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空鯨の背で

あらすじ
夜の校舎で蒼翔(あおと)はスマートフォンを手に誰かへ言葉を伝えようとするが、配電盤の閃光に呑まれ意識を失う。目覚めた場所は、巨大な生き物の背で人々が暮らし、その髭から作った「髭紙」を操る異世界「空鯨(くうげい)」だった。翔は足音の響かない白髪の少女ミナ、自分を記録し続ける観測者カイらと出会う。

仲間と共に戦いへ身を投じた翔は、王女アルナと灰骨砦を解放するが、続く戦いで仲間を失い、死の喪失感を刻む。聖都の記録層で明かされたのは、ミナが空鯨の意志が生んだ観測端末であり、実体を持たない存在だという真実だった。アルナは国を守るため記憶の共鳴路を閉ざすかの決断を迫られ、翔はその重みに立ち会う。

脈塔の深層で、ミナは自らの真の正体を語る。彼女は世界へ落ちてきた翔の記憶から形を得た思念体で、翔は二十四人目の観測対象に過ぎず、その容姿は翔の心残りから象られたものだった。

その瞬間、翔の脳裏に忘れかけていた名前「今村葵」が蘇る。あの夜、葵が一度だけかけてくれた電話に応えようとして落ちたのだと気づく翔。自分が帰らなければ、葵は一生「自分の電話が翔を消した」と自責の念を抱え続ける。カイが固く縛り封じていた手帳の記憶と、自身の胸に空いた穴の重さが重なった。翔は消えゆくミナの指先を最後まで見届け、元の世界へと還る。

夜の教室で再会した葵へ、翔は告げる。電話をくれたからこそ自分は応える時間を得られた、事故は葵のせいではない、と。葵の心の傷を「急がなくていい」と静かに受け止める翔。その夜、葵は見知らぬ白髪の少女が翔の名を呼ぶ夢を見、その温かな想いだけを感じ取る。二つの世界の底で、空鯨は静かに呼吸を続けていた。
Nコード
N2882MX
作者名
佐々木勇二
キーワード
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ジャンル
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
掲載日
2026年 10月19日 09時00分
最終掲載日
2026年 10月19日 09時46分
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