- あらすじ
- 破水した日、家族は全員、実家に集まっていた。夏帆は大学を卒業するまで両親と暮らしていて、卒業式は午前中に行われる予定だった。母は朝早くから皆を呼び戻し、「せっかく家族がそろうんだから、出かける前に写真を撮りましょう」と張り切っていた。拓海はすでに就職し、汐岬市内の別の地区で一人暮らしをしていたが、その日は朝から実家に戻っていた。私と悠人は結婚後、実家から数駅離れた2LDKの賃貸マンションで二人で暮らしていた。
高梨家の実家は、築二十年あまりの二階建ての一戸建てだ。悠人と着いた頃から、私は下腹部がときどき張るのを感じていたが、出産予定日が近いせいだと思っていた。ところが間もなく破水し、ズボンが大きく濡れた。夏帆は卒業式用の袴に着替え終え、母が髪飾りを直している。少しの沈黙のあと、悠人が時計を見た。
「美咲、あと二時間だけ待てないか? 夏帆の卒業式、もうすぐ始まるんだ。終わったらすぐ病院に連れていくから」
兄の拓海は隣でスマートフォンを掲げていた。画面には、たった今検索したばかりのページが開かれている。数行の説明を読んだだけで、家族全員が安心して出かけるための理由を見つけたような顔をした。
「破水しても、すぐ陣痛が始まるとは限らないって書いてある。しばらくかかる人もいるみたいだし、二時間くらいなら大丈夫なんじゃないか?」
両親はすぐにうなずいた。
「じゃあ、そうしましょう。病院に行けばちゃんと診てもらえるんだし、夏帆の大学の卒業式は一度きりよ。美咲は昔からしっかりしてるんだから、もう少しだけ我慢して。今日くらい、夏帆に心残りを作らせないであげて」
私は痛みで立っているのもやっとだった。
「私と赤ちゃんの命より、夏帆の卒業式のほうが大事なの?」
母は眉をひそめた。
「またそんな大げさなことを言って。誰も放っておくなんて言ってないでしょう? 二時間待ってって言ってるだけよ。夏帆はずっと今日を楽しみにしてたの。お姉ちゃんなんだから、一度くらい妹のことを考えてあげられないの?」
- Nコード
- N9831MP
- 作者名
- 熾星
- キーワード
- シリアス 女主人公 家族問題 因果応報 ざまぁ 家族崩壊
- ジャンル
- ヒューマンドラマ〔文芸〕
- 掲載日
- 2026年 08月18日 15時41分
- 最終更新日
- 2026年 08月24日 10時14分
- 感想
- 10件
- レビュー
- 0件
- ブックマーク登録
- 107件
- 総合評価
- 4,884pt
- 評価ポイント
- 4,670pt
- 感想受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - レビュー受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - 誤字報告受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - 開示設定
- 開示中
- 文字数
- 18,440文字
設定
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫が妹の卒業式に付き添う中、私は一人で緊急帝王切開――子どもを亡くした後も、家族は妹を祝っていた
作品を読む
スマートフォンで読みたい方はQRコードから
同一作者の作品
N9533MQ|
作品情報|
短編|
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
夏休みの宿題を少しでも真面目にやらせようと、生物担当の黒田誠司先生は休みに入る前、俺たちに二つの選択肢を出した。
「一つ目。生物の課題プリントを六十枚、全部終わらせること」
「二つ目。砂漠でも育って、ちゃんと穂をつけ//
N9473MQ|
作品情報|
完結済(全2エピソード)
|
ヒューマンドラマ〔文芸〕
夫の高瀬冬真が事故に遭った日、私は手術室の前で九時間、膝をついたまま祈り続けた。
冷たい床に膝をつき、ただ生きていてほしいと何度も何度も願った。看護師さんが三度、椅子に座るよう声をかけてくれたけれど、私は動けなかっ//
N0768ML|
作品情報|
連載(全101エピソード)
|
異世界〔恋愛〕
~スポットライトの裏側で、執着な大妖に愛を乞われる~
京都郊外の撮影所で起きたワイヤー事故。
売れない脇役俳優・佐伯蓮は、主演俳優を救うために飛び出し、俳優生命を揺るがす傷を顔に負ってしまう。
もう終わりだ。
そう思//
N4678MK|
作品情報|
連載(全133エピソード)
|
ヒューマンドラマ〔文芸〕
【閲覧注意】これは、彼女たちの「悪行」の記録か、それとも「救済」の叫びか――。
親に売られた少女、夫の暴力(DV)に怯える妻、社会から透明人間のように扱われる女たち。
――「どうして私ばかりが、こんな目に遭わなきゃい//
N8194MQ|
作品情報|
短編|
ヒューマンドラマ〔文芸〕
妻の神谷美咲が経営する会社に、二十二歳の大学生インターンが入ってきた。
三浦悠斗。大学四年生で、卒業を控えた長期インターンだった。入ってまだ一か月も経たないうちに、美咲は「プロジェクト用の社用車」という名目で、彼にメ//
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。