6話 第一戦! 耳長娘の秘策!
2023/10/10 連載開始致しました。
初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。
前回の続きとなります。なにとぞよろしくお願いいたします。
アルクス達の前には突貫工事とは思えないほどに鬱蒼とした森のような武闘場が広がっていた。
これがたったの一日で用意された場であるなどとは到底信じられない。
一昨日のことである。
アルの師であるヴィオレッタは告げた。
4人で一党を組むだろうし、何より纏まって動く以上頭目は絶対的に必要不可欠である。
その為に総当たりで個人戦を行い、互いの実力を理解したうえで頭目を決めるように、と。
人狼族のマルクガルムも鬼人族の凛華も森人族のシルフィエーラも3人とも純粋魔族。
半龍人のアルも大別すれば魔族だ。
最初は「頭目なんて誰でも良くない?」くらいの反応だった4人だが、力試しや闘いの場を用意すると言われれば血も疼くというもの。
殺し合いではない純粋な力と技術のぶつけ合い。
単純にわくわくしていた。
そして今日はその初日である。
「うっわぁ! お父さん達、張り切ったんだねえ!」
「武闘場だって言われなきゃわかんねーなぁ」
「観客席まであるわよ! アルが前世の歴史にあったって言ってた……えー、何だったかしら? あ、そう! 闘技場! それってこんなのだったんじゃない?」
「森とかはなかったんだろうけど、観客席とか造りの根幹思想は似たようなもんかも?」
最初に感嘆の声を上げたのはエーラだったものの、全員が似たような心持ちだ。
「見られながら闘うのか。つーか見えんのか? あれで」
マルクが至極まっとうな疑問を口にする。
小規模ではあるが鬱蒼とした森だ。観客席から見える気がしない。
「そこは師匠が何か考えてんじゃない?」
「ま、どっちにしろ全力で闘っていいってことだよな?これ」
「だね」
と、そこで凛華がクルリと振り向いて笑顔を浮かべる。
随分とまた好戦的な笑みだ。
「三人とも、手加減はしないわよ?」
「手加減して勝てるとか思ったことないって。ていうか加減しない人に加減したら瞬殺されちゃうじゃん」
「右に同じ。お前が一番加減しねーからな」
即答したアルとマルクに凛華は綺麗な顔を不満そうにして、きりきりと眉を吊り上げる。
そんなイメージなの? みたいな顔をしているが2人からすれば妥当な返事である。
「アルは『封刻紋』解くの?」
エーラが訊ねるとアルは即座に首肯した。
「他相手ならともかく、三人が相手なら龍眼がまともに使えるとこまでは解くよ。それ以上はどこでおかしくなるかわかんないからやめとく」
3時まで封印の針を戻せば龍眼は使える。
しかし龍気と龍焔は使えない。それが現状のアルの精一杯。
それだっておそらく長時間解いたままでいるのはそう良い状態でもないだろう。
「そ、一応今のアルの全力ね。楽しみにしてるわ」
好戦的な凛華に、
「お手柔らかに頼むよ」
アルがサラリと言う。
が、凛華はジト目で更に言い返してきた。
「やぁよ。そんなこと言って魔術で落とし穴にでも嵌めるのがアルじゃない」
「それはエーラだよ」
「ちょっと! ボクそんな卑怯な真似しないよ!」
「ひ、卑怯ってそんな……」
「ほぉら、やっぱりあんたじゃないの」
エーラのあんまりな物言いにアルはショックを受ける。
そこへヴィオレッタがやってきた。
今の彼女は里長として来ているので、4人もすぐさま姿勢を正す。
「四人とも準備はできておるようじゃの?」
「「「「はい、先生(師匠)」」」」
「うむ。儂も今更とやかく言わぬ。これが対戦表じゃ」
そう言って広げられた対戦表には、この3日間で1対1をそれぞれ3回やる旨が書かれていた。内訳はこんな具合だ。
初日:アルクス対シルフィエーラ、マルクガルム対凛華
2日目:マルクガルム対アルクス、凛華対シルフィエーラ
3日目:シルフィエーラ対マルクガルム、アルクス対凛華
「初っ端からボクらだね! アル、遠慮はなしだよ?」
「もちろん。本気で探さないと見つかんないだろうし」
なんと言っても森人だ。
この森林を切り取って来たかのようなフィールドではエーラの方に分があるだろう。
「では、準備は良いかの?」
4人は顔を見合わせたあと、屈託のない笑顔を浮かべて勢いよく頷いた。
* * *
数十分後。
アルとエーラは武闘場を挟んだ真向かいに立っていた。
もう今は互いの姿も見えない。
少し離れたところには観客席に座る4人の両親や兄弟をはじめとした住民達がいる。
4人に年齢の近い者や彼らの闘いを見たい者のほとんどが来たようだ。声援が聞こえてくる。
すると『拡声の術』を使っているらしいヴィオレッタの声が大きく響いた。
「これよりアルクス・シルト・ルミナス対シルフィエーラ・ローリエの模擬仕合を行う! 皆には見辛い部分もあるじゃろうが、儂の使い魔達を配置しておる! そやつらの目に映ったものが、そこの『連血水鏡』に映る仕組みとなっておるから、くれぐれも武闘場に入ったりはせぬように!」
中継ドローンの如く使い魔達をそこかしこに配置して、大型モニターも斯くやといった巨大な『水鏡』に映す形を取ったらしい。
アルは師の発想力と実行できるだけの技術力に子供のように高揚した。
この為に作ったようだが、少し工夫すれば里の防衛や周囲の監視にも使えるとんでもない魔術だ。
キラキラした眼で『連血水鏡』を見ているアルに気付いたヴィオレッタが苦笑すると、
「これアル、後で教えてやるから今は目の前に集中せい。二人とも、準備は良いかの?」
アルはハッとして表情を切り替えた。エーラも似たような面持ちだ。
2人が頷いたのを確認したヴィオレッタは「すうっ」と息を吸い込み、
「では……はじめえぃっ!!」
と高らかに闘いの火蓋を切った。
☆ ★ ☆
アルが模擬仕合のエリアに入ってすぐだ。
風切り音と共に3本の矢が飛来した。
位置を正確に把握して放たれたようで、空から1本、大地から挟み込むように2本。挟撃だ。
「よ、っとぉ!」
アルはよくよく引きつけた上で一気に前進してそれらを躱す。
先に避けていたとしても、軌道修正しながら回避した位置へ飛んでくるのが森人族――というか今のエーラの矢だ。
『精霊感応』と弓術の組み合わせ。
ほとんど追尾矢と呼んで差し支えないだろう。
それにしても――――……。
「あの距離でもう見つけてるのか……!」
今更ながらにアルは『ズルい』と心中で漏らした。
当然だが、こちらはエーラの居場所など掴めていない。
射られた方角から推察しようにもあの矢の軌道ではそれも難しい。
そして彼女は一ヶ所に留まり続けるような間抜けでもない。
索敵から始めなければならないアルと、すでに森から教えてもらっているエーラ。
状況は圧倒的に不利だ。
「でもそれは、予想できてたよ!」
アルは一つ呼気を吐いて気合を入れると、エーラを補足すべく駆け出した。
☆ ★ ☆
エーラは樹上で歯噛みする。
「うっそ、あれも避けるの!? さっすがアル!」
初動の3射に加えて既に19射。
『精霊感応』で的確に捉えて死角から射貫こうとしているのに、さっきからギリギリで躱され続けていた。
1射ずつ、などという生温い射方はしていない。
基本的には3射セットでタイミングをズラしながら射っているのにも関わらず、掠ってすらいない。
『封刻紋』で龍眼を普段使いしなくなったアルの気配察知能力が抜群に上がっているのだ。
六道穿光流との相性も良いのか、とんでもない反応速度で躱す。
目が追いつくより先に動いている。そう形容できそうな動きだった。
「やるね! でも!!」
エーラは木から木へと飛び移りながら洋弓型に切り替えて上空へ2射、木々の隙間を縫うように4射した。
洋弓型に変更した理由は和弓型の飛距離と精密性を重視した追尾矢では全く当たらないと判断したからである。
速射性に重きを置いた上空からの2射に、アルは素早く反応した。
立て続けに射られたにも関わらず、到達距離までの軌道を変えることでしっかりと着弾時間に差をつけられた矢に対して急制動をかけ、反転して飛び退りながら躱す。
そこに残りの2射が空中を泳ぐ海蛇のように襲い掛かった。
「う……!?」
と呻き声を上げながらアルはどうにか上体を低くして躱してのける。
やはり驚異的な反応速度だ。
だが躱されたエーラは焦っていなかった。
なぜなら、そこに釘付けにすることこそが狙いだったからだ。
「今! やっちゃって!」
いつの間にかアルの近くまで寄って来ていた彼女が、触れていた木々に呼びかけた――――。
途端、彼女の意を汲んだ周辺の木々の根が地面から、枝が空中を奔り、ビュゴオッと勢いよくアルへ迫る。
「っ!?」
アルの表情に初めて本気の焦りが浮かぶ。
すぐさま太刀を抜き、人の腕程の太さで迫る根や枝を咄嗟ながらも斬り払って迎撃。
しかし、エーラはこれでもまだ焦らない。
仕留められるなどとは考えていなかった。
なにせ彼女の最も警戒している相手はアルなのだ。
そのアルが跳躍して根を躱し、着地際に枝もろとも叩き斬る。
その瞬間、エーラは一瞬の空白――着地の衝撃を逃すための僅かな刹那を捉えた。
(今っ!)
耳長娘の両眼が新緑に輝く。
「そこだよ!」
直後、着地したアルへ間髪入れずに巨大な拳を象った根が叩きつけられた。
「ぐぁっ!?」
横合いから強かに殴り飛ばされたアルはなんとか身を捻って体勢を整え、
「くッ!」
ザザ――――ッ! と、着地したと同時に気配を感じた方へ苦無型の雷を投げつける。
だが、エーラは木々へ紛れるようにスウッと消えていった。
☆ ★ ☆
生木に当たった雷が爆ぜて消える。
アルは思わず痛みに顔をしかめた。
「いっつつつ……」
(エーラが【精霊感応】の格が上がったって喜んでたけど、あれがそうか)
あんなものが飛んでくるとは予想もつかなかった。
【錬想顕幻】。
精霊にこうしてああしてと頼むのではなく、より強固な己のイメージを伝えて象らせる【精霊感応】の更にその先。
一口に厄介で済む代物ではない。
――どうする?
考えている内に森人少女の気配が遠ざかっていく。凄い捷さだ。
アルには想像もついていないが、エーラはツタや枝を蜘蛛の糸のように伸ばして縦横無尽に不規則な動きで飛び回っていた。
あそこまで近寄ったのは【錬想顕幻】のイメージをより強く、細かくするためである。
「このままじゃ負けるな」
そう呟いたアルは左掌を心臓に向け、カチカチカチッと一気に『封刻紋』を反時計回りに回した。
”鍵”が封印を解除し、長針が3時を示す。
アルの髪が一気に灰色へ、瞳が緋色へと変わった。
(これで龍眼が使える)
即座に緋瞳の瞳孔が細くなり、右眼の『釈葉の魔眼』も発動した。
ピイッ! と、いう風切り音と共に飛来した矢を気配だけで避けつつ、周囲に目を配る。
やるべきことは一つ。一刻も早く彼女を見つけること。
アルは左手に太刀を持たせ、右手の人差指と中指で刀印を作って鍵語を浮かび上がらせた。
しかし、エーラの方もこちらが何かしようとしていることには勘付いているようで、させまいと矢が幾本も迫ってくる。
アルは動体視力の上がった龍眼でそれらを捉え――――1射、2射と躱し、死角から飛び出してきた1射を身体ごと左回転しながら斬り払う。
「何か良い手は……!」
遮蔽のある森へと飛び込み、走りながら術式を組んでは霧散させていく。
彼女に辿り着くための一要素は、いまだ閃かない。
☆ ★ ☆
また躱された。
「うぅ~、もうっ!」
エーラは毒づく。
先程から何やら術式を組もうとしているアルの妨害をしているが、一向に当たらない。
龍眼を使い始めたせいで斬り払いまでするようになった。
すべて死角から射かけているというのに。
「ならボクだって秘策を使わせてもらうよ!」
エーラはそう宣言すると、息をすうっと吸って集中。
洋弓型の弓を構え、『妖精の瞳』を細めた。
そして矢継ぎ早にヒュ……パアッと2本放つ。
しかし、そこで終わらない。
彼女の持つ弓がその形をギュルギュルと変えていき、戦国時代の実戦弓――――強弓へと形状を変えた。
これはこの弓の新たなもう一つの形だ。
最初に狙撃していた和弓型が追尾・遠距離狙撃を得意とし、半弓型が連射性と安定性に特化したものだとすれば、この強弓型は強力な反動の代わりに捷過ぎる矢勢を実現した威力特化の弓形である。
この強弓で放たれた矢は風の影響をほぼ受けず、最後まで引くにはエーラの筋力では足りない。
こんなものをマトモに引けるのは筋骨隆々の大男くらいだ。
だが、それで充分。
「『霊気の術』!」
エーラは弓を変化させると同時に腰を落として出来うる限りめいっぱいに弦を引き、先の2射に続くようにカァン! と、高らかな弦音と共に射かけた。
ヒュウゥゥ――――ッ!
風を劈く音が迫る。射掛けられたアルの反応も捷かった。
龍眼に捉えた初めの2射をサイドステップで躱し、最後に剛射された一矢を斬り払おうとして――――大慌てで叫んだ。
「つっ!? 『蒼炎気刃』!!」
蒼炎を色濃く纏った刃がバッキャア……ッと音を立てて太矢を叩き割る。
アルが慌てたのはその矢勢が先の二射とは比べ物にならないほど捷く、おまけに矢自体も太かったから――ではない。
ソレ以上に、その矢が森人の闘気――霊気を纏っていたからである。
エーラの秘策とは『気刃の術』を用いて、矢に霊気を纏わせることであったのだ。
アルの額に冷や汗が流れる。
左手の指先がジィ……ンと痺れていた。
(今のはヤバかった……!)
『蒼炎気刃』。アルの現状最大威力を誇る独自魔術。
以前まで使っていた『炎気刃』はアルの龍焔を纏った『焔気刃』とも呼ぶべきものだったが、今はそれが使えない。
だからこそ威力低下を補うべく改良を加えたのがこの『蒼炎気刃』だ。
それを使わなければ対応できなかった。つまり使わされたのだ。
アルは思考を巡らせる。
(あんなの連発されたら押し込まれて負ける。風の流れを読んで――――だめだ、風はエーラの味方だ。『蒼炎気刃』だって何度も使えば先に俺の魔力が切れる)
エーラの攻勢と激しい焦燥感に追い立てられ、脳内では探知に使えそうな要素を探すことに知識を総動員する。
そのときふと、脳裏に何かが掠めた。
それは前世で”レーダー”と呼ばれていた類のもの。
そして、ようやく閃いた。
(そうだ、熱だ……! 熱源の探知!)
刀印を閃かせ、急いで術式を描いていく。
(急げ、急げ……!)
もどかしく思いつつもサーモグラフィーをイメージした術式を完成させ、己の左目に掛けた。
(よし、これで……!)
アルの左眼が蛇の鱗のような半透明の片眼鏡に覆われる。
「どこに――……見つけたっ!!」
言うや否や魔力を真下にぶつけ、更に風で土煙を巻き上げた。
そして太刀を構えると、緋い眼光を煌めかせて一気に疾駆。
アルの姿が掻き消える。
――六道穿光流・風の型、闇の型混成構え【葉隠れ】。
一枚の落葉さえあれば事足りると言われる、隠密特化の納刀構え――ならぬ正確には走法だ。
「んえっ!? 捷過ぎる!!」
エーラは土煙で一瞬見失ったアルがその場からいなくなっていることに、ぎょっと眼を剥いた。
すぐさま精霊から情報を集めるも確認できたのはアルの残影のみ。
「精霊でも追えないなんて!」
それでも様々な方向から情報をかき集め、脳内で統合し、パンク寸前だ。
そもそもどうして急に疾走しだしたのか?
強弓の的を絞らせないためか、それとも――――……。
「もしかしてこっちを見つけたの!? もうっ! さすがだけどさ!!」
アルの実力を疑わないエーラはすぐに正解に到達した。
間違いない、先ほどの魔術はこちらを見つけるためのものだ。
それにしても捷過ぎる。これではさっきと立場が逆だ。
「いいよ、来なよアル!」
それならばと、エーラは出来るだけの罠を張り巡らせる。
大地と枝と枝の間に網を敷き、蜘蛛の巣状のツタや根をそこら中に這わせていく。
ザ…………ッ!
その時、草藪を突き抜ける音がした。緋色の残光がチラリと覗く。
「そこっ!」
洋弓型に変化させた複合弓でエーラが射かけた――が、影さえ射貫けない。
「く……ッ!」
一気に形勢逆転だ。攻勢に転じたアルが歯噛みするエーラのいる木の根元へ、抜刀しながら一気に詰めた。
「しッ!」
――六道穿光流『夜疾風』。
中伝になったからこそ可能になった、【葉隠れ】から疾走の勢いを消さずに何度も斬り抜ける剣技。
風の型と闇の型の既成混成技ではなく、アルの中で風と闇をそれぞれ解釈して出来上がった技。
「きゃあっ!?」
エーラのいたの木の幹がいつの間にか四閃されていた。
上にいる側からすれば堪ったものではない。
メリメリッと倒れていく樹上で焦ったエーラは弓を取り落としながら落ちていく。
「く、うっ!」
だが諦める気はない。弓の代わりにツタを手繰り寄せてなんとか着地。
即座にグルリと首を回したがアルの姿は見えない。
「どこ……っ!?」
エーラが声を発した瞬間、精霊が『後ろ』と囁いた。
ハッとして逆手で引き抜いた矢を叩きつける。
が、アルは読んでいたようでいなすように受け止められてしまった。
「うくっ!」
エーラも負けん気は強い方だ。
受け止められた矢をそのままに、急いでバックステップを踏む。
そしてほぼ同時に手繰り寄せていたツタを鞭のように振り上げた。
だが、そこはまだアルの距離だ。
「はッ!」
アルはエーラが自然の鞭を振り回すよりも先に彼女の懐へと一足飛びに潜り込み、腕を押さえ込んで一気に引き倒す。
「わわっ!?」
エーラは頭を叩きつけられる衝撃に身構え――――……。
とすん、とゆっくり転ばされた。
「……う?」
パチパチと驚いたように目を開いた彼女の視界に入ってきたのは、突き付けられたアルの右掌だった。
いつでも撃てるぞという意思表示だろう。
太刀の方はもう納めている。どうやらエーラに余計な怪我をさせるのを避けたらしい。
「まだやる?」
ニッと笑う灰髪のアルに、エーラはゆっくりと脱力した。
「うぅ~……もう、やっぱり強いなぁアルは。降参っ! ボクの負けだよ!」
使い魔を通して彼女の宣言を聞いたヴィオレッタがすかさず声を上げる。
「勝者アルクス! エーラもよう粘ったのう」
悔しさが残るエーラだが優しいヴィオレッタの声と、自分を起こすべく手を差し伸べるアルに「まぁいいか」と息をつき手を取った。
「転ばせたのアルなんだからちゃんと払ってよね~」
そしてガキッ、ガキッと『封刻紋』を閉め直すアルに肩をぶつけながら文句を垂れる。
「はいはい」
しょうがないなぁという顔でアルは金髪についた葉くずや土を払ってやりながら、連れ立って武闘場の外へと歩いていく。
然して時間も掛からずに場外へと出てきた2人を出迎えたのは健闘を称える拍手だった。
「二人とも良い戦いだったぞ!」
「最後のアルはまた随分捷かったなあ。遠目で見てたのにたまに見失ってたぜ」
「シルフィエーラの弓の腕もあそこまで上がってるとはな! 森人として誇らしいぞ!」
「アルクスにいちゃん、はっええ~……! 木倒したとき何回斬ったの?」
「エーラおねえちゃんもすごかった! ヒュヒュ~って一回で何本も撃ってたよ!」
里の若い魔族同士の力比べは、その内容もあって世代を問わずかなり好評らしい。
「あは! ちょっと悔しいけどありがと!」
エーラがニコニコと手を振り、アルも母や知り合いに手を振る。
そこでまたヴィオレッタが住民達へ呼びかけた。
「健闘を称えるのも良いが、あと一戦残っておる。皆の者、始められぬから少々静かにするように。それと、さっき闘った二人はちゃんと休んで観ておくのじゃぞ? 明日に響いてはいかんからのう」
観客と化した住人達が「そうだった!」といそいそ座り直し、アルとエーラもそこいらの観客席に座る。
怪我そのものはしていないが、やはり全力で戦うというのは疲れるものだ。
「エーラのあの矢、手が痺れたよ」
「まさか斬られるとは思わなかったなぁ。一発で気絶までもっていこうと思ってたのに」
「霊気まで纏わせといて? 気絶じゃすまなかったでしょアレ」
「気付いたの? 燃やされちゃうかもと思って用意しといた秘策だったんだよ?」
「燃やす余裕まではなかったよ。エーラも加減知らずだなぁ」
たは~と笑うエーラとアルがじゃれ合っているところにトリシャとローリエ家の面々が労いに来た。
「二人とも良い戦いだった。エーラも追い詰められる前の速射は私でも目を瞠ったよ」
「お疲れさまアル。ちゃ~んと見てたわよ~。カッコ良くなっちゃってもう」
エーラの父ラファルとアルの母トリシャが己が子へ銘々に声をかける。
「えっへへ、そうでしょ~?ふっふん」
「ありがと母さん」
2人は少しだけ照れ臭そうに返事を返した。
こういうところはまだまだ歳相応のようだ、と安心するトリシャとローリエ家の森人達。
「エーラぁ~! 怪我は無い? お姉ちゃんハラハラしっぱなしだったわよ~」
「もぉ~、ないよ~」
抱き着く姉シルフィリアへ嬉しそうな笑みを溢すエーラをアルが見ていると、ラファルが話しかけてきた。
「アル。まさか森の中で我々を見つける術を持っているとは思わなかったよ」
「いいえ、途中で作ったんです。あの矢を耐えるのは無理そうだったから」
「作った? ああ、そういえば『魔眼』を持ってるんだったね。あの土壇場で魔術を創るとは……ちなみにどういった術だい? 差し支えなければで良いんだけど」
「即席ですし、いいですよ。魔獣のいないあの森の中で体温が高いのはエーラだけでした。だから熱を、エーラの体温を可視化したんです」
「体温……なるほど。蛇の魔獣の感知技術を応用したのか。いやはや感心したよ」
ラファルにとってアルは娘の想い人で正直色々思うことはあるが、ユリウスの息子で小さい頃から接してきた親しい少年でもある。
ここは見守ってきた大人として、褒めるところだろうと髪をクシャクシャと撫でてやると照れ臭そうにはにかんだ。
がしかし、娘の想い人である。
目に入れても痛くないほど可愛く無邪気な次女が好いている男の子なのである。
まぁ正直優良物件であるのは否定しないし、まだエーラにそういう関係は早いんじゃないかと思っているだけでアルに対して悪感情があるわけもないんだがやっぱりまだ――――。
ラファルがそんなことをツラツラと考え始めたところで妻のシルファリスがサッと引っ張っていき、トリシャに譲った。
察しの良い妻である。
息子の隣に腰掛けたトリシャは『よくやったぞー』とアルの頬をふにふに撫でた。
されるがままの息子にクスクスと楽しそうに笑いかける。
「強くなったわねぇ、お父さんにも見てほしかったわ」
「うん」
アルの返答は短いが素直な感情が乗っていた。
居たらなんと言っただろうか?
答えはわからない。
雲一つない空は武闘場を照らし、アルとトリシャの髪を撫でるような涼風が吹き抜けていく。
「これより、マルクガルム・イェーガー対イスルギ・凛華の模擬仕合を始める! 両名とも準備は良いな? では、はじめえっ!!」
お祭り騒ぎになりつつある武闘場は再び熱を帯び始めていた。
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