後編 棄てられた真珠の再定義 ――「無能」と蔑んだ者たちへの、致命的な回答(アンサー)――
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
棄てられた真珠の再定義 ――「無能」と蔑んだ者たちへの、致命的な回答――
アストレア侯爵家の広間。そこには、私の「養子縁組」と「廃嫡」を画策していた親族たちが集まっていた。
中央には、私を「家の恥」と呼び続けてきた父・ゼノン侯爵と、私に冷たい視線を送り続けてきた母・エレイン。
そして、私を魔法学院で「落ちこぼれ」と嘲笑っていた教師や同級生たちも、次期当主候補(養子)のお披露目会という名目で招待されていた。
「リリア、お前はもういい。魔法も使えず、ただ本を読み漁るだけの女に、アストレアの姓は重すぎる」
父が冷酷に言い放つ。親戚たちは、クスクスと品のない笑い声を漏らした。
学院の教師も、やれやれと首を振る。
「リリアさん、君の成績は理論だけは満点だが、実技が皆無だ。魔導士の世界では、形にできない知識はゴミと同じだよ」
私は、手に持っていたティーカップを静かに置いた。
その音一つで、広間の空気が凍りつく。
「皆様、一つ確認させていただきたいのですが。皆様が仰る『有能』とは、その程度の……手から火を出したり、水を出す程度の『原始的な現象』を指しているのでしょうか?」
「なんだと……!?」
私は、学院の教師の前に歩み寄った。
「先生。あなたが昨日、授業で『現代魔術の限界』と称して教えていた第7階梯の防御術式。……あれ、座標計算が三世代前のものですよ」
私は指先で空間を弾く。
そこに出現したのは、教師が一生をかけて研究しているはずの術式の、完全上位互換モデル。
「∇×E=− ∂t∂B
……このマクスウェル的変調を加えるだけで、魔力消費は1/100に抑えられ、強度は三倍になります。これ、私が十歳の時に趣味で書いた論文ですが、読まれませんでしたか?」
「なっ……な、なんだこの緻密な術構成は!? 演算速度が追いつかない……!」
教師は、空中に浮かぶ数式を見て、腰を抜かしてへたり込んだ。
それを見て嘲笑っていた同級生たちに、私は冷ややかな視線を向ける。
「それから、私を『無能』と呼んでノートを破ってくれた皆様。皆様が誇る『高出力魔術』は、この術式の前ではただの『熱漏れ』に過ぎません」
私はパチンと指を鳴らす。
瞬間、同級生たちが展開していた護身用の魔力障壁が、一瞬で「強制解体」され、彼らの魔力は、広間のシャンデリアを灯す明かりへと変換された。
「ひっ……!? 俺の魔力が、勝手に吸い取られて……!?」
「暴走ではありません。皆様の魔力があまりに『ノイズ』だらけだったので、私がクリーンに整流して、照明に再利用してあげただけです。……感謝は結構ですよ。ゴミの有効活用は、賢者の義務ですから」
呆然とする広間に、一歩、重厚な足音が響く。
呪いから解き放たれ、神々しいまでの黄金の魔力を纏った兄・エドワード様が現れた。
「父上、母上。リリアへの無礼は、私への反逆と見なします」
「エ、エドワード……! なぜお前が動ける!? 呪いは……!」
「リリアが解きました。……いえ、彼女は私の回路を、神の領域へとアップデートしてくれたのです」
兄様は私の肩に手を置き、傲慢に振る舞っていた親戚たちを見下ろした。
「父上。あなたがリリアを廃嫡しようとした理由は、『魔力がないから』でしたね? ですが、今のこの屋敷の魔導防衛システムも、王都の魔力供給網も、すべてリリアが設計した次世代型に置き換わっています」
私は手元の端末(魔導書型コンソール)を操作した。
「父様、母様。残念なお知らせです。たった今、アストレア侯爵家の資産運用の全権、および領地の結界維持システム、さらには王家との魔石取引のライセンス……すべて、私個人が設立した**『アストレア新魔導商会』**へと譲渡が完了しました」
「な……何を言っている!? 家の資産はお前の勝手には――」
「勝手に、ではありません。父様が『無能なリリアには理解できないだろう』と、中身も見ずに署名したあの『養育費精算書類』。あれ、実は**『全資産の知的財産権譲渡契約書』**だったんですよ」
書類を読み飛ばすという、貴族として、そして家長としての致命的な怠慢。
私はそれを、知的な罠として仕掛けておいたのだ。
「今後、この屋敷の維持費、あなた方の服飾費、そして魔法学院への寄付金。すべて、私の許可がなければ一銭も出ません。……ああ、そうでした。あなた方が今着ているその『自動温度調節機能付き』の服も、私の特許です。今すぐ返却(脱いで)いただけますか?」
「ま、待て! リリア! 冗談だろう!?」
「冗談? ……いいえ、論理的な帰結です。価値を生み出さない人間は、淘汰される。……そう私に教えてくれたのは、あなた方ではありませんか?」
親戚たちは、文字通り青ざめて震え上がった。
彼らが誇っていた「地位」も「金」も「魔法」も、すべてはリリアという「システムの構築者」の手のひらの上だったのだ。
「兄様。この者たちは、もうアストレアの名を名乗る資格はありません」
「ああ。リリア。お前の好きにするといい。私は、お前が作る新しい世界が見たい」
私は、膝をついて許しを請う両親や教師たちを一瞥し、冷たく言い放った。
「安心してください。命までは奪いません。……ただ、あなた方の『魔力』と『地位』は、すべて新しい社会のインフラとして活用させていただきます」
私は、ガイルに施したのと同じ術式を、広間にいる者たち全員に一斉展開した。
彼らの魔力は、今後一生、リリアが管理する「魔導供給ネットワーク」へと強制的に徴収される。
彼らはもう、自分たちのために魔法を使うことはできない。
ただ、王都の人々が便利に暮らすための「生体電池」として、その余生を過ごすのだ。
「さようなら。……旧時代の皆様。これからは、私の知性が支配する、新しい時代の糧となってくださいね」
一週間後。
アストレア侯爵家は、リリアを実質的な当主代行(最高技術責任者)として、歴史上例を見ない発展を遂げた。
「無能」と呼ばれた少女は、今や王国の全魔導ネットワークを掌握する**「魔導の女帝」**として君臨している。
兄・エドワードは、妹が整えた最強の環境で、王国最強の騎士としてその名を馳せた。
かつて彼らを蔑んだ者たちは、今や誰もいない。
ある者は、貧民街のヒーターの燃料として。
ある者は、夜道を照らす街灯のバッテリーとして。
彼らは今日も、間接的にリリアの役に立っている。
「……ふふ。やっぱり、知性こそが最高の武器ですわ」
リリアは、黄金の魔力が美しく循環する王都の夜景を眺めながら、満足そうに微笑んだ。
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