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【祝16.3万PV❗️】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
第1部 少年期・1章 異界の記憶篇

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4話 人狼の幼馴染、魔法の定義

長い付き合いになる主人公の友人が初登場する回でもあり、この世界の「魔法とは何か?」が分かる回となっています。

 ぎらりとした夏の太陽が中天に昇り始めた頃。


 幼い弟子の手を引いたヴィオレッタは、


「ああ里長(さとおさ)様、どうも~。今日はこちらで?」


「いや、アルが居(お)るでな。食堂にするつもりじゃ」


「あら、ほんと。アルちゃんもこんにちは」


「こんちはっ!」


 住民らと親しげに挨拶を交わしつつ、煮炊(にた)き場を横目に通りを往(い)く。


 隠れ里の食事時は、冬場でもこういった具合に活気づいている。

 

 夏場の今は熱気で少しばかり蒸し暑いくらいだ。


 そこいらに腰掛け、片や泥で服を染め、片や武骨な胴当てをつけた住民が、


「よ、お疲れさん。って何だおい、泥だらけじゃねえか」


「おーう。それがな、北の外れに新しく陽当(ひあ)たりの良い丘を見つけたつって、今棚田(たなだ)作ってんのよ」


「あー……そら汚れるわな。あ? ちょい待て。んじゃあ」


「そっちも声掛かるんでねえの? 新しく道通さなきゃならんだろうし、戦士団の出番だろうさ」


「魔獣、多いのか?」


「北門抜けた先だもの」


「忙しくなりそうだなぁ」


 などと、同じ椀(わん)を片手に寛(くつろ)いでおり――


「ひゃあ~参った参った」


「どしたんだい?」


「狩った獲物が氷穴(ひょうけつ)に落ちてよぉ、引き上げるのに苦労したんだこれが」


「あらら、そりゃお疲れさま。はいよ」


「おぉ、あったけえ。森んなか寒くってな」


 中央広場の方でも似たようなやり取りが交わされている。


 ヴィオレッタはそれを見て、穏やかに紫紺(しこん)の瞳を細めた。


 誰も彼も種族はバラバラ。だが、気にした様子はない。


 ゆえにこそ、彼女はこの風景が好きだ。


 この光景は、基本的に単一民族で集落を築く魔族が手を取り合ったからこそ、里建造時に生まれ、発展してきた隠れ里の象徴たる文化なのだから。

 



 中央広場から少し外れた食堂。


「おっ、里長様にアル坊じゃないか! 何にする?」


 師弟が開け放された戸を潜(くぐ)るなり、慣れたように声を掛けられた。


「儂は竜魚(りゅうぎょ)の甘酢揚(あまずあ)げを貰おうかの。アルは?」


「ぼくもおんなじの。あんまりすっぱくないやつ」


 竜魚とは季節外れの鯉のことだ。脂(あぶら)の良く乗っている魚として知られている。


「あいよぉ~」


 2人が料理を待っていると、直(す)ぐ後ろで声が上がった。


「おっ、アルだ」


 片方は子供の、威勢良く高めな声。


「ヴィオレッタ様もいらしたのですね」


 もう片方は大人の、深みのある低い声だ。


 くるりと左に振り返ったアルクスは、にっかりと笑った。


「や、マルク。マモンおじさんもこんちはっ!」


「よっ」


 ひょいと手を上げたのは、つんつんさせた葡萄茶(ワインレッド)髪に、灰紫(はいむらさき)の瞳の少年。


 同(おな)い年(どし)のアルクスより少し背の高い、マルクガルム・イェーガーだ。


「やあ、アルクス」


 そして、大人――彫(ほ)りの深い相貌(かお)に上背(うわぜい)のある筋肉質な男性がマモン。


 ルミナス家とご近所付き合いをしている人狼族(じんろうぞく)の父子(おやこ)である。


「牙猪(きばいのしし)の煮込みを頼む」


「はいよっ」


 と、注文するマモンを横に、


「今日はヴィオ様もいっしょか?」


 ひょこっと左に座した幼馴染からの質問に、


「そっ! 授業だったから、魔術の! まぁ今日が初めてなんだけど」


 アルクスは僅(わず)かに尻すぼみながら元気いっぱいに応えた。


 どうやら期待以上だったらしい。ヴィオレッタが微笑ましく見下ろすなか、


「へー、じゃ毎日やってたあの訓練、ごうかくしたんだな。そのうちおれにかっけー術とか教えてくれよ」


「え? ああうん、そだね。かんがえとく」


「おいなんかてきとーだぞ! たのむって~」


「なら、さっきマモンおじさんがたのんでたお肉、マルクの分をひと切れもらおーか」


「あっ、きったね! 足もと見やがって!」


「せーとーな対価ってやつさ」


「どこがだよ!」


 幼馴染同士でやいのやいのと言い合う。


 そこで、息子の傍(かたわ)らに座ったマモンが徐(おもむ)ろに口を開いた。


「アルクス。昨日、ヴィオレッタ様から話は聞いた。あいつとトリシャの子だからそう心配もしてないが、何かあったら俺達に言うんだぞ?」


「ほぃ? うん……じゃないや。はい……?」


 で、いいのかな? というか、何かあったら?


(もしかして転生者ってイジメられちゃったりする……?)


 アルクスがそう問いたげに紅い瞳をぱちぱち。


「……」


 マルクガルムは真剣な顔で隣の少年を見た。


(そこまで、変わってねー……のか?)


 直前の会話にしたって、これまで兄弟のように接してきた幼馴染と今のアルクスに、大きな変化は見られない。


 精々(せいぜい)、喋り方がほんの少し賢そうになったくらいだ。


 ――けど、確かめねーと。


 己の感覚が正しいのか。


「なぁ、あのさ……アルはアルのまんま、なんだよな?」


 ゆえに、昨日からずっと考え続けていた質問を真っ直ぐ、不器用にぶつけた。


「はあ? あったりまえじゃん」


 答えはあまりにド簡潔(シンプル)。


「いきなりどしたの?」と、続けられる。


「いや、そか……そんならいいや!」


 心配して損した! と、マルクガルムは心からひと息ついた。


 それほどの即答っぷりだった――のだが、『変なものでも拾い食いしたんじゃない?』と胡乱(うろん)な視線のおまけ付きだ。


(このヤロ……)


 イラッとしたような、スッキリしたような気分で、牙猪と芋の甘辛煮(あまからに)をパクつき始めるなり、


「あっ、お肉ひと切れはさき払いだからな」


 アルクスが人の気も知らないでのたまう。


「ふざけんな。術教える時にも絶対なんかよーきゅーする気だろ。魚ひと口と交換だ」


「しょーがないなぁ。――ほい」


 ころん。と、つけ合わせの人参がマルクガルムの皿に乗った。タンパク質を寄越す気はさらさらないらしい。


「ほらよ」


 が、そこは幼馴染。アルクスの皿に芋がぽてっと転がった。


「んにゃろう」


「お前が先に始めたんだからな」


 5才児2名がぶーぶー言い出す。


 それを見守っていたヴィオレッタとマモンは顔を見合わせ、苦笑を零した。


 ――変にこじれなくて本当に良かった。


 そんな思いが子供達に伝わることはない。


 結局、しばらくおでこをぶつけ合って「お肉!」「魚!」と要求し合っていたアルクスとマルクガルムの幼馴染二人組(コンビ)は、


「食べ物で遊ぶんじゃありません」


 と、真っ当なお叱(しか)りを受けたのであった。



 * * *



 それからしばしの後。

 

 研究室に戻ったヴィオレッタは太煙管(パイプ)を置き、ややまったりとした雰囲気で午後の講義を再開した。


「午前中に言うておった魔法について解説をしようかの」


「魔術とわけるくらいちがうんですか? んと……あー、定義が」


 茶杯(カップ)を液筆(ペン)と写帳(うつしちょう)に持ち替えたアルクスがすかさず問う。


「うむ、ある。魔術とは――鍵語(けんご)を用い、術式を描くことで望む現象を引き起こす”技(・)術(・)”じゃ。先刻(さっき)も言うたの」


「はい」


「しかし、魔法は技(・)術(・)で(・)は(・)な(・)い(・)のじゃよ」


「え……?」


「無論、魔力を消費する――これは変わらぬ。じゃが魔法とは、我々魔族や一部高位の魔獣や魔物のみにしか宿らぬ、種族固有の”特(・)殊(・)能(・)力(・)”のことを指す。人間や獣人族には発現せぬものじゃ」


 アルクスは咄嗟(とっさ)に液筆を走らせ――……書き綴(つづ)った言葉の意味を理解した途端、はたと手を止めた。


「特殊能力って……それじゃ魔法ってもしかして、半魔族のぼくにはあつかえない……んですか?」


 最も気になったのは、その点だ。


 なぜなら――彼の母は龍人族。そして、父(・)は(・)人(・)間(・)。


 つまり、アルクス・シルト・ルミナスは半龍人。


 里にたった1人しか居ない半魔族だからである。


「正直……儂(わし)にも見当がつかぬ。前例がないのじゃ。まったく発現せぬか、中途半端に発現するか――はたまた別の形となるか。こればかりは、汝(なれ)が初めて発現させたときにしか分からぬ」


「いつ、はつげんするものなんですか?」


「種ごとに異なっておるからのう。汝(なれ)はトリシャの血を継いでおるから、発現するとすれば”肉体変化(にくたいへんげ)”の類じゃな。その手の種は大体、今の汝くらいから十才くらいまでの間になる」


「そっか……」


 アルクスは紅い瞳を僅かに伏せた。


 そういった兆候は未だない。が、興味を抑え切れず、こう訊ねた。


「かあさんの魔法ってどんなんですか?」


「龍人族の魔法は【龍体化(りゅうたいか)】という。太古に存在していたとされる龍の翼や爪、牙、鱗、角を己(おの)が肉体に宿すというものじゃ。


 飛翔能力を得るだけでなく、身体能力、属性魔力の砲撃に対する耐性も大幅に上昇する――いわば戦闘形態への移行じゃの」


「せんとー形態!?」


(うわ、絶対カッコいいやつじゃん! 知らなかったら『しょうがないかぁ』くらいで済んだのに! ウカツに聞かなきゃよかった!)


 と、アルクスは心中で己を罵倒(ばとう)した。


「言うておくが、どの種族も戦闘に向いた魔法というわけではないからの? 地味なのも多々あるのじゃぞ。それに、まだ扱えぬと決まったわけでもなかろう?」


 ヴィオレッタが優しく諭(さと)す――が、慰(なぐさ)める響きだけは隠せない。


「じゃあぼく……魔法がはつげんしなくっても、バカにされたりしませんか?」


 すっかり悄気(しょげ)たアルクスが、いじけたように唇を尖らせれば、


「安心せい。そんな戯(たわ)け、儂自らが里から叩き出してやるわい」


 ほっそりした手によって銀髪を穏やかに梳(す)かれる。


 師の美麗な相貌(そうぼう)には、艶然(えんぜん)ながらも不敵な笑み。


(やっぱり……)


 この頼もしい師が自分を弟子にしてくれたのは、きっとそれが大きな理由だろう――と、幼いなりにアルクスは確信らしきものを得た。


 母と親友だから。里長だから、というだけでは、決してない。


 ――だったら、魔術だけでも頑張ればいい。


 大好きな母や尊敬する師が、自分のせいで馬鹿にされないように。


 ――前世の記憶だって、使いようだ。

 

 と、持ち前の切り替えの早さで決意を新たに、紅い瞳をきりりっとさせて、こくっと頷く。


 ヴィオレッタはそんな弟子のいじらしさに口元を綻(ほころ)ばせた。


 訊かずとも、何を考えているかくらい分かる。


 きちんとした言葉を喋るようになる前から、面倒を見てきたのだから。


「さて、初日の講義はこんなところにしておこうかの。明日からは実践も織(お)り交ぜていくゆえ、よーく休んでおくのじゃよ?」


「はいっ!」


「うむ。では、まだ陽の沈まぬ内にお帰り」


「ありがとーございましたっ!」


 アルクスは勢いよく頭を下げ、大事そうに写し帳を抱えて、ヴィオレッタ宅を後にした。


 里を一直線に縦断する帰路は、やはり子供には少し辛い距離ではある。


 それでも、その足取りは軽いものだった。

いつもリアクションを下さっている方々や、評価して頂いた方々、本当にありがとうございます!

大変励みになっております。


コメントや誤字報告などなど、気が向いたらいつでもお待ちしております。

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