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秘密の高級地下で湛山、ターザンと化す

「マヤ。これ見て」


あたしたちは美魔女の洞窟ログハウスに戻り、今度は裏側を静かに調べていた。

「ダクト?」


佐吉が鼻を鳴らして見つけたのは、岩肌の隙間に不自然に隠された、

鉄製の排気ダクトだった。中で広がっていた、

腐ったリンゴのような匂いがうっすらと外へ吐き出されている。


内臓プロセッサーで構造をスキャンする。

ダクトはかなり狭いスペースを蛇のようにのたうち回りながら、

地下へとつながっていた。


「湛山、この洞窟、地下室がある」

「地下室? そんなのどうやって――」


流石の湛山も、この物的証拠を突きつけられて、

エミリの家がおかしいと認めざるを得ないだろう。

ざまあみろ。

あの美魔女の女神扱い、少しは考え直すかね。


「いや。マヤ、ここに入れるか?」

「あたしは余裕だけど、あんたのその無駄な筋肉は引っかかるわね。

オイルでも塗ってあげようか?」

「冗談言ってる場合か。いくぞ」


湛山が手際よくダクトの格子を外す。

「お前、先に行け」

あらら、狭くて無理って言ったのに自分も行くつもり?

引っかかんなきゃいいけど。

まあ、そうなったらなったで周囲を爆破すれば通れるか。


「レディ、佐吉。2人はここで見張ってて。異変があったらすぐに知らせて」

「ラジャー」

そしてあたしたちは薄暗い金属の管へと滑り込んだ。


頭からダクトへ滑り込み、のたうち回る金属の蛇の中をずりずりと進む。

背後からしきりと、「うおっ」「クソ、狭すぎる」という湛山の情けない声と、

金属が激しく擦れ合う嫌な音が響いている。だから言ったのに。


やがて斜め下へと伸びるスリットが見えた。

あたしたちはそこから一気に滑り落ちた。

ドサリ、と着地した。

続いて、上からデカい物体が降ってきた。


「痛っ! ちょっと、どきなさいよ!」

「す、すまん…」


あたしは思わず言葉を失った。

ダクト内の煤と油で、彼の顔も身体も真っ黒。

おまけに無理やり狭い管を通り抜けたせいで、着ていた衣類がズタズタに擦り切れている。

破けた布の隙間から、無駄に鍛え上げられた眩しい筋肉が露わになっている。


「……何て格好。変質者みたい」

「うるさい、服の心配をしてる場合か」


湛山が身を揺すって両手でパンパンと煤を落とす。


あたしたちが着地したのは、誰もいない奇妙な部屋だった。

天井にはヨーロッパの王室にありそうな豪華なクリスタル・シャンデリアが煌々と輝き、

周囲には格式高いアンティーク家具が並んでいる。

そして部屋の隅に置かれた… 蓄音機? 本で見たことがあるので、

蓄音機というのが分かった。

そこから優雅なバロック音楽のBGMが静かに流れている。

ど田舎の山の中のぽつんと一軒家の洞窟ログハウスとは到底思えない、異様な高級感。

「なんなんだ、この部屋は…」

湛山が周囲を見渡した、その瞬間。


背後の重厚なカーテンの影から、人影が飛び出してきた。

3人――いや、4人。

全員が黒い戦闘服に身を包み、手には電流を帯びたスタンバトンを握っている。


「湛山、後ろ!」


あたしが叫ぶと同時に、男たちがバトンを振り下ろした。


「おおおおおおお! おおおおおおっ!」

湛山は真上に跳躍した。

天井に当たりそうな高さだ。

だが、天井に頭をぶつけることはなく、太い腕でシャンデリアにしがみつき、

そのまま強靭な広背筋を使って身体を大きくスイングさせた。


「なっ……⁉」


ちょっと、ちょっと、前に懐かしの映画特番で見たターザンみたいじゃん⁉

宙を舞い、両足で、獲物を狙う猛獣のように、急襲してきた男たちの顔面を突き刺した。


ドガッ! バキッ!


強烈なドロップキックを喰らった2人が、壁の飾り棚をなぎ倒しながら吹き飛んだ。

我らがターザンはそのままシャンデリアから手を放して華麗に着地し、

残る2人の懐へ一瞬で滑り込み、強烈なアッパーカットを顎へと叩き込む。


バロック音楽だけが、何事もなかったかのように部屋に響き続けている。

ズタズタの服で拳を握る湛山。完全に野生の格闘マシンだった。


「なにぼーっとしてんだ? 行くぞ」

「う、うん」


あたしは慌てて湛山の後ろを追いかけた。

男たちが倒れた衝撃で開いた重厚な扉の向こうには、

さらに長く薄暗い廊下が奥へと伸びている。


「待って、湛山。この先、生体反応がまだ複数あるわ」

「……チッ、次から次へと。エミリのやつ、一体ここで何をしてるんだ?」

煤まみれでボロボロの服がさらにボロボロになった湛山が、低い声で唸る。


その時、前方の曲がり角からカツ、カツ、と規則正しい足音が近づいてきた。


黒い戦闘服の男たちとは明らかに質の違う2人の男。


非の打ち所がない高級な三つ揃えのスーツをぴしりと着こなし、

髪型も完璧にセットされた、モデル顔負けの超絶イケメンスタッフ。

しかし、その瞳には一切の感情がなく、冷酷な光だけが宿っている。


「侵入者を排除します」

一人が低く甘い声でそう呟いて、信じられない速度で間合いを詰めてきた。

何、こいつら⁉ 完全に訓練されたプロの暗殺者じゃん⁉


「おいおい、今度は随分と小綺麗なやつらが出てきたな!」

湛山が身を翻し、一人の鋭い回し蹴りを間一髪でかわし、

風を切り裂く音が廊下に響いた。

もう一人が懐へ滑り込み、湛山のボロボロの衣服を掴んで一本背負いを狙う。


「おっと、その綺麗な服が汚れるぞ!」


湛山は相手の力を利用して空中へ身体を逃がし、

着地すると同時にスーツの襟元を掴んで壁に叩きつけた。

激しい衝撃音とともにイケメンスタッフが崩れ落ちた。


しかし、もう1人がすぐさま湛山の背後を取り、

その太い首に腕を回してチョークスリーパーをかけようとした。

「湛山、左!」

「ぬうぅっ!」

筋肉が引きち切れんばかりに膨れ上がる。

湛山は強引に相手を背負ったまま、近くの頑丈なドアにバックドロップで激突した。


ドンッ!という凄まじい音。ドアのロックが壊れて内側へと吹き飛んだ。

男は気絶し、湛山も荒い息を吐きながら床に膝をついた。


「はぁ、はぁ… イケメンのくせになかなかやるじゃないか」


こいつ、自分も負けず劣らずのイケメンだという自覚はないんだろうか。


「大丈夫? 服、もうほとんど布切れになってるわよ」

「気にするな。それより、ここ…」


壊れたドアの先を見渡して、あたしたちは同時に息を呑んだ。


ガラス張りの大きな部屋。

そこにフリッツとタイラー、ジェイミーとルイがいた。

彼らは高級なソファーにひっくり返り、涙を流しながら大爆笑している。


「アハハハ! ウケる! あの天井のシミ、超おもしろい!」

「ギャハハ! 息が、息が止まる!」


「ルイ! ジェイミー! フリッツ! タイラー!」


湛山がガラスを激しく叩くが、彼らはゲラゲラと笑い転げたまま、

あたしたちにまるで気づかない。


「……何なのよ、これ⁉ 完全にトリップしてる⁉」

あの幻覚リンゴだな。食べるとこうなるというわけか。


急いで内臓プロセッサーで彼らのバイタルをスキャンした。

命に別状はない。健康状態も問題ない。

ただただ、限界突破して笑い続けているだけだ。


「くそ、このガラスが割れない! エミリはどこだ! エミリ!? 」

湛山はさらに奥の部屋へと続くドアを無理やりこじ開けた。


その瞬間、部屋の奥からエミリが飛び出してきた。


髪を振り乱し、恐怖に怯えた表情を浮かべて。

ボロボロで真っ黒な湛山の姿を見るや否や、その胸に飛び込み、ひしと抱きついた。


「湛山! 助けにきてくれたのね……! 怖かった! すごく怖かったの……!」


豊かな胸を湛山の剥き出しの筋肉にぐいっと押し付け、涙目で震える。

完全に「可哀想な被害者」だ。

「え……? エミリ、お前……?」

「湛山! もう二度と私を離さないで!」


野性人間は鼻の下を伸ばしかけている。


ちょっと待ちなさいよ。

あたしの高性能センサーが、彼女の嘘をビンビンに検知してるんですけど⁉


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