↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こはる行政書士見習帖 〜 昭和に転生して許認可に振り回されると試験知識が骨身にしみます 〜  作者: 条文小説
〈行政法 配点112点/300点〉 行政手続法

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/281

[行政手続法23条・不出頭等の場合における聴聞の終結]法理編 こはるノート

挿絵(By みてみん)

 夕方の片桐行政書士事務所は、昼間より少しだけ法律が似合います。


 電話が減る。


 来客も途切れる。


 窓の外では、駅前の工事現場から帰るトラックの音が遠ざかっていく。


 そして机の上には。


「……ありません」


「何が」


 相馬先輩が新聞から顔を上げました。


「唐揚げです」


「昨日食っただろ」


「全部?」


「全部」


「私の意見を聞かずに?」


「食い物に聴聞はない」


「ものすごく今日のテーマに喧嘩売ってきますね」


 私はため息をつき、ノートを開きました。


 昨日――正確には、一週間かけて片づけた三宅食堂の件。


 市有地上の仮設店舗の使用承認を取り消すかどうか。


 その判断に先立って、市役所は三宅さんから事情を聞く機会を設けていました。


 ところが当日。


 三宅さんは来なかった。


 書面も出なかった。


 証拠書類も出ていなかった。


 ただし、理由は心臓の発作による緊急入院。


 翌朝、奥さんから連絡があり、


 説明したい。


 改善工事の資料もある。


 そう申し出た。


 そこで市役所は、改めて本人を呼ぶ代わりに、一週間の期限を切って書面と証拠を出してもらうことにした。


 そして期限到来後、その資料も踏まえて判断した。


 私はノートの上に書きました。


 ――不出頭等の場合における聴聞の終結。


 未来の言葉です。


 昭和六十三年には、まだ行政手続法そのものがありません。


 でも、私は知っています。


 数年後。


 こういう現場の問題を整理する形で、行政手続法ができる。


 そして、今日の問題には、ちゃんと条文番号まで付く。


「二十三条」


 小さく呟くと、相馬先輩が顔を上げました。


「何だ?」


「いえ、未来の独り言です」


「また意味不明なこと言ってるな」


「気にしないでください」


 気にされたら困ります。


 私は一本、線を引きました。


 まず。


 聴聞という手続では、役所が不利益な処分をしようとする人に、


 あなたについて、こういう処分を考えています。


 言いたいことがあるなら聞きます。


 証拠があるなら出してください。


 そういう機会を与えます。


 未来の行政手続法では、この仕組みがかなり細かく整えられる。


 そして、その聴聞を進行する役割を担う人が、


 主宰者。


 私はノートに書きます。


 主宰者。


 聴聞を進行し、必要な整理を行い、終結させる役割を担う人。


「先輩」


「何だ」


「“主宰者”って字面、ちょっと偉そうですよね」


「知らん」


「会議のラスボス感あります」


「だから何だ」


「受験生は、知らない言葉に威圧されるんです」


「お前だけだ」


 そうかもしれません。


 でも、主宰者という言葉だけ見ると、何でも決められそうに見えます。


 実際には、そうではない。


 聴聞を進行する人。


 今日で言えば、三宅さんの事情を聞く手続をまとめる立場。


 最終的な処分を決める行政庁そのものとは、役割が違います。


 私は次に書きました。


 当事者。


 これは何か。


 聴聞の通知を受けた者。


 つまり、不利益処分の名あて人となる予定の本人。


 今回なら。


 三宅さん。


「ここは簡単ですね」


「何が」


「当事者」


 相馬先輩が鼻を鳴らしました。


「簡単だと思ったところから試験は刺してくるぞ」


「怖いこと言わないでください」


「事実だ」


 その言葉に私は少し慎重になります。


 行政法は、


 なんとなく意味は分かる。


 という場所が一番危ない。


 当事者。


 参加人。


 行政庁。


 主宰者。


 似たような登場人物が一気に出てきます。


 でも今日のテーマで中心になるのは、まず当事者です。


 その当事者が。


 聴聞の日に来なかったらどうするのか。


 ここからが本題でした。


 私は大きく書きます。


 不出頭=必ず聴聞やり直し。


 ではない。


「ここ、昨日の話ですね」


「ああ」


 相馬先輩が頷きます。


「三宅の旦那が来なかったからって、何度でも呼び続けるわけにはいかん」


「そうなんです」


 未来の行政手続法二十三条一項。


 その考え方は、かなり現実的です。


 当事者が。


 正当な理由なく。


 聴聞の期日に出頭せず。


 しかも。


 陳述書も証拠書類等も出さなかった。


 そういう場合。


 主宰者は、その人にもう一度、


 意見を言ってください。


 証拠を出してください。


 という機会を改めて与えなくても、


 聴聞を終結することができる。


 私はノートに、条件を分けて書きました。


 正当な理由なく出頭しない。


 かつ。


 陳述書・証拠書類等も提出しない。


 この二つです。


「先輩」


「何だ」


「“来なかった”だけじゃないんですよね」


「何が」


「終結できる場面です」


 昨日。


 倉田係長は最初、


 来なかった。


 だから終わり。


 という扱いをしようとしていました。


 でも未来の条文は、もう少し丁寧です。


 正当な理由なく。


 出頭しない。


 しかも。


 書面や証拠も出さない。


 そこまで揃って初めて、


 もう一度機会を与えなくても終結できる。


「つまり」


 私はペンを動かします。


「“欠席”だけ切り取るんじゃない」


「そういうことだな」


「理由を見る。書面があるかも見る。証拠も見る」


「うん」


「来なかった人が、何も言う気がないのか。それとも別の方法で言おうとしているのかを分ける」


 その言葉を口にした瞬間。


 三宅さんの病室が頭に浮かびました。


 あの人は、来なかった。


 でも。


 言いたいことがなかったわけではない。


 むしろ、山ほどあった。


 床を直した。


 冷蔵庫を替えた。


 排水口も直した。


 ただ当日、倒れた。


 だから今回、


 「正当な理由なく不出頭」


 とは、とても言いにくい。


 私はノートの端に小さく書きます。


 不出頭と、反論放棄は同じではない。


「昨日、お前が言ってたやつだな」


 相馬先輩が覗き込みました。


「はい」


「でも気をつけろよ」


「何をです?」


「来なかったら何でも救済される、みたいに書くな」


 そこ。


 大事です。


 私は頷きました。


「正当な理由なく来なかった場合、ですもんね」


「そうだ」


「しかも書面も証拠も出さない」


「そうだ」


「その場合は、もう一度機会を与えず終えてもいい」


「うん」


 行政手続法は優しい法律ではありません。


 少なくとも、


 困った人を何度でも待ってくれる法律ではない。


 むしろ。


 機会は与える。


 でも、使わなかったなら先へ進む。


 その線を引く法律です。


 私は少し考えてから言いました。


「冷たいですね」


「手続なんてそんなもんだ」


 相馬先輩が言います。


「でも」


 奥で書類を見ていた片桐所長が、顔も上げずに言いました。


「冷たいから、誰にでも同じ線を引ける」


 私はペンを止めました。


 それ。


 今日のテーマそのものかもしれません。


 情で判断すれば。


 かわいそうな人は待つ。


 感じの悪い人は待たない。


 役所に何度も電話する人は待つ。


 黙っている人は切る。


 そんなことになりかねない。


 でもルールがあるなら。


 正当な理由があるか。


 書面は出たか。


 証拠は出たか。


 そういう具体的な条件で判断できる。


 私は次の見出しを書きました。


 では。


 正当な理由がある場合は?


 今回の三宅さんです。


 入院。


 出頭は難しい。


 しかも、すぐには退院できそうにない。


 こういうとき。


 未来の行政手続法二十三条二項は、もう一段、現実的な仕組みを持っています。


 当事者が聴聞の期日に出頭せず。


 しかも陳述書や証拠書類等も出していない。


 その上で。


 その人が相当期間、今後も聴聞の期日に出頭できそうにない。


 そんな場合。


 主宰者は。


 期限を定めて、


 陳述書や証拠書類等の提出を求める。


 そして。


 その期限が来たときに、


 聴聞を終結することができる。


 私はそこに二重線を引きました。


「これ、昨日そのままやりましたね」


「ああ」


「本人をもう一回呼ばずに、一週間」


「書面と資料を出せ」


「期限が来たら終わり」


「そういう話だったな」


 私は少しぞくっとしました。


 もちろん。


 昭和六十三年の現場で、


 行政手続法二十三条二項に従った。


 わけではありません。


 そんな法律はまだない。


 でも。


 現場の合理的な処理として出てきた考え方が、


 後の法律とほとんど同じ形をしている。


「法律って」


 私は呟きました。


「後から言葉になるんですね」


「何がだ」


「先に困りごとがある」


 相馬先輩が新聞をたたみました。


「当たり前だろ」


「そうなんですけど」


 私は少し笑いました。


「受験勉強してると逆に見えるんです」


「どういう意味だ」


「最初に条文があって、それを現実に当てはめる感じ」


「違うのか」


「本当は逆もあるんだなって」


 人が来ない。


 でも待てない。


 ただ、切るのもまずい。


 じゃあ書面で出してもらう。


 期限を決める。


 そこで終える。


 そういう現場の知恵や問題意識が積み重なって、条文になる。


 私は未来の行政手続法を、


 完成品としてしか見ていなかったのかもしれません。


 片桐所長が言いました。


「法律は、困った後にできるものも多い」


 短い。


 重い。


 そしてたぶん、かなり本質です。


 私は次に、


 一項と二項の違い。


 と書きました。


 ここ。


 試験で混ぜられそうです。


 一項。


 正当な理由なく来ない。


 書面も証拠も出さない。


 この場合は、


 改めて意見や証拠提出の機会を与えず、聴聞を終結できる。


 二項。


 出頭しない。


 書面も証拠も出さない。


 ただし、今後もしばらく出頭が見込めない。


 この場合は、


 期限を定めて書面・証拠提出を求める。


 そして期限到来時に終結できる。


「違いは?」


 相馬先輩が聞きました。


「一項は、もう一度チャンスを与えなくても終えられる」


「うん」


「二項は、書面で出す期限を一度区切る」


「うん」


「その期限が来たら終える」


「そうだな」


「要するに」


 私はノートに丸で囲みます。


 一項。


 来ない。出さない。正当な理由もない。


 →そのまま終結可。


 二項。


 来ない。出さない。しかも今後もしばらく来られそうにない。


 →書面等の提出期限を設定。


 →期限到来で終結可。


「ずいぶん雑な覚え方だな」


「試験ではこのくらいの勢いが必要なんです」


「知らん」


 私は続けます。


「でも、二項って病気限定じゃないですよね」


 所長が顔を上げました。


「当然だ」


「長期入院は分かりやすい例だけど、条文上は“相当期間出頭が見込めない”場合」


「そうだ」


「理由は病気に限られない」


「うん」


 ここも大事。


 現場編では、三宅さんが入院していた。


 だから病気の印象が強い。


 でも法律として覚えるときは、病気に固定してはいけません。


 見るのは。


 相当期間、出頭が見込めないこと。


 私はその横に、


 具体例と要件を混同しない。


 と書きました。


「受験生みたいですね」


「受験生だろ」


「たまに忘れます」


「昭和で働いてるからな」


 そこは本当にそうです。


 私はさらにページをめくりました。


 そして、少し考えます。


「所長」


「何だ」


「一項の条文、当事者だけじゃなくて参加人も出てきますよね」


 所長がこちらを見ました。


「知ってるなら言ってみろ」


 また口頭試問です。


 この事務所、油断するとすぐ試験会場になる。


「参加人が全部または一部、聴聞の期日に出頭しない場合も……主宰者は、その人たちに改めて意見を述べたり証拠を出したりする機会を与えず、聴聞を終結できる」


「そうだ」


「でも当事者の場合と書き方が違う」


「どこが」


 私は指を折りました。


「当事者は、“正当な理由なく出頭しない”うえに、“陳述書や証拠書類等も提出しない”ことが書かれてる」


「うん」


「参加人は、条文上は“不出頭”で整理されてる」


「そうだな」


 私は眉を寄せました。


「細かい」


「試験は細かいところを聞く」


「嫌な制度ですね」


「試験制度に文句言うな」


 でも。


 現場に置き換えると少し分かる。


 当事者は。


 不利益処分を受ける本人です。


 だから、その人の意見を聞く機会は特に重要になる。


 一方で参加人は、聴聞に参加することを認められた利害関係人。


 本人とは立場が違う。


 同じ「来ない」でも、法律上の扱いが完全に同じとは限らない。


 私はノートに書きます。


 当事者と参加人を混ぜない。


 人間関係で整理する。


 主役。


 三宅さん。


 不利益処分の名あて人。


 これが当事者。


 もし、その処分に利害関係のある別の人が聴聞に参加することを認められれば。


 その人は参加人。


「人間関係で置くと、少し楽ですね」


「最初からそうしろ」


 相馬先輩が言います。


「論点で喋るな」


「それ、先輩の決め台詞になってません?」


「知らん」


 私は笑って、次に進みました。


 ここで一つ。


 ものすごく重要な点。


 聴聞を終結することができる。


 できる。


 です。


 必ず終結しなければならない。


 ではない。


「これも出ますよね」


「何が」


「“できる”と“しなければならない”」


「出そうだな」


「行政法、助動詞まで敵ですね」


「日本語の試験でもあるからな」


 本当にそうです。


 主宰者は。


 要件を満たしたら必ず聴聞を終わらせる。


 のではない。


 終結することができる。


 裁量の余地がある。


 私はそこを四角で囲みました。


 そして、昨日の倉田係長との会話を思い出します。


 もう一度呼ぶ義務はあるんですか。


 あの質問。


 答えは。


 必ず再度呼ぶ義務がある。


 ではない。


 そこを間違えると、話が逆になります。


「昨日の私、危なかったですよね」


「いつものことだ」


「そこは否定してください」


「何が危なかった」


「“病気なんだからもう一回必ず機会を与えて”って言い切ってたら」


「間違いか?」


「未来の法律では、少なくともそう単純じゃないです」


 私は未来の条文を頭の中でなぞります。


 正当な理由なく来ず、書面も出さないなら、改めて機会を与えず終結できる。


 相当期間出頭が見込めない場合は、期限を切って書面提出を求め、期限到来で終結できる。


 つまり制度の目的は、


 何度でも本人を呼び続けること。


 ではない。


 適切な形で一度は言い分を出せるようにし。


 それでも出ないなら終わらせること。


 そこです。


 私はノートに書きました。


 聴聞は、終わらせてはいけない手続ではない。


 適切に終わらせるための手続でもある。


 相馬先輩が覗き込みます。


「少し格好つけすぎじゃないか」


「たまにはいいでしょう」


「まあ、意味は分かる」


 珍しく褒められました。


 たぶん。


 私はさらに整理します。


 聴聞がある。


 期日が決まる。


 当事者が来ない。


 ここで即、


 終わり。


 ではない。


 まず見る。


 正当な理由があるか。


 陳述書が出ているか。


 証拠書類等が出ているか。


 そして。


 今後も相当期間、出頭できそうにないのか。


 そこまで見たうえで。


 そのまま終結できる場面なのか。


 期限を切って書面提出を求める場面なのか。


 判断する。


「一個ずつですね」


「何が」


「条件」


 私は昨日の市役所を思い出しました。


 来なかった。


 だから終わり。


 それは、結論まで一段飛ばしていた。


 本当は。


 来なかった。


 なぜ。


 書面は。


 証拠は。


 今後出られるのか。


 そこを挟む。


 たった数個の問いです。


 でも、その数個で、


 一人の食堂主が、


 黙って逃げた人。


 から。


 病気で来られなかったけれど、改善資料を持っていた人。


 へ変わった。


 事実は同じなのに。


 整理の仕方だけで、見え方が変わる。


「行政法って」


 私は言いました。


「人を助けるというより、決めつけを止める法律なのかもしれませんね」


 所長が少しだけ頷きました。


「そういう部分もある」


 短い。


 でも。


 それで十分でした。


 私は最後のページを開きます。


 試験用。


 ここは少し真面目に書きます。


 当事者。


 聴聞の通知を受けた者。


 不利益処分の名あて人となる者。


 正当な理由なく不出頭。


 かつ。


 陳述書・証拠書類等の提出なし。


 主宰者は。


 改めて意見陳述・証拠提出の機会を与えず、


 聴聞を終結することができる。


 また。


 当事者が不出頭で、


 陳述書等も出しておらず、


 相当期間、今後の出頭も見込めない場合。


 主宰者は。


 期限を定めて陳述書・証拠書類等の提出を求め、


 その期限が来たときに聴聞を終結することができる。


「覚える量、少ないですね」


「じゃあ余裕だな」


「こういうところほど選択肢で変な捻り方してくるんです」


「たとえば?」


 相馬先輩が聞きます。


 私は考えました。


「当事者が一回欠席したら、主宰者は必ず聴聞を終結しなければならない」


「×だな」


「はい」


「理由は?」


「正当な理由なく不出頭、かつ書面や証拠の提出もないことが必要。それに“できる”であって“しなければならない”じゃない」


「他は」


「当事者が出頭できない場合、必ずもう一度期日を指定しなければならない」


「これも×か」


「はい。相当期間出頭が見込めない場合は、期限を切って陳述書や証拠書類等の提出を求め、その期限が来たときに終結することができる」


「他は」


「一項と二項をごちゃ混ぜにするやつ」


「具体的に言え」


 厳しい。


 私は少し考えます。


「正当な理由なく不出頭なら、必ず書面提出の期限を新たに与えなければならない、とか」


「×だな」


「一項では、要件を満たせば改めて機会を与えず終結できるから」


「よし」


 私、今ちょっと模試を受けている気分です。


 昭和の行政書士事務所なのに。


 未来の試験対策をしている。


 時間軸が忙しい。


「所長」


「何だ」


「こういう条文って、結局何を守ってるんでしょう」


 所長は少しだけ考えました。


「二つだ」


「二つ?」


「言い分を出す機会と、手続を終わらせること」


 私はそのままノートに書きました。


 言い分を出す機会。


 手続を終わらせる必要。


 たしかに。


 どちらか一方だけなら簡単です。


 住民の権利を最大限に守ります。


 なら、永遠に待てばいい。


 行政の効率を最大限にします。


 なら、一回来なかったら終わりでいい。


 でも。


 現実はその間です。


 言える機会は保障する。


 でも、使わなければ先へ進む。


 出られない事情があるなら、書面という別の道を用意する。


 ただし、それにも期限を設ける。


 優しい制度ではない。


 でも。


 雑でもない。


 私は三宅さんの言葉を思い出しました。


 何も言えないまま終わるのが、一番嫌だったんです。


 あの人に必要だったのは、


 絶対に営業を続けさせてもらえること。


 ではなかった。


 まず。


 自分の話が判断材料に入ること。


 それでした。


 結果は、行政が決める。


 でも。


 言い分を入れる入口まで、雑に閉じてはいけない。


 そして入口を開けた以上。


 いつまでも開けっぱなしにもできない。


 私はノートの最後に、一行の覚え書きを書きました。


 ――来なかった人を、無限には待たない。でも、来なかった理由まで消したことにはしない。


 相馬先輩が横から読みました。


「長い」


「一行です」


「文字数が多い」


「じゃあ先輩なら?」


 相馬先輩は少し考えました。


「来ない。出さない。理由もない。なら終われ」


「乱暴!」


「分かりやすいだろ」


「試験対策としては強いのが腹立ちますね」


 片桐所長が奥から言いました。


「もう一行足せ」


「何をです?」


「来られないなら、書面で期限を切れ」


 私は笑いました。


 結局。


 一番分かりやすいのは、その二つかもしれません。


 私は覚え書きの下に、もう二行書きました。


 正当な理由なく来ない。書面も証拠もない。なら、改めて機会を与えず終結できる。


 しばらく来られない。なら、期限を切って書面と証拠を求め、期限到来で終結できる。


 これなら忘れない。


 三宅さんの顔も一緒に浮かぶ。


 病室。


 写真。


 領収書。


 一週間。


 そして。


 終わるべきところで終わった手続。


 未来の行政手続法二十三条は、文字だけなら冷たいです。


 不出頭。


 期限。


 終結。


 どれも、人の事情を切り捨てるような言葉に見える。


 でも。


 現場で見ると、少し違う。


 終わらせるためのルールがあるからこそ、


 その前に何を確認しなければならないのかが見える。


 理由。


 書面。


 証拠。


 出頭の見込み。


 そこを飛ばして、


 来なかったから終わり。


 とは言わせない。


 一方で、


 事情があるから永遠に待って。


 とも言わせない。


 制度は冷たい。


 でも。


 冷たいからこそ、


 情で待つ人と、


 情で切られる人を作りにくくする。


 私はノートを閉じました。


「終わったか」


 相馬先輩が聞きます。


「はい」


「じゃあ茶」


「自分で入れてください」


「先輩だぞ」


「その地位に、お茶を要求する法的効果はありません」


「内部規則だ」


「誰が決めたんです?」


「俺」


「外部的拘束力なし」


「お前は内部の人間だろ」


「しまった」


 相馬先輩が勝ち誇った顔をします。


 所長が新聞をめくりながら言いました。


「こはる」


「はい」


「茶」


「所長まで?」


「業務命令だ」


「急に法的に強そうな言葉を使わないでください!」


 相馬先輩が笑います。


 私は立ち上がりました。


 どうやら片桐行政書士事務所では、


 意見を述べる機会は保障されても。


 お茶当番の終結だけは、なかなか認められないようです。

 以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こはる行政書士見習帖 〜 昭和に転生して許認可に振り回されると試験知識が骨身にしみます 〜
宅建見習い栞の人情事件簿 〜転生したら昭和の不動産屋だったので、巻き込まれているうちに宅建過去問が解けるようになりました〜
名探偵 藤原彰子の宮中事件簿 ――『転生皇后 藤原彰子』スピンオフ外伝
転生皇后 藤原彰子 〜 欠けることのない望月の世は私が創る 〜
新訳 太閤記 ~ 転生 豊臣秀吉、未来を識る僕は史実の道を静かに歩む 〜
新訳 三河物語 〜 徳川家康と家臣団の戦国サバイバル 〜 with 逆行転生犬シロ
新訳 北条五代記 〜 近所の隠居が書いたメモがガチの戦記だった件〜
美しき女帝 北条政子 〜 婚約破棄どころか強制結婚!? 平家のエリートに嫁がされそうになったので、豪雨の山を越えて愛する無職の元へ走ってみた 〜
新訳 曽我物語 〜 復讐系なろうの原点、父を殺された兄弟の二十年の復讐譚〜
箴言・格言・名言集 〜頑張るあなたへ、今日を乗り越えるための一言〜
拝啓、愛読者様。― 想いを少しだけ 謹呈 条文小説
六道輪廻抄 〜 戦国転生記 〜
コミックス「六道輪廻抄〜戦国転生記〜」
動画生成AIが作成したイメージビデオ
動画生成AIが作成したなろう小説イメージビデオ
動画生成AIが作成したなろう小説イメージビデオ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。