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『お転婆おイネの幕末カルテ』 ~シーボルトの娘に転生したけれど、現代医学のほうが効きますが何か?~

作者:楠木 悠衣
最新エピソード掲載日:2026/06/03
救急医・戸塚紗千(とつか さち) 三十四歳。徹夜明けの当直で病院の階段を踏み外し、目が覚めたら——嘉永三年(1850年)、伊予国卯之町。

自分の手は、子どもの手。母と慕う女の名は「お滝」。師と呼ぶ町医者は、二宮敬作。

——え、楠本イネ? あの「日本初の女医」の?

史実を知る紗千は青ざめる。このままでは数年後、自分は産科を学びに行った先で、師匠に犯される。娘・高子を生むことになる。それが歴史というやつだ。

——冗談じゃない。歴史なんざ、こちとら救命処置で書き換えてやる。

鍬で足を切った庄屋の息子が「もののけ憑き」と診断され、口を開けず、背を弓なりに反らせて死にかけている。漢方医は祈祷を始め、寺は経を読み、村人は涙する。だが現代医の目には一目瞭然——それは破傷風だ。

莨菪根(ろうとうこん)、清水、ヨジウム、隔離、そして安静。江戸の薬箱で組み立てる救命プロトコル。少女の指先がカルテを描き、子ども相手と侮った漢方医を理詰めで黙らせていく。

噂を聞きつけてやって来たのは、宇和島藩のお抱え蘭学者・村田蔵六(むらた ぞうろく)。蛇のように冷たい目をした、後に「大村益次郎」と歴史に刻まれる男だった。

「——おなごの身で、刃物のような診立てをするものだ」

黒船はまだ来ない。コレラはまだ流行らない。脚気は将軍家を蝕み続けている。

蘭学、開国、戊辰、そして明治。

歴史の濁流を、薬箱ひとつでぶった斬る。お転婆おイネ、開幕。
第1話 牙を喰む病
2026/06/02 13:13
第4話 黒き船の影
2026/06/02 19:17
第5話 腹を開く
2026/06/03 13:33
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