あとがき
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
本編45話に加え、この設定資料集まで最後まで読んでくださった方には、もう『楽園のイミテリス』という世界について、私よりも詳しくなっているかもしれません。
ここまでの設定を振り返れば、この物語には本当に多くのものが存在していました。
ウイルス。
人類の機械化。
レプリカ。
イデア。
コア。
機装。
霊装。
監視者。
楽園計画。
アダム計画。
イヴ計画。
そして、6000年という時間。
一つひとつを見れば、それぞれに異なる意味があります。
けれど、第十節と第十一節まで読み終えた今なら、それらが決して別々に存在していたものではなかったことが分かると思います。
一つの技術が、次の技術へ繋がる。
一つの出来事が、次の出来事を生む。
一人の願いが、別の誰かの選択を変える。
そうして生まれたものが、また別のものへと繋がっていく。
その繰り返しによって、6000年という時間の中で、一つの大きな樹が形作られていきました。
最初に根がありました。
人類が生き延びようとしたこと。
ウイルスから逃れようとしたこと。
失われていく身体を機械によって補おうとしたこと。
そこから幹が生まれました。
生体情報。
コア。
レプリカ。
イデア。
そして、そこから無数の枝が伸びていきました。
監視者。
研究施設。
機装。
霊装。
楽園計画。
アダム計画。
イヴ計画。
一見すると、それぞれはまったく別のものに見えます。
けれど、そのすべては根から生まれ、幹を通り、枝分かれしながら、少しずつ一つの場所へ向かっていました。
その先にあったものが、カインとイヴです。
だから、この物語に存在する「完全ではない存在」たちにも、それぞれの意味がありました。
レプリカは、人間ではありませんでした。
イデアは、人間でありながら、人間の身体を失いました。
監視者は、自分たちが偽物であることから逃れようとしました。
アダム計画とイヴ計画は、完全な人間へ至るための方法を求め続けました。
そして、カインとイヴもまた、最初は誰かによって作られた存在でした。
けれど、最後に二人が手にしたものは、誰かによって与えられた「本物」という答えではありません。
二人が出会い、別れ、苦しみ、それでも互いを選び続けた。
その積み重ねそのものが、二人を人間へと変えていったのだと思っています。
そして、ここまで読んでくださった方なら、もう一つ気付いているかもしれません。
この樹には、世界の設定だけが繋がっていたわけではありません。
本編45話も。
そこに描かれた出来事も。
カインとイヴが歩いてきた道も。
この設定資料集も。
ここまで語られてきた世界のすべても。
そして、それらを書いてきた私自身も。
すべてが、この樹の一部でした。
私は、この物語を書くことで二人を生みました。
世界を作りました。
設定を作りました。
二人が進む道を作りました。
何度も出会わせました。
何度も別れさせました。
そのたびに二人を少しずつ先へ進ませました。
そのために、6000年という時間を用意しました。
たくさんの技術を用意しました。
たくさんの人間を、レプリカを、イデアを、監視者を用意しました。
そして、そのすべてを繋ぎました。
最初から決まっていたわけではありません。
一つひとつを積み重ねた結果として、最後に一つの形へ辿り着いたのです。
長い時間をかけて伸びた樹の先で、ようやく実が実りました。
その実が、カインとイヴでした。
そして今、その実はもう実っています。
だから、もう作者がそれを育て続ける必要はありません。
本編の最後で、二人は「本当の楽園」に辿り着きました。
そこには、もう計画もありません。
使命もありません。
監視者もいません。
レプリカである必要もありません。
物語の都合もありません。
そして、作者である私が二人の行く先を決める必要もありません。
これから先、カインとイヴがどこへ行くのか。
何を見つけるのか。
どんな毎日を過ごすのか。
どんな未来を選ぶのか。
それは、もう私の物語ではありません。
二人だけのものです。
物語を書くということは、登場人物の行く先を決めることでもあります。
けれど、本当の意味で二人を人間にするのなら。
最後には、その行く先さえも二人自身に委ねなければならないのだと思います。
だから、ここで二人を手放します。
この設定資料集も、ここで終わります。
本編も、ここで終わります。
そして、私が二人について語ることも、ここで終わりにします。
樹は、もう完成しました。
根から伸びた幹は枝へと分かれ、無数の葉を広げ、その先に一つの実を実らせました。
その実を、もう作者が手元に置いておく必要はありません。
あとは、二人が自分たちの楽園で生きていくだけです。
『楽園のイミテリス』という物語を、ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
この物語が、誰かにとって忘れられない一つの物語になってくれていたなら、作者としてこれ以上嬉しいことはありません。
そして、もしもう一度この物語を振り返ることがあれば。
そのときは、物語の中に散らばっていた一つひとつのものが、どこから生まれ、どこへ繋がっていたのかを思い出してみてください。
きっと、そのすべてが一本の樹として繋がっていることに気付いてもらえると思います。
そして、その樹の最後に実ったものが――
カインとイヴだったのだと。
それでは。
ここで、本当に終わりです。
――『楽園のイミテリス』、完。




