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夫婦で悲劇ヒロイン小説に転移したら、夫が冷酷な御曹司を演じながら私を溺愛してきました

作者:熾星
最終エピソード掲載日:2026/07/18

 悲劇ヒロインものの恋愛小説に入り込んで、まだ五分も経っていなかった。

 私はもう、この物語に出てくる旧財閥系の御曹司が、どれほど理不尽な男なのかを思い知らされていた。

 彼の幼なじみである白鳥唯花が、ほんの小さく咳をしただけで、彼は冷たい顔で私を見た。さっき私がくしゃみをしたせいで風が起き、唯花が冷えたのだと言うのだ。

 そして警備員に命じ、私を旧館の地下倉庫へ連れて行かせた。そこで一晩、鼠と一緒に反省しろ、ということらしい。

 けれど扉が閉まった瞬間、私はその場で固まった。

 地下倉庫には湿気も寒さも、もちろん鼠もいなかった。床には厚い絨毯が敷かれ、暖房は温泉旅館みたいに効いていて、隅には新品のパジャマとホットココアまで置かれていた。

 翌日、唯花が何もない床で転んだ。

 すると今度は、私がそこに立っていたせいで彼女の邪魔になったと言われた。部屋へ連れて行き、自分の手で罰を与える、と彼は言った。

 私は本気で疑い始めた。

 この原作の男主人公、精神的に大丈夫なのだろうか。

 けれど部屋の扉が閉まった途端、彼は私を腕の中へ引き寄せた。耳元で低く笑う声は、ひどく聞き覚えがあった。

「寧々、大丈夫」

「これは、あいつらに見せるための芝居だ」

「あいつらが自分で掘った穴に落ちるところを、俺が見せてやる」

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