、俺だけに最初に見せてくれたあの愛らしい、太陽のような笑顔を咲かせた。
「お待たせいたしました、私のアルスさん。……いえ、今日からは、私の大切な旦那様、ですね?」
「エルナ様……本当に、綺麗です。俺のような地味な男が、あなたの隣に立つ夫になれるなんて、今でも夢を見ているんじゃないかと思います」
俺が少し照れながら本音を口にすると、エルナ様はドレスの裾を揺らしながら一歩踏み込み、俺の手を両手でぎゅっと包み込んだ。
「夢なんかではありません。あの日、大森林で行き倒れていた貴方を拾った時から、私の心は決まっていたのです。貴方が私の盾となり、私が貴方の帰る場所になる。その誓いは、これから一生、何があっても変わりません」
その言葉にゴクリと固唾を呑む。
大聖堂の神官長が、二人の前に聖書を掲げる。
「新郎アルス、新婦エルナ。健やかなる時も、病める時も、互いを愛し、敬い、生涯を共にすることを誓いますか?」
二人は同時に、まっすぐにお互いの目を見つめ合った。
「はい、誓います。俺の結界は、これから紡がれる二人の未来と、エルナ様の笑顔を永遠に守るためにあります」
「はい、心から誓います。私は一生、貴方の最愛の妻として、貴方に最高の幸せを捧げ続けます」
割れんばかりの拍手と、祝福の花吹雪が大聖堂を埋め尽くす。
誓いのキスを交わした瞬間、エルナ様は完全に顔を真っ赤にしながらも、幸せそうに俺の胸へと飛び込んできた。
式典が終わり、王宮のバルコニーから、街を埋め尽くす数万の市民たちへ向けて二人が手を振る。
その隣で、エルナ様は俺の腕にしっかりと自分の腕を絡め、幸せそうに体重を預けてきた。
「アルスさん。これから始まる二人の新しい生活、とっても楽しみですね。まずは……新婚旅行は、前に約束したあのお魚の美味しい港町へ行きましょう?」
「はい、どこへでもお供します。これからは公務ではなく、本当の『デート』ですからね」
「ふふ、もう、甘い言葉が上手になりましたね。……あ、でも、旅行中も夜はちゃんと、私に膝枕をしてくださいね? 奥様からの絶対の命令ですよ?」
いたずらっぽく微笑むエルナ様に、俺は降参するように苦笑した。
帝国を追放され、すべてを失ったあの絶望の日。しかし、あの終わりがあったからこそ、俺は世界で一番優しくて、世界で一番愛おしい、最高の宝物に出会うことができた。
俺たちが紡ぐ幸福な結界は、これからの未来、どんな悪意も絶望も寄せ付けることはない。
最強の結界術士と、彼を最愛の夫として迎えた聖女の物語は、溢れんばかりの愛と笑顔に包まれながら、どこまでも続く光の道へと、末永く幸せに続いていくのだった。
ということで完結になります。
最近は書くことに力が入らない中で書き出した一作。最後まで読んでくださりありがとうございました!
次回以降の作品でも期待に添えるよう頑張ります!




