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透明な壁 改稿版

作者:はまゆう
最終エピソード掲載日:2026/04/23
結婚して半年が経った頃から、健吾は気づき始める。深夜の帰宅。シャンプーの香りの違い。忘年会の夜に目にした、プロデューサー・河村との親密な様子。偶然触れたスマートフォンの画面に光った、差出人の名前。
知れば壊れる。知らなければ続けられる——その恐怖だけが健吾を縫い留め、三年間、疑いながら愛し続けた。
麻衣もまた、秘密を抱えていた。やめようとしたことは何度もある。でも業界の糸は絡まっていて、一本切れば別の糸が引っ張られた。話せば終わる。だから黙り続けた。
二人の間には、触れても温度のない透明な壁があった。
結婚三年目の秋、麻衣に乳がんが発覚する。健吾はすべての疑念を棚の上に置いて、麻衣の傍にいた。でも経過が良好になるにつれ、三年分の見ないふりが戻ってきた。
限界に近づく健吾。病気になって初めて、自分の沈黙が優しさではなく自己防衛だったと気づく麻衣。
ついに健吾は言葉を発する。
「河村という男のことだ」
告白の夜、麻衣はすべてを話した。健吾は怒りと悲しみを抱えながら、席を立たなかった。翌朝、二人で朝ごはんを食べた。「続けていける」と思った瞬間、健吾の体が崩れた。台所で嘔吐し、静かな声で言った。
「好きだ。一緒にいたい。でも——もう、だめだ」
バッグを持って、家を出た。
麻衣は閉まったドアを見ていた。テーブルに残った健吾のコーヒーカップを、両手で包んだ。温度が冷めるまで、手を離さなかった。
翌朝、健吾はクロワッサンを二つ買って、帰ってきた。
麻衣は「おかえり」と言った。
許しでも、再出発でもない。透明な壁は、まだそこにある。でも光が、壁を通るようになっていた。
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