フェイク美魔女の誘惑… 湛山の貞操が危ない⁉
公用車がない。
「そんなバカな。なんで?」
「さっきのアレで吹き飛ばされちまったか」
恐るべし秘密屁器。
スーパー運転手・青木さんのことだから
命は無事だとは思うが、
一体どこまで飛ばされてしまったんだろう?
――と、のんびり考えてる余裕はあたしたちには
ないのだった。
「とにかく、まともに息が吸えるところに
避難しましょう」
「そうよ、毒リンゴの煙で死んだり病気になるのは
まっぴらだわ。何なのよ、
あのばあさんがつくったあの部屋⁉」
「おい、レディ。いい加減にしろ。
何だ、『ばあさん』とは?」
と湛山が諫める。懲りないヤツだ。
「こっちだ」
「森の中に行くの?」
「幹線道路まではかなり距離がある。だけど、
この森を抜ければ道路に出るんだ。俺を信じてくれ」
「わかった」
「青木さんと公用車を探しながら行くぞ」
洞窟ログハウスから遠ざかっているのは
間違いない。
ここは土地勘のある湛山に従うべきと、
あたしたちはどんどんどんどん、
深まる森の中へと消えていった。
しばらく行くと、ルイがちょっと休もうと言う。
「ジェイミーが辛いんだ。
身体に何か変なものが入っているのかもしれない」
「ルイったら、食べ過ぎ・飲み過ぎだって、
さっきから言ってるでしょ?」
未だに笑いながら言う。
でも、さっきよりだいぶトーンダウンしているので、
大丈夫そうだ。
これだけ森の奥深くに入っていれば、
直近のリスクはないだろう。
未だに湛山にプンプンお怒りのレディと、
意外に頼れる佐吉もいることだし。
「わかりました。じゃあ、
この辺でちょっと休憩しましょう」
センサーアラートを最強にセットしたまま、
あたしは大きな岩の上に腰かけた。
ふう。
「ここでしばらく休んでいてくれ。
俺、ちょっとその先まで行ってくる」
と湛山が言う。
「なんで? 何かあるの?」
「いや、その辺を確認してくる」
そう言いながら、湛山はケホケホと
小さく咳き込んでいる。
無理もないか。
着ている服からは、まだ佐吉のあの
特大スペシャルの残り香が盛大に漂っているからね。
何分か経った頃。
「湛山、遅いな。ちょっと見てくる」
レディにそう言い残して、
ヤツが行った方向に歩き始めた。
ボコボコの山道。
絹糸の滝の裏にある野生人間集落以上に未開拓地だ。
どう見ても手つかず。
きっと何10年、いや、何世紀もこのまま
ひっそりと存在していたんだろうな。
そのまま進んでいくと、微かに水の音がした。
小川だろうか。せめて手だけでも洗いたい。
次第に水の音が大きくなってきた。
小川ではなく、滝のようだ。
小さいヤツ。
ゴーッという音ではなく、ザーッ、って。
そうだ、手だけでなく、足も洗おう。
冷たい水に浸かればすっきりするはずだ。
色々と。
少し下ったところにあるようなので、
周りの木々から飛び出している枝を避けながら
慎重に降りていく。
ん?
その先の枝に引っかかってるのって、
洋服じゃないか?
何やら見覚えのあるような。
ああ、滝が見えてきた。
は?
…誰か… その中に… 立ってる?
広い肩幅。
日焼けした腕。
大きい背中。
…あの布は… いつだったか本で見た…
ふんどし?
引き締まったお尻が見えちゃってるじゃん。
でも、機能的そうではある。
日本のミニマリズム、ここにあり、ってか?
思わず木の後ろに隠れた。
その時、その人物の顔が見えた。
やっぱり湛山だ。
間違いない。
ほぼほぼ生まれたままの姿で。
あたしのビルトインシステムが警告音を鳴らす。
『警告:処理能力の限界。危険です。危険です。
危険です!』
うるさい! そんなこと言われなくてもわかってるよ!
と自分のシステムに静かに毒づいたが、
周囲に聞こえない警告でよかった。
『強制冷却システムを作動しますか?』
さっさとやれ! いちいち聞かんでもいいだろうが。
『大バグ発生中。ご注意ください!』
どうやってご注意するんだよ、こんなの?
あんな筋肉隆々の長い手足、頑丈そうな背中、
上を向いて滝の水を顔で受けるアドニス風の横顔なんて
見たことないんだから!
男の裸の入浴シーンなんて見ちゃいけないよね?
気づかれないようにそっと退散しよう…
と振り向こうとしたその時。
あたしと対角線上の木々の間からエミリが現れた。
マズイ!
湛山、危ない!
…いや、そっと湛山に向かってはいるけど、
ちょっと雰囲気が違う。
かなり。
エミリはサンダルを脱いでゆっくりと水に入り、
湛山まであと2メートルのところで立ち止まった。
「こんなところにいたのね」
「エミリ」
「さっきは怖かったわ。気がついたら湛山がいなくて、
エミリ、悲しくなっちゃった」
「…ごめん」
「いいのよ、今ここで会えたから」
身に纏った衣服がズレ堕ちて、
片方——いや、両肩を露出した。
一歩前に出る。
近い。
湛山の胸に息がかかるくらい近い。
あ。
片手を湛山の胸に当てた。
ゆっくりと、その胸を撫で回している。
え? 今度は両手?
すーっと湛山の肩に伸ばす。
潤んだ瞳で、上目遣いで湛山の顔を見上げる。
湛山はまるで大木のように黙って
それを受け入れている⁉ 噓でしょ⁉
あたしの脳内センサーが、
かつてない異常発熱を感知して真っ赤に染まる。
な、な、何をするつもり⁉
「…ちょっと」
おお、やっと湛山が喋った。
「いいからお姉さんに任せなさい」
「? お姉さん?」
エミリの動きが一瞬止まった。
何か独り言を言ってる。
何だかヤバそう。
無意識に超聴力モードに切り替えた。
どれどれ。
【危ない危ない! 一瞬、
素の83歳に戻ってしまったわ】
えっ⁉
は、はちじゅうさんさいって今言った?
あらら、また普通に低音セクシーボイスで話し始めた。
「そういう風に映画とかでよく言うじゃない?
エミリ、一度言ってみたかったの。
さあ、ワイルドにいくわよ。
お姉さんがうんと気持ちよくしてあげる」
身体を捻って、衣服がはらりと、さらにはだける。
うっ… 凄い谷間。
片手がふんどしに伸び始めた。
えっ⁉ えっ⁉
木の陰で目撃して爪を噛んでるあたし。
まるでいけないことを覗き見している変質者のようだ。
その時、真後ろから聞きなれた声がした。
「まったくもう。マヤったら、
何こんなとこで悶々としているの?」
「れ、レディ。悶々とだなんて、あたしは別に――」
「世話の焼けるパートナーだこと」
そう言って、レディは後ろを向いた。
「佐吉、おいで。早く」
尻尾フリフリ・従順ボーイが笑顔でとことこやってきた。
「あっちを見てごらんなさい、あんたの湛山が危ないの。
あのフェイク美魔女に一発かましてやって。
あなたの特大スペシャルなやつ。バリエーションでもいいわ、
任せた」
「オン!」
……またやるの?
と危惧したその直後、
佐吉のプレミアム・スペシャル砲が放たれ、
森の静寂が過去のものとなった。
近未来のサイバーパンクな世界 x 泥臭いアナログ。
古き良きドタバタスラップスティック喜劇のようなストーリーを
目指しました。
ハイテクなAIサピエンスのマヤと、
まさかのふんどし姿で我が道を行く湛山に超有能才女犬・レディ、
そして強烈な秘密屁器を持つ佐吉。
彼らのドタバタ劇を楽しんでいただけると嬉しいです。
いつか世界中で『FUNDOSHI』の風が吹く日を夢見て――(ケホッ)。




