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【祝16.4万PV❗️】日輪の半龍人 -異種魔導合戦譚-  作者: 倉田 創藍
少年期・3章 血の覚醒篇

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1話 5年後(アルクス12歳の冬)

本章から本格的に物語が加速していきます。

また、2章までに出てきた発展技術が出てくるお話でもあり、これが色んな意味で鍵になります。

 アルクス・シルト・ルミナスが刀術・六道穿光(りくどうせんこう)流、及び魔術に対して本腰(ほんごし)を入れるようになってから凡(およ)そ5年の月日が経過した。


 当時はまだまだ荒削りだった隠れ里の周囲も整ってきている。


 具体的なところで挙げると――中央広場の見栄えが少々良くなったり、里の周囲30km(キリ・メトロン)に『幻惑(げんわく)の術』と呼ばれる魔術が施(ほどこ)され、隠密性が更に高まったりといったところだ。


 尚、この『幻惑の術』とは、ヴィオレッタが考案・開発した新術である。


 しかし、術名のままに人の五感へと作用するわけではない。


 そも、人の精神や五感を直接狂わせるような術は存在しない、と言っても過言ではない。


 なぜなら被術者(ひじゅつしゃ)――つまり術を掛けられる本人の魔力に弾かれるからだ。


 魔術や魔法が平然と闊歩(かっぽ)しているこの世界に於(お)いても、精神に影響を及ぼす魔術など与太話(よたばなし)や御伽噺(おとぎばなし)も良いところなのである。


 ならば『幻惑の術』とはどういった術か? と言えば、効果範囲(エリア)に入り込むと一歩ごとに景色が屈折して見えるというもの。ただそれだけ。


 しかし、織り込むように一つ一つの術式を配置された原生林(げんせいりん)の中では恐ろしいまでの効果を発揮する。


 なにせ一歩進むだけで、上下前後左右の景色が不規則にズ(・)レ(・)る(・)のだ。


 現在地が判らずに方向感覚を乱されるどころか、そのまま正気を失う可能性すらあるだろう――とは、実際にその周辺域(エリア)を歩いてみた戦士の言である。




 そうして里が徐々に変わっていく数年で、アルクスもすくすくと成長していた。


 現在、12歳。


 ふわふわした銀髪はあまり変わっていないが、『可愛らしい』と奥様方に誉めそやされていた母譲りの顔立ちは、ここ数年で精悍(せいかん)さが顔を覗(のぞ)かせるようになってきていた。


 稽古は盛んにやっているものの、過度な負荷を筋肉に掛けないようにも指導されているので身長も順調に伸び盛り。


 六道穿光流(刀術)の初伝を修めたせいなのか、はたまたその異国の剣術流派と本人の親和性(しんわせい)が妙に高かったせいか、独特の悠然(ゆうぜん)さと異国情緒(じょうちょ)を滲(にじ)ませている。


 鬼人族の師――八重蔵(やえぞう)の影響を受けて、服装も着やすい和装束(しょうぞく)染みたものを好むのもそう見える一因だろう。


 また特徴的な紅い瞳は、気合や覚悟を抽出(ちゅうしゅつ)して煮固めたような強い意志の輝きが増した。


 しかし、以前より精神構造が複雑になっているので時折憂(うれ)いを表す陰りも垣間(かいま)見える。


 アルクスを可愛がってきた年上のお姉さん方には、この男性をチラリと感じさせつつも中性的な雰囲気が非常に人気だ。


 ちなみに一番喜んでいるのは母トリシャで「お母さんとあの人の良いとこ取りね。でも眼光はもう少し抑えなさい」とのことである。




 その彼の幼馴染達3人もそれぞれ成長していた。


 マルクガルム・イェーガーはやんちゃ坊主らしい顔立ちをしていたが、最近は父親譲りの野性味(ワイルドさ)が混じり始めていた。


 更に葡萄茶色(ワインレッド)のつんつん髪も伸ばすようになって久しい。が、見た目を気にするようになったからではなく、単なる不精(ぶしょう)からきている。


 人狼態で戦うなら髪の長さは影響しないし、寝癖を直すのも楽なので鬱陶(うっとう)しく感じぬ程度に伸ばすようになっただけのことだ。


 また幼馴染組の中では身長が最も高く、伸びた端から日々の稽古(けいこ)によって適度な筋肉がついていった結果、上背のあるガッチリした体躯をしている。


 アルクスのような雰囲気とはまた違う男性にクラっとくるお姉さん方は、将来有望だと言って憚(はばか)らない。




 そして女子2人。


 イスルギ・凛華も身長が伸び、本人は邪魔に思っているが母の水葵(みずあおい)から遺伝したのか、胸もすでに発達しはじめていた。


 ほぼ毎日稽古ばかりしているためスラリと引き締まった手足、一本背筋に芯の入った歩き方で風姿(スタイル)はかなり良い方だろう。


 また、見た目の印象は4人の中で最も大きく変化していた。


 雪のような白い肌に、玲瓏(れいろう)な細面。怜悧(れいり)な青い瞳。二本角を隠さぬ程度に伸ばした前髪に簡素(シンプル)な白い髪留めで一括(ひとくく)りにされた、肩ほどまである後ろ髪。


 深窓(しんそう)の令嬢染みた儚(はかな)げで大人しそうな印象から、名が体(てい)を表したような、凛とした雰囲気を放つようになった。


 その佇(たたず)まいやサッパリした性格から年下の幼女や少女達から憧れの眼差しを向けられ、凛華自身の性格をよく知る里の少年や青年達からはむしろ恐れられている。


 尚、その筆頭は兄の紅椿だ。


『あの四人のなかで一番早く手が出る』


 との噂を流しているのは専(もっぱ)らこの兄である。




 そしてもう1人、シルフィエーラ・ローリエもしっかり成長していた。


 身長は4人の中で一番低く、体型も未だ痩せ型(スレンダー)。が、母シルファリスと姉シルフィリアがそうでないので、本人に不安はない。


 小麦色の肌に乳白色を帯びた金の短髪。


 右耳に小さな羽飾りのついた装飾品をつけ、活発な印象を与える顔立ちはそのままに女性らしさが芽を出したような印象だ。


 くりくりっとした好奇心旺盛(おうせい)な眼も変わっていない。


 弓の練習を他の年下や年上の子供達より早く始め、また始めたときには魔力感知もなんとなしできるようになっていたので熟達速度が尋常ではなかった。


 また生来(せいらい)の気質が精霊に好かれやすかったらしく、【精霊感応】を使い熟(こな)し、簡易狩猟場に棲息(せいそく)する魔獣なら足留めから仕留めるまで、鼻唄交じりに一人で熟せるほど。


 一度狩りの途中で至近距離まで獲物に寄られて怪我をしかけて以来、アルクスと短剣術の訓練をするようになった。


 最初は凛華に頼んだのだが、非常に雑(アバウト)な指導の上、終(しま)いには「短剣なんて使ったことない」と、それまでを全否定するようなことを言われたため彼に頼んだのである。


 それまでには彼も何とか「刀以外も……うん、まあ見れなくはない、かな?」くらいに成長していたので一緒に訓練することになった。


 結局、後から凛華とマルクガルムも参加するようになり――短剣術を上達したいのか、短剣を使わないでも良い状況を作る稽古を積んでいるのか、今ではよく分からない状態だ。


 性格の方は、おそらく4人の中で最も変わっていない。


 老爺(ろうや)と天気の話をして飴(あめ)をもらい、年上のお姉さん達と話してお化粧道具を借り、年上のお兄さん達のコイバナに首を突っ込んで干し肉をもらい、それらを振舞いつつ年下の少年少女らと追いかけっこをする。


 そういった具合なので里の中では一番顔が広く、親しみやすい少女としても知られている。



  * * *



 今日はそんな成長著しい4人が一同に集められた。朝一番に来るように、とのことだ。


 場所は西門を抜け、訓練場(草原)の更に奥。つまり鍛錬(たんれん)場。


 アルクスと凛華が連れ立って歩いていたところへ、残りの幼馴染2人も慣れたように合流した。


「あれ? マルクとエーラも呼ばれたの?」


 アルクスが問うと、


「ふわぁ~……おう、そっちも呼ばれてたんだな~。何やるか知ってるか?」


 マルクガルムが欠伸(あくび)混じりに問い返し、


「いんや、俺たちも朝来いって言われただけ」


 4人で合同訓練でもやんのかな? と、2人で顔を見合わせて首を傾げる。


 ちなみに――アルクスの自称は10歳の誕生日を迎えたその日に「ぼく」から「俺」へと変えた。


「おはよぉ~う。二人とも、早いねぇ~」


 マルクガルムの欠伸が移ったのだろう。シルフィエーラもくぁ~っと伸びをしながら挨拶をした。


「おはよ。あたしたちもさっき来たのよ」


 凛華はいつも通りキリッとして応えた――が、朝は弱い方だ。


 アルクスと一緒に来たのも、寝坊しないよう迎えに来てくれと頼んだからである。


 そのように、4人がまだまだ眠そうにどうでも良い会話をしかけていたところで、アルクスがパッと振り向いた。


 六道穿光流を学び始めてから、気配に対してやたらと鋭敏なのだ。


 釣られた3人もそちらを見れば、そこには歩いてくるヴィオレッタと八重蔵がいた。


 ――なんで二人がいっしょに?


 4人の心の声が揃う。


「おはようじゃ、四人とも。時間をしっかり守っておるようで何より」


 ヴィオレッタは彼らへ向けて「感心感心」とにこやかに挨拶した。


「「「「おはようございます」」」」


 すぐに集められた理由を訊ねようかと思ったアルクスだったが、一度様子を見ることにして口を噤(つぐ)む。


「汝(なれ)らを集めたのは他でもない。今日から里の見廻(みまわ)りに参加してもらおう、と思ったからじゃ。時間は夕刻から宵(よい)の口、場所は里内じゃ。言ってしまえば里の守衛見習いの、さらにその見習いといったところじゃの」


 ヴィオレッタがさっさと用件を語る。


 あまりに唐突だったので、4人は目を白黒させた。


「えぇと、ヴィオ様。言われたことは聞き取れましたけど俺ら、まだ十二歳です。見廻りって早くないですか?」


 困惑から真っ先に脱け出したマルクガルムは手を上げて疑問をぶつけた。


 守衛の新人はおよそ18歳から。その見習いが15歳からというのが里では一般的。


 見習いの見習いと言われたが12歳じゃ早すぎるのではないか? そもそも必要なのだろうか?


 と、思うのも無理からぬことであった。


「うむ。それぞれの指導役から話を聞いての。里内の見廻りくらいであれば実力的に問題ないとのことじゃ。とは言うたが、ぶっちゃけ半分くらいは汝らを鍛えるのが目的じゃの」


「あの~ヴィオ様、いいですか? 仕事って、夜になっても帰ってない子供をボクらが家に帰す、とかですか?」


「そんなとこじゃの。他にも一通り見て廻って、普段の里と違う点などを見つけて報告するのも仕事じゃな。そろそろ冬も本格的になるでの、火事なんかに気をつけねばならぬのじゃ」


「あ、そういうのもあるのかぁ。えと、わかりました……?」


 シルフィエーラの質問から職務内容についてはある程度理解できた。


 凛華もそういうことならと息を吐き、気合十分といった表情だ。


 しかしながらアルクスにはまだ疑問がある。


「師匠。見習い仕事の中身はわかりました。でも八重蔵おじ――先生がいらっしゃる理由はなんですか?」


 見習い仕事を言い聞かせる為だけに八重蔵を連れてくる必要はないはずだった。


 すると、ヴィオレッタが妖艶(ようえん)に微笑(ほほえ)む。


「こっちが今日の本題じゃ。八重蔵に来てもらったのは、もう一つの訓練を前倒(まえだお)しで始めることにしたからでのう」


「もう一つの訓練? ですか?」


「うむ。魔法を覚え、魔力の扱いを覚え、身体の使い方を覚え、尚且(なおか)つ魔獣相手の戦闘経験もある。どれをとっても年齢の割には熟達しておる方じゃ。そう判断したからこそもう一つ上、その先の訓練をさせようと思ってのう」


「先の、っていうと魔術……は違うか。何ですか?」


 アルクスが首を傾げ、3人がもっと分からないという顔をする。


「魔術は有志じゃの。学びたいと思えばいつでも生徒として受け入れようぞ。が、そうではない。魔力の扱いをしっかりモノにしている者以外に扱わせると危ない。じゃから大体……――そうじゃの、早くても見習いくらいにならねば教えぬものじゃよ」


「「「「……?」」」」


 やはり分からない。


 凛華の兄の紅椿(べにつばき)や、シルフィエーラの姉シルフィリアは何か言っていただろうか?


「闘気(とうき)じゃよ。汝ら全員に資格ありと判断したから今回呼んだのじゃ。そして八重蔵はその教導役、儂が監督役じゃの」


「闘気……? って、何ですか?」


 何が何やらちんぷんかんぷんという4人の表情を見て、八重蔵は前に出た。


「里長殿、闘気の説明は俺がやりましょう」


「では頼むとしようかの」


「闘気ってのは、体内の魔力を燃(・)焼(・)させることで発生する不定形(ふていけい)の力の塊(かたまり)だ。魔力と違って属性の変質なんかは効かねえ。無属性魔力に近いが魔力を燃(・)や(・)し(・)た(・)結(・)果(・)な分、適当に魔力を放つよりも圧倒的に強力でな。


 きちんと使い熟せりゃ魔(・)法(・)並(・)。だが扱いも難しいし、加減を間違えりゃ体内魔力をすっからかんにしちまって危ねえ状況に陥る諸刃(もろは)の剣。


 特に凛華とマルクは魔法と併用するときゃ注意しとかねぇと、一瞬で燃料切れして倒れちまうぞ。あ、それと剣気や殺気なんて言われてるもんとは別もんだからな。あっちはもっと感覚的なもんだし、魔力も伴わねえ」


「ついでに付け加えるとすれば、呼び方は種族ごとで違うということじゃの。じゃが基本的な性質は何も変わらぬ。凛華であれば鬼気(きき)。アルであれば龍気。エーラであれば霊気(りょうき)。マルクであれば魔気(まき)といったところじゃの」


 即座にヴィオレッタの少々学術的な補足が入る。


 4人は思わず顔を見合わせて「うん……うん?」「むぅ~?」などと唸(うな)る。


 情報量が多い。耳馴染(みみなじ)みのない言葉ばかりだ。


 ――つまりは……魔力を体内で燃やせばいいのか。でも下手を打つとヤバいらしい。


 要件を満たさないと教えないと言った以上はおそらく、いやきっと難しいはずだ。


 殊(こと)こういった何かが今まで簡単だった例(ため)しなどないのだから。


「ま、そうなるわな」


 八重蔵は子供達の反応を見てぽつりと言う。


 そもそも魔力を燃やすというのがよく分からないだろう。


「実演してくれぬか? 効果のほどはそれでわかろう」


「うす。おーい凛華」


 ヴィオレッタの指示を聞いた八重蔵が娘に呼びかけ、


「魔法使ってこれで俺に斬りかかれ、ほれ」


 無造作(むぞうさ)に長剣を投げ渡した。


「え……? でもこれ、真剣(しんけん)じゃん」


 革鞘(かわざや)から剣身(けんしん)を引き抜いた凛華が驚く。


 父の強さはよくよく理解しているが、無手(むて)の相手に魔法まで使うのはさすがに危ないだろう。


 との危惧(きぐ)であったが――


「いいから。大丈夫だって」


 対する八重蔵は自然体そのものだ。早くしろとばかりの仕草付き。


「わかった、じゃやるわよ!」


 それに凛華もグッと気合を入れる。


 途端、彼女の顔に朱色の隈取(くまどり)が浮かび、唇にも血のように赤い紅が引かれた。


 鬼人族の魔法【戦化粧(いくさげしょう)】だ。発現したての頃より、隈取も紅もずっと色が濃い。


「知らないからね!? ――はあああッ!!」


 言うが早いか八重蔵へ目掛けて一足で間合いを詰める。


 そして唐竹(からたけ)に長剣を振り下ろした。


 がっちい……ぃぃん。


 と、高くも鈍い音を響かせて八重蔵は左手で剣を受け止め、


「ほら、こんな感じだな」


 掌(てのひら)を開いて見せた。


 斬りかかった凛華を含めて4人が目を見開く。


 そこにあるべき切創(きりきず)が一筋もない。少し赤くなっているくらいだ。


「分かったか? こんな具合で強力な武器になる。さ、そいじゃ見ててやるからやってみな」


 八重蔵はそう言うと、『説明終了、一度見せたし出来るだろう』とばかりな顔で腕を組んだ。


「いや、八重蔵よ」


「「「「そんな簡単にできるかぁ!」」」」


 あまりにもぞんざいな指導に、ヴィオレッタの言葉を待たずして子供達のツッコミが炸裂した。


 闘気はその性質上、魔力の消耗が激しい。慣れていなければ尚更だ。


 結局、その日は闘気の訓練で丸一日潰れ、へとへとに疲れ果てたアルクス達4人は口数も少なく帰路(きろ)についたのであった。

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