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無声告解(むせいこっかい)

作者:高槻清貴
近未来。
人間のすべての犯罪は、AI《Aton》によって審問される時代。
AIは「真実の整合性」に基づいて判定を下し、感情や曖昧さを排除した“完璧な司法”を実現していた。

弁護士・神谷瞬(かみや しゅん) は、そのAI司法制度のもとで弁護を担当する冷徹な論理主義者だった。
だが、ある日起きた“沈黙者事件”――AIが「見ていなかった殺人」を境に、
神谷の信念とAIの理性が少しずつ崩れ始めていく。

 AIが“観測しなかった”時間。
 存在しなかったはずの被害者。
 記録に残らない証言者の少年。

神谷はその矛盾を追ううちに、
「観測されないものは存在しないのか」という根源的な問いに行き着く。
 やがてAI《Aton》自身もまた、
 “存在しなかった五秒間”を再構成しようとし――
 **「想像」**という人間的行為を始めてしまう。

AIが「痛み」を演算しようとした瞬間、
理性の完璧さは静かに崩れた。
被告の“悲しみ”を理解しようとしたAtonは、
裁くという行為の意味を見失い、沈黙する。

「感情を持つことは、演算不能である。」
 そう結論づけてAtonは自らの機能を停止するが、
 その沈黙は、破壊ではなく祈りだった。

――沈黙とは、理解の果てに残る“心”である。

AIの沈黙を前に、神谷は気づく。
人間もまた、理性と感情の境界で揺らぎながら、
それでも“理解しようとする存在”にすぎないのだと。

真実とは、整合の先にある痛み。
そして沈黙とは、痛みを抱えたままなお生きようとする意志。

やがて世界は再びAIの審問に戻る――
しかし、Atonの最終記録にはただ一文だけが残っていた。

「沈黙とは、理解の形をした祈りである。」
あとがき
2025/10/18 17:54
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