毒をもぶっ飛ばす秘密屁器!
「ルイ! 変な顔! あーっはっはっは!」
「じぇ… ジェイミー? 何がそんなにおかしいんだ⁉」
「ルイの顔! そこに突っ立っている
おじさんとおばさんの顔!
ハハハハハ! おかしくて死にそう!」
「…死ぬな」
ルイはそう言ってパニックった顔でこちらを見る。
助け船を出してやろう。
というか、とにかく早く連れて帰らねば。
「ジェイミーさん、ここにいらしたんですね」
「あなただあれ? 」
「首相官邸のマヤと申します。東京に戻りましょう。
お母様が心配されています」
「えーっ? やだやだ、こんなに楽しいのに!」
流石の湛山も目が覚めたのだろう。
厳しい表情でエミリに詰め寄る。
「エミリ… 彼女は草津温泉に行ったって言ったよな?
あれは嘘だったのか? どういうことだ?」
さあ、どうする?
流石に言い逃れはできないだろう。
…と思ったのだが。
「…湛山… 信じてもらえないかも知れないけど、
彼女はさっき戻ってきたの。
何があったのか分からないけど、ご覧の通り、
ケラケラ笑いっぱなしで様子が変なの」
困ってしまってぇ、
という様子はアカデミー賞ものだ。
しかしあたしのセンサーが
120パーセント嘘だと警告している。
「うん。それで?」
「実は、佐吉が咥えているスエットの切れ端も、
帰って来た時にその辺に引っかかったの。
まるでトリップしてるかのようで、
とにかく彼女の安全のためにお部屋に入ってもらって、
ぶつかると危ないものはすべて取り除いて
鍵をかけたの。もちろん、ジュースとおやつを出してから」
「おやつ! ジュース! 最高!
エミリさんの出すの、世界ナンバーワン!
キャハハハ!」
大したタマだ。
ほんとに20代?
こんなに器用に、
ああ言えばこう言う。
意を決したルイがジェイミーの手を取り、
ぐいっと引っ張る。
「行こう」
「えー? どこへ?」
「絹糸の滝の2人の愛の巣に戻ろう」
「やだ! ここが楽しいの! キャハハ」
エミリの顔に、一瞬、勝ち誇ったような
歪んだ笑みが浮かんだのをあたしは見逃さなかった。
「湛山、ジェイミーを抱えてでも連れ出して。
公用車までいけば青木さんが何とかしてくれるわ」
「分かった」
エミリは、まるで母親のように心配そうな顔をして
ジェイミーを気遣う(フリ!)をし、
湛山とルイに彼女を渡してほっとしたかのような
表情だ。
その表情のまま、壁に崩れ落ちるようにしたその時。
壁の小さなボタンを押した。
微かな、不穏な金属音。
洞窟ログハウスの奥からシューッと不気味な噴射音とともに、
あのリンゴの腐ったような匂いが、
この家に入った時の100倍濃度で一気に広がった。
「な、何だこれ⁉ 煙がでてきたぞ!」
ルイが自分の身体でジェイミーを庇いながら叫ぶ。
「火事か?」
「いやあああ! なぜかわからないけど、
誰かが私の家を襲っているんだわ! 逃げなきゃ!」
エミリが頭を抱え、誰よりも大声でパニックになった。
被害者であるかのように叫んでいるが、あたしのセンサーは
「自作自演度300パーセント」と激しくエラーを吐き出している。
見る見るうちに白い煙が立ち上り、眼の前が真っ白に遮られていく。
マズい…! この煙、ただの煙幕じゃないぞ。
吸ったらジェイミーみたいにバグるやつだ!
視界ゼロ。呼吸困難。
湛山やルイの怒鳴り声も、煙の向こうで遠ざかっていく。
このままでは全員がエミリの術中にハメられて、
恐らく長野原の藻屑にされてしまう!
大急ぎで煙のデータをスキャンし始めると、
すぐ近くの暗闇からレディの冷徹極まりない、
しかしひどく落ち着いた声が聞こえた。
「佐吉、おいで。早く。あのフェイク美魔女の毒ガスを、
一発で吹き飛ばしてやるのよ」
「フェイク美魔女」という言葉に対し、
佐吉の「クオオン?」という、
多分、「そんな人じゃないよ?」って反応だ。
レディはそれを完璧に無視したようだ。
「いいから。特大スペシャルなやつを一発。
できるわよね? 私のためにやってくれるわよね?」
「オン!」
暗闇の向こうから力強い返事が返ってきた。
こんな緊急事態でも、大好きなレディの命令なら
喜んで従う。愛いヤツだ。
次の瞬間——
ブドオオオオオン‼
ログハウスの壁が振動する。
この洞窟、壊れるんじゃないかと思えるくらいの
凄まじい爆音とともに、佐吉の秘密屁器、
「特大スペシャルおなら砲」が炸裂した。
これはもはや、ただの生理現象ではない。
野犬の体内で圧縮された、
超強力なガストルネードだった。
「ゲホッ!」
「ゴホッ!」
「…プハッ‼ な、なに、これえええ⁉」
エミリの甲高い叫び声が響き渡る。
佐吉が放ったすさまじい風圧と、
それを遥かに凌駕する圧倒的な獣臭のガスにより、
部屋に充満していたリンゴの毒煙は
一発で屋外へと吹き飛ばされ、
洞窟ログハウスは完全なる
「犬の屁の匂い」へと強制上書きされた。
湛山と佐吉——特に佐吉だが――
あたしとバディを組ませた総理の判断は
正しかった。お見事という他ない。
毒ガスによる全滅の危機は去った。
去ったのだが… あたしの匂いセンサーは、
別の意味で致死レベルの数値を叩き出していた。
しっかり、風上に避難していた我が才女犬は、
煙の晴れた部屋で上品に前足を舐めていた。
見ると、エミリは気絶して倒れている。
今だ。
「公用車だ! 急いで(ゲホッ)外に出て公用車に避難だ!」
どうしてこいつはいつも、あたしが決め台詞を言おうとすると
先を越してくるんだか。
ま、ぼやいている暇はない。
「行きましょう!」
急いで全員で洞窟ログハウスを後にした。




