0話 甦る死の記憶(アルクス5歳の夏)
今回が導入になります。
???年前、現代日本。
都内近郊のコンビニ。
緑褐色のMA-1を着た男――長月は、隣の革ジャンを着た友人へ「やってられん」と愚痴を零した。
「せっかくのツーリングでこれだよ。こう寒いんじゃ、走れたもんじゃない」
午前10時を過ぎているというのに、空はどんよりと暗い。1泊2日のツーリング計画は、この悪天候では台無しだ。
「しゃあない。とっととゴールの温泉に行こうや。雨が降ってないだけマシさ」
「直行かぁ……」
渋る長月だったが、指先も千切れそうな寒さに、結局は折れた。
「わーったよ、目的地直行な。ルート決めようぜ、コーヒーでも飲みながら」
「おけ。あ、俺はロイヤルミルクティーで」
「その訂正は要らねえ」
他愛もない会話を交わし、買い物を済ませた2人は、スマホを片手に店外の駐車場へ向かった。
2台並ぶバイクのタンクが鈍色の空を映している。
ふと、1台の軽トラが目に入った。店の入り口近くに、バックで駐車しようとしている。
(気持ちは分かる)
長月がそんな益体もないことを考えた、その時。
ブィィィィィ――ン!
耳に突き刺さる、異常に高いエンジン音が。
そして、次の瞬間。
「は……?」
軽トラがタイヤ止めを乗り越え、猛烈な勢いで加速した。
その先には、スマホに目を落としたまま歩く友人の背中。
「斎藤ぉ!!」
長月は咄嗟に全力で友人の身体を突き飛ばした。
直後、『グシャッ、メキャッ』という悍ましい音が、身体の内側から響く。
巨大な重機にでも握り潰されたかのような、未体験の圧力。
景色が明滅する。
地面に転がった長月の視界に、不自然に折れ曲がった己の腕が映った。
袖口からこぼれるホットコーヒーが……熱くない。違う、熱を感じない。
「長月っ! 長月ぃっ!? おい車どけろ! どけろっつってんだ!!」
斎藤の絶叫が聞こえたが、何枚もの襖で仕切られたかのように音も遠い。
軽トラは、長月を巻き込んだままコンビニの店内にまで突っ込んでいた。
カヒュー……コシュー……。
と、掠れた雑音が、自分の呼吸音らしいと理解するのに長月は数秒掛かった。
「――っ! ――!」
涙ぐんだ友人が赤黒いスマホ片手に何か叫んでいる。が、もう理解できない。
(ああ……悪ぃ、やっちまった)
せっかくの休日を、凄惨な事故現場に立ち会わせてしまった。
「……あ゛んま゛、気にずんな゛よ」
長月は人の良い友人へ、最期の手向けを絞り出した――が、言えたかどうか。
しかし、言ったことにして意識をふっと手放す。
こうして、長月という男は呆気なく命を落とした。
* * *
「アルっ!? アル!! アルクス!! 大丈夫か!?」
聞き覚えのある声に少年がゆっくりと眼を開けば、紫紺の裾長外衣を纏う妖艶な美女が、心配そうな顔をしていた。
悠然と構えている彼女の姿しか知らぬ彼――アルクスは、紅い瞳をパチパチさせて面食らいつつ、銀髪をふよふよさせて頷いてみせる。
途端、紫紺の美女はホッと笑みを浮かべた。
「あんな無謀な真似をするとは思わなんだぞ。効果が二乗されて吹き飛ばされたのじゃ。ま、じゃがもう安心せい。儂とっておきの『治癒術』掛けたからの。
――む? まだぼーっとしておるようじゃが、本当に大丈夫か? どこか変なとこがあるかの? やっぱりもう一度術を掛け――」
と、捲し立てる彼女――否、魔術の師を遮って、何もかも思い出したアルクスはこう告げた。
「ししょう。ぼく、前世のきおくがあるみたいです」
コメントや誤字報告、評価など頂くと大変励みになります!
是非とも応援よろしくお願いします!




