- あらすじ
- 夫の若い秘書が、社内チャットに一枚の自撮り写真を誤って投稿した。本当は若手社員だけで作った私的なLINEグループに送るつもりだったのだろう。けれど彼女は、うっかり会社のLINE WORKSの雑談チャンネルに投稿してしまった。写真の背景は、私と怜司の寝室だった。彼女は私のシルクのナイトウェアを着て、私が使っていたドレッサーの前に立っている。胸元は大きく開いていた。
添えられていた言葉は、たった二行だった。
【怜司さんが、奥さんは今いないって】
【今夜、この寝室は私のもの】
チャンネルは数秒だけ静まり返り、それから既読の数が一気に増えていった。誰かが意味ありげなスタンプを送り、別の誰かが冗談めかして、とうとう奥さんの座に収まったのかと聞いた。彼女が着ているナイトウェアが高価なものだと気づき、もう高梨家の主寝室に入り込んだのかと茶化す者もいた。
桐谷莉奈は、すぐにもう一言付け加えた。
【怜司さん、今夜はずいぶん元気。でもずっと寒いって言ってて、私を抱いて離してくれない】
私は黙って、そのメッセージが一つずつ浮かび上がるのを見ていた。怜司が寒がるのは当然だった。だって、私はずっと彼の背中に張りついているのだから。私の遺体は、彼によって主寝室のウォークインクローゼットの奥に作られた壁の中へ封じ込められて、もう三ヶ月になる。
そこは、世田谷区にあるリフォーム済みの一戸建てだった。結婚後、怜司が購入した家だ。ここなら静かで、人目も少なく、私たちはやり直せる。そう言っていた。隣家とは塀と庭を挟んでいて、主寝室は二階にある。深夜の作業音も、水漏れの修繕だと言えば、誰も深くは聞かなかった。だから彼は私を殺したあと、ウォークインクローゼットの奥を石膏ボードで塞ぎ、継ぎ目をパテで埋め、その上から新しい壁紙を貼った。
壁紙の糊とパテの匂いは、まだ完全には抜けていない。壁の内側は冷たく、息苦しい。私は毎晩、彼の首筋にぴたりと貼りついて息を吹きかけていた。寒くないはずがなかった。
- Nコード
- N7440ML
- 作者名
- 熾星
- キーワード
- BK小説大賞2 ダーク 超能力 怪談 サスペンス 復讐 ざまぁ 不倫 裏切り
- ジャンル
- ホラー〔文芸〕
- 掲載日
- 2026年 07月13日 17時00分
- 感想
- 0件
- レビュー
- 0件
- ブックマーク登録
- 1件
- 総合評価
- 52pt
- 評価ポイント
- 50pt
- 感想受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - レビュー受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - 誤字報告受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - 開示設定
- 開示中
- 文字数
- 14,928文字
設定
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫は毎晩、若い秘書を抱いて「寒い」と震えていた。壁に埋められた私が、ずっと背中に張りついているとも知らずに
作品を読む
スマートフォンで読みたい方はQRコードから
同一作者の作品
N4678MK|
作品情報|
連載(全48エピソード)
|
ヒューマンドラマ〔文芸〕
【閲覧注意】これは、彼女たちの「悪行」の記録か、それとも「救済」の叫びか――。
親に売られた少女、夫の暴力(DV)に怯える妻、社会から透明人間のように扱われる女たち。
――「どうして私ばかりが、こんな目に遭わなきゃい//
N1989MM|
作品情報|
完結済(全2エピソード)
|
ヒューマンドラマ〔文芸〕
悲劇ヒロインものの恋愛小説に入り込んで、まだ五分も経っていなかった。
私はもう、この物語に出てくる旧財閥系の御曹司が、どれほど理不尽な男なのかを思い知らされていた。
彼の幼なじみである白鳥唯花が、ほんの小さく//
N2098MM|
作品情報|
短編|
ヒューマンドラマ〔文芸〕
佐倉帆夏は、婚前のクルーズ旅行を一日早く切り上げただけだった。
それなのに、婚約者の黒瀬悠真は彼女に別れを切り出した。
沖縄航路のクルーズ旅行、最後の夜だった。窓の外の海は夕日に染まり、レストランには静かなピア//
N0768ML|
作品情報|
連載(全30エピソード)
|
異世界〔恋愛〕
~スポットライトの裏側で、執着な大妖に愛を乞われる~
京都郊外の撮影所で起きたワイヤー事故。
売れない脇役俳優・佐伯蓮は、主演俳優を救うために飛び出し、俳優生命を揺るがす傷を顔に負ってしまう。
もう終わりだ。
そう思//
N1940MM|
作品情報|
短編|
ホラー〔文芸〕
午前三時、知らない番号から電話がかかってきた。受話口から聞こえてきたのは、低く掠れた男の声だった。私が一生忘れられない、あの声だった。
「英子、会いに来てくれよ。俺たち、ずいぶん会ってないだろ」
その瞬間、全身の//
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。