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【10.9万PV 感謝!】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
少年期ノ參 血の覚醒編

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断章2  大魔導の苦笑、剣鬼の困惑

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


今回は16話のちょっと前のお話になります。よろしくお願いいたします。

 アルクス・シルト・ルミナスには剣術と魔術それぞれに師匠が存在する。


 一人は隠れ里の代表であり、住民達からの信頼もめっぽう厚い魔導師のヴィオレッタだ。


 彼女ほど魔術に卓越した者もそうそう存在しないだろう。アルを含めた住人らはそう信じて疑わない。


 そしてもう一人はイスルギ・八重蔵。


 アルには極東の島国生まれの刀術である六道穿光流を、凛華()にはツェシュタール流大剣術及び双剣術を師事している鬼人族の剣豪だ。


 普段は酒好きなダメ親父で、妻の水葵に叱られている姿をよく眼にするのでどことなく三枚目な印象を受ける。


 しかし、実は大陸でも有数の繁栄国家――帝国でも有名な二大剣術の一つであるツェシュタール流の奥伝到達者である。


 更に加えて80年以上は武者修行もとい遭難から始まった流浪の旅をしていたこともあって、長剣や大剣の他にも大抵の近接武器に精通している。


 向いていないものも当然あるにあるが使えるものはそこそこに扱いを会得(マスター)している猛者だ。


 この奥伝到達者とは、その流派における剣の理を完全に理解し、常にそれが見えている者を指す。


 六道穿光流の奥伝に昇り詰められなかったのはツェシュタール流剣術を極め、そちらでの境地に達してしまっていた為だ。


 六道穿光流の師範はかつて「大陸の剣がお前の心根にある。どちらを選ぶかは自分で決めろ」と八重蔵に言った。


 つまりツェシュタール流の理を綺麗さっぱり捨て去らない限り、六道穿光流の秘奥には辿り着けないという意味だ。


 八重蔵は丸一年悩みぬいた末、ツェシュタール流を捨てない選択をした。


 ゆえに六道穿光流については何年経とうが中伝のまま。


 だが、その決断に後悔はない。


 以上の点から何を主張したいのかと言えば、イスルギ・八重蔵とは紛れもない大剣豪であるということだ。




 その八重蔵は現在、頭を抱えていた。


 尚、その彼に呼ばれたヴィオレッタは「来てほしい」と頼まれた時こそ『何用だろうか』と訝しんだものの今は苦笑を浮かべている。


 なぜなら眼前の光景を見て、なんとなく理由を察したからだ。


 ヴィオレッタと八重蔵の視線の先で繰り広げられているのは、11歳になったアルと凛華の地稽古であった。


 2人が10歳になった頃、稽古中の魔力使用を許可したので今や何でもありの実戦形式である。


『魔法も、属性魔力も、魔術も織り交ぜて構わん』


 八重蔵がそう告げて1年が経つ。


 今はそれが遠い昔のようだ。



 ☆ ★ ☆



 左手には銀光揺らめく打刀。切っ先か柄頭は常に相手の喉元へ。


 体勢を低くしたアルが銀光を棚引かせて凛華へと駆ける。


 縦長の黒いスリット状になった瞳孔――龍眼もどきはとっくに発動済み。


 待ち構えていた凛華は手元で重剣をグルンッと回す。


 こちらも朱色の隈取に血のような赤い紅――【戦化粧】を発動済みだ。


 凛華の間合いまでもう一歩。


 と、いうところでアルが急減速した。


 凛華の眉がピクリと動く。


 踏み込むべきか否か――……。


 だが、彼女の迎撃の一手を待たずして、アルは右手で炎杭をボ、ボヒュッとばら撒いた。


 擲たれた炎杭が地面に当たったと同時、小爆発を起こす。


 ただの炎ではこうはならない。


 ”特質変化”まで加えた、火炎瓶のようなシロモノだ。


 薄く生えていた雑草を灼き払って地面が捲れ上がり、舞い上がる土が熱によって性質を変えながら凛華を襲う。


 当たれば火傷間違いなしの大粒火花に対し、凛華は直撃しそうなものだけを選び取って重剣で防ぎ、あとは右斜めにバックステップを踏んで避けた。


 そこへアルが猛烈な勢いで間合いを詰めて打刀を振るう。


「しッ!」


 胴狙いの綺麗な左薙ぎだ。


 属性魔力による攻撃で凛華の意識を逸らし、本命の刀で取る。そういう狙いだった。


 しかし、凛華も慣れたものできっちり対応してみせる。


 重剣を地面に突き刺し、刀身がその何倍もある剣身に当たった瞬間に「だあッ!」と跳ね上げて逸らした。


 アルもこの展開はいつものことなのか弾かれても一顧だにせず、走り抜けて身体を反転。


 勢いのままに2歩、3歩と飛び退りながら左手の刀印をくるっと回す。


 浮かぶは規則正しい鍵語の群れ。即ち術式。 


 凛華とて受け身でいるつもりなど毛頭ない。


「ふッ!!」


 先手必勝!とばかりに左手の指に挟んだ氷剣を扇を仰ぐような動作でヒュヒュンッと投擲。3掛ける2の6本だ。


 放たれる氷剣を前にアルはほんの少し遅れながらも術式を完成させて起動した。


「『鎌鼬・(かさね)』!」


 ギャリイ……ィィン!


 鬼娘の投げた素早い氷剣と連ねられた三日月状の風刃が甲高い音をさせてもつれ合い、一拍置いて『鎌鼬』が氷剣を吹き散らす。


 が、それを放った凛華は結果を見ることもなく次の動作に移っていた。


 あんなのは牽制だ。


 重剣をグイっと右腰だめに構え、左手を剣身に沿わせてリボンでも巻くように翳していく。


 するとみるみる内に重剣の剣身がなぞられた部分から円錐状に冰で覆われていき、最終的に馬上槍の形を成した。


 少女が持つにはあまりに巨大。


 だが、鋼と冰で作られた馬上槍を携えた凛華は軽快な動作で、ダンッと突喊する。


 迷いがない。突き込む勢いでアルの回避ポイントを轢き潰し、そのまま重量級の打突を敢行した。



 ガガガ……ッ! ギャリィィ――――ッ!



 硬い冰と金属の衝突音に続いて、火花が鍛錬場に散る。


 避けられないことを悟ったアルが刀の鎬を利用して槍の動閃を弾き逸らしたのだ。


 と、同時に凛華が不敵な笑みを浮かべる。


(やっと間合いに入ったわね……!)


「てやあッ!」


 左足をドンッと力いっぱい踏みしめ、刃を合わせていた自身の得物をゴオォ……ッと振り回す。


 【戦化粧(まほう)】の膂力を活かした助走のない薙ぎ払い(ゴリ押し)


 馬上槍として振るわれていた重剣が僅かコンマ数秒で棍棒へと役割を転じる。


 咄嗟に刀身へと右手を這わせたアルだったが、それでも衝撃をいなし切れず中空へと吹き飛ばされた。


「うっ、く!」


 空中をぐるぐる回っていたアルはどうにか体勢を立て直し、


「すぅぅ~~っ…………」


 大きく息を吸い込む。


 そして視界に凛華を捉えるや否や――。


 ボッ! ボッ! ボウッ! 


 と、炎球を吐き出した。


 手を空けるのを嫌ったアルが習得した細かな魔力操作技術だ。凛華にはまだ出来ない。


 一射、二射、三射。三度(みたび)吐き出された炎球。


 凛華は一射目を利用して重剣の冰を溶かし、二射目をバッティングの要領で打ち消し、三射目には左手で大きく溜めた水槍を出すことで相殺した。


 撃ち放たれた炎と水が互いを相殺してぶわあぁ……ッと大量の霧を生み出し、2人を包む。


 そこで着地したアルが動きを急転させた。


 刃を胸元まで引き上げ、反りに左手を添えて――。


 フッと掻き消えるように疾走。


 八つしかない六道穿光流の型の一つ。


 風を表す構え。その名も『陣風』。


 振るうは先達から連綿と受け継がれてきた派生技。


 ――――六道穿光流・風の型『陣風刻雨(じんぷうこくう)』。


 刀身を身体に沿わせ、敵の死角を駆け回って切り刻む剣技だ。


 刃を振るうのではなく、当てるだけ。


 死角を認識できるだけの動体視力と体力(スタミナ)、そして当てて引くだけでスパッと斬れてしまう刀だからこそ可能な技である。


 古くは大きな妖獣を相手に、重要な血管が通る部位や脚を何度も何度も斬り回って失血死させたり、重度の出血状態へ陥らせる為に用いられたものだ。


 重剣の間合いに霧を纏ったアルが突入する。


 だが凛華の方は無闇に剣を振るえない。


 アルの動きが俊敏すぎるのだ。視界の端に掠めているが捉えきれない。


(捷い……はっ!?)


 咄嗟に重剣を前に出して盾にした。そこに紙一重でアルがぶつかる。



 ゴッ……ギャァンッ!!



 重い金属音が響く。


「く、ぅぅ……っ!」


 運動エネルギーに体重まで乗せた衝突。


 いくら凛華に膂力の利があろうと彼女の体重が増えるというわけではない。


 不完全な防御姿勢に直撃されてたたらを踏んでしまう。


(今度は、後ろっ!)


 体勢を崩した凛華が気合で重剣を構え直したところに先ほどの衝撃。


「う、ぐっ!?」


 たまらず転倒してしまった。


 しかし負けん気でガバッと跳ね起き、重剣を構えようと左手で引き寄せたところで、首筋に冷たい感触。


「くぅ~~……っ! 今日はあたしの負けよ」


 凛華は素直に負けを認め、左手から力を抜いた。


 次いで朱色の隈取や紅がスゥーっと消えていく。


「ひゃっほーい! 俺の勝ち~。これで二百四十六戦、百二十二勝、百二十四敗。もうすぐ逆転だね」


 アルは心底嬉しそうに喜びながら刀を納めた。こちらも既に龍眼もどきを解いている。


「あんた、あたしに七歳までの勝負で負け越してるの忘れてない?」


 むっすぅぅ~とした表情で凛華が不平をたれるもアルはどこ吹く風。


 さっきできた霧をぼふっと風で散らす。


「自分の武器が決まってなかったんだから今までのはなしにしてやる、って凛華が言ったんだろ~? 今更言いっこなしだよ」


 勝利によって普段より2割増しでニコニコのアルが機嫌を取ろうとするものの、凛華はぶぅたれたままだ。


「あたし魔術習ってないし」


 唇を尖らせて負け惜しみまで言う始末。


「あっ、そんなこと言う? 俺『鎌鼬』しか使ってないのに? ふぅん?」


 しかしアルは盛大に煽りを入れた。


 凛華の額に青筋が浮かぶ。


「あぁっもうっ! うるさいわよ! ていうか魔術教えなさいよ! ヴィオ様のは難しすぎてわかんないのよ!」


「聞いといて寝るからわかんないんだよ」


 的確なツッコミである。


「小難しいんだもん」


「その小難しいのが重要なんだぞ、魔術って。属性魔力みたいにはいかないんだってば」


「あたしがサクッと覚えられて強い術作んなさいよ」


 ヴィオレッタから教わったことをアルはしっかり説いて聞かせてみたが無茶ぶりが返ってきた。


「『鎌鼬』作るときすごい苦労してたの皆で見てたよね? すっごい大変なんだぞ、術式組むのって。時間もかかってたろ」


「昼寝してたから見てないわ」


「そんな短時間で作ってなかったじゃん!」


「知らないわ。寝てたもの」


「こいつ!」


 幼馴染同士に戻るアルと凛華。さっきまでの毅然さはどこへやらといった具合だ。



 ☆ ★ ☆



 座り込んでさっきの地稽古はああだった、こうだったと話し合っている少年少女の様子を見やってヴィオレッタは頷いて微笑む。


「仲良きことは美しきこと哉、というやつじゃな」


「里長殿、そうじゃあねえです」


「くふふっ。わかっておるよ」


 八重蔵の見せたいことというか言いたいことは完全に理解した。


「あの歳のする戦い方ではないのぅ。アルもそうじゃが凛華の方もじゃ」


 独自(オリジナル)魔術『鎌鼬』。


 アルが『風切刃』を弄り回して独自にまで昇華させた術だ。


 三日月状の薄い刃を模した風を不規則に回転させながら飛ばすというもの。


 散々っぱら鍵語表とにらめっこして、何度もリテイクを貰ってようやく完成したそれは原型の術式をほとんど留めていない。


 ヴィオレッタに「費用対効果が高く、拡張性に富む」と評された通り、(かさね)られたことで鞭のように連ねて使っていた。


 そんなものを作る11歳などそうそういない。


 が、凛華も大概だ。


 まさか属性魔力で剣を槍にしようなどとは。


 突撃時の空気抵抗を減らす為にやっているようだが、要らなくなったらアルの炎を利用して戦闘中に溶かしていた。


 あんな判断をする11歳もまたそうそういない。


「そういうことです」


 八重蔵は重々しく首肯する。


 8~10歳になってようやく魔力とは何ぞや、と教えてやるのが一般的。


 その後、数年間は”魔法”や魔力操作関連と戦闘術を独立させて鍛えに鍛え、ようやく「じゃあ全部織り交ぜてみようか」となるのだ。


 この時点で早くても13~15歳と云ったところだろうか。


 例え戦闘勘が良くても実戦というものはそんなに生易しいものではない。


 息はすぐに切れるし、魔力の操作も乱れる。


 だからこそきちんと分けて鍛えねばならないのだ。


 それを当たり前のように使い熟して戦っている2人の方が変なのである。


 魔力の扱いや魔術、剣術の練度は当然ながら歳相応に甘い。


 しかし――――。


「あそこまでサマになっておるとは思わなんだ」


 ヴィオレッタがズバリ言ってのける。


 そこなのだ。荒かろうが、無駄があろうがちゃんと形になっている。


 どちらかに集中することもなく、どちらも崩れているわけでもない。


 ()()()()()()()()()()()()のだ。


「そんで困っちまいまして」


「ま、そうであろうよ」


「と、まあ困ってるたぁ言いましたが、実際は先に進めても良いかどうかを迷ってるっつうのが正確でしてね」


「先と言うと?」


「闘気でさァ」


「む? 闘気じゃと? 些か急ぎ過ぎやせぬか?」


 八重蔵の言葉に思わずヴィオレッタは驚いた。


「今すぐに……ってわけじゃあねえです、勿論。ただ近い内にそうなるだろうとは踏んでますぜ。アルなんかはそろそろ気付いちまいそうな気もしてますし」


「闘気に気付くと? いくらアルでもさすがになかろう?」


 ヴィオレッタにとって彼は可愛くて優秀な愛弟子だ。


 しかし、いくら何でも一度も教えたことのない概念に気付くとは思えない。


 そう応えるヴィオレッタに八重蔵は首を横に振る。


「わかりませんぜ? あいつは魔法が使えません」


「それは知っておるが……?」


 アルを動かした最初の原動力はおそらくそれだ。


 ヴィオレッタも当然把握している。


「だからこそ知識や技術の習得に余念がねえ。その内、『先生、魔力の使い方ってこれだけなんですか?』とか言い出しそうな気がしてんですよ」


 続けられた八重蔵の言葉にヴィオレッタは一瞬沈黙する。


 愛弟子の好奇心。そしてここ数年のやる気を失わない意志の強い紅い瞳。


「あー……ありっそーじゃのう」


「でしょう。それに凛華が最近【異相変(いしょうがえ)】教えろって煩くて煩くて。ま、アルが六道穿光流の初伝取ってから負けが増えたんで焦ってるっつうのはわかるんですがね」


 八重蔵も肩を竦めてそんなことを言う。


「うぅむ……そうじゃの。ちょっと検討しておこうか。しかし、やれやれじゃ。あやつらと来たら、里でも一番の期待の星じゃが一番の問題の種でもあるのぅ」


 ヴィオレッタは顎を擦ってそう評するのであった。



 * * *



 その後日。


 シルフィエーラの指導を行っている彼女の父ラファル、マルクガルムをしごいている彼の父マモン両名から八重蔵と似たようなことを言われ、ヴィオレッタは本格的に予定を繰り上げる算段をつけさせられることになる。


 どうやら「取り残されてたまるか」と奮起し続けるアルに一番近い幼馴染達が著しく感化されてどんどん成長しているらしいのだ。


 それを見たアルが更に刺激を受け、突っ走ってしまうせいで相乗効果が生まれていた。


 それ自体は間違いなく好循環。


 しかし彼らの両親も経験のないことに戸惑ってしまっているとのことで、結局大人同士で話し合いをすることになる。


 のだが、まさかここまで早くそんな機会が訪れるとは大魔導たるヴィオレッタでも予想できぬことであった。

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