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こはる行政書士見習帖 〜 昭和に転生して許認可に振り回されると試験知識が骨身にしみます 〜  作者: 条文小説
〈商法・会社法 配点20点/300点〉 株式会社の機関    

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644/701

[会社法・累積投票による取締役の選任]法理編 こはるノート

挿絵(By みてみん)

 六十は、四十より大きい。


 これは、小学生でも分かる算数です。


 ところが。


 会社の取締役を選ぶときには、その算数だけでは答えが出ないことがあります。


 百株のうち、六十株を持つ社長。


 残り四十株を持つ少数株主たち。


 普通なら、六十株を持つ社長が有利です。


 でも。


 ある投票方法を使うと、四十株の少数株主が取締役を一人選任できる。


 その仕組みが。


 ――累積投票。


 昭和六十三年。


 夕方の片桐行政書士事務所。


 私は机に向かい、ノートを開いていました。


 表紙には、大きく書いてあります。


 ――こはるノート・商法編。


「……先輩」


「何だ」


「私、今回の事件で一つ分かったことがあります」


 相馬先輩が新聞から顔を上げました。


「ほう」


「六十って、必ずしも四十に勝つわけじゃないんですね」


「算数を勉強し直せ」


「違います!」


 私は机を叩きました。


「累積投票の話です!」


「ああ、杉浦精機の件か」


「そうです!」


 株式会社杉浦精機。


 発行済株式は百株。


 社長の杉浦剛志が六十株。


 創業者の妻である杉浦和子さんが三十株。


 元従業員の田辺清蔵さんが十株。


 社長は、自分の推薦する二人を取締役に選ぼうとしていました。


 ところが。


 和子さんたちは、累積投票を請求。


 四十株分の票を一人の候補者に集中させました。


 結果。


 社長の推薦する候補者一人と、和子さんたちの推薦する長谷川修一さんが当選。


 社長が狙っていた取締役二名の独占は、失敗しました。


「いやあ……」


 私はノートを見つめました。


「何度思い出しても、気持ちいいですね」


「お前、社長の顔を見たかっただけだろ」


「ちょっとだけです!」


「ちょっとかよ」


 相馬先輩が呆れています。


 でも。


 今日は、ただ事件を思い出すだけではありません。


 なぜ四十株で取締役を選べたのか。


 なぜ普通の多数決では駄目なのか。


 そして。


 昭和の商法と、現代の会社法では何が違うのか。


 その仕組みを、完全に理解します。


「よし!」


 私は鉛筆を握りました。


「今日のテーマは、累積投票です!」


 奥から片桐所長の声がしました。


「相馬」


「はい」


「付き合ってやれ」


「……またですか」


 よし。


 今日も強制勉強会、開催です。


「まず、普通の取締役選任から整理します!」


 私はノートに書きました。


 ――通常の取締役選任。


「取締役は、株主総会で選任されます」


「そうだ」


「株主が、会社の経営を任せる人を選ぶんですよね」


「ああ」


 株式会社には、株主がいます。


 株主は、会社に出資した人たちです。


 でも、株主全員が直接会社を経営するわけではありません。


 そこで。


 会社の業務を担う取締役を選ぶ。


 これが基本です。


「ところで先輩」


「何だ」


「杉浦精機では、社長が六十株を持っていましたよね」


「ああ」


「一株一議決権なら、百株のうち六十票です」


「そうだ」


 私は紙に書きました。


 社長・剛志。


 六十株。


 和子さん。


 三十株。


 田辺さん。


 十株。


 合計百株。


「この百株が、取締役二名を選ぶとします」


「うん」


「普通の選任方法なら、候補者ごとに選任の決議を行います」


 今回の教材で想定するような、一株一議決権で全株主が議決権を行使する会社なら。


 社長が推薦する候補者X。


 賛成六十。


 反対四十。


 候補者Y。


 賛成六十。


 反対四十。


「どちらも過半数の賛成を得ることになります」


「そうだな」


「だから、社長の推薦するXとYが選ばれる」


 私は頷きました。


 つまり。


 少数派が四十株を持っていても、普通に候補者ごとの多数決を繰り返す限り、六十株の社長に負け続ける。


「これ、少数株主からしたら、かなり厳しいですね」


「まあな」


「どれだけ優秀な候補者を推薦しても、社長が反対したら通らない可能性が高い」


「そういうことだ」


 私は考えました。


 社長がまともに会社を経営しているなら、まだよいかもしれません。


 でも。


 杉浦精機のように。


 会社の金を私的に使っている疑いがある。


 経営に反対する役員を排除しようとしている。


 そんな社長が過半数の株を握っていたら。


「先輩」


「何だ」


「社長の推薦する取締役ばかりになってしまいますね」


「ああ」


「そうなると、社長に意見できる人がいなくなる」


 相馬先輩が頷きました。


「それが問題になることもある」


 私はノートに書きました。


 ――通常の選任では、多数派が複数の取締役の選任を支配しやすい。


 なるほど。


 だからこそ。


 累積投票という仕組みが必要になるわけです。


「では、いよいよ累積投票です!」


 私は次のページを開きました。


 ――累積投票。


 取締役を二名以上選任するとき、株主が一株につき選任人数と同じ数の票を持ち、その票を候補者に集中または分散して投じる方法。


「ここ、最初に間違えやすいところです」


「何がだ」


 相馬先輩が聞きました。


「一株一票という基本だけを覚えていると、混乱するんですよ」


 私は大きく書きました。


 取締役二名選任。


 一株につき二票。


 取締役三名選任。


 一株につき三票。


 取締役四名選任。


 一株につき四票。


「つまり、選ぶ取締役の人数に応じて、一株当たりの票数が増えるんですね」


「そうだ」


「ただし、この票は累積投票による取締役選任のためのものです」


 ここも大事です。


 一株が二票になるからといって。


 会社のすべての議案について、二票を持てるわけではありません。


 取締役二名を選ぶ累積投票だから、二票。


 ほかの議案まで、勝手に二倍になるわけではないのです。


「よし」


 私は杉浦精機の数字を書きました。


 百株。


 取締役二名。


 だから。


 百掛ける二。


 全部で二百票。


「ここからです!」


 私は鉛筆を走らせました。


 剛志。


 六十株掛ける二。


 百二十票。


 和子さん。


 三十株掛ける二。


 六十票。


 田辺さん。


 十株掛ける二。


 二十票。


 合計。


 二百票。


「どうですか!」


 相馬先輩が頷きました。


「計算は合ってる」


「やった!」


「小学生の算数だけどな」


「そこは褒めてください!」


 でも。


 本当に重要なのは、ここからです。


「先輩。累積投票の最大の特徴は何ですか?」


「お前が説明しろ」


「はい!」


 私は赤鉛筆を持ちました。


「自分の持ち票を、一人の候補者に集中できることです!」


 そう。


 これです。


 たとえば。


 和子さんの六十票。


 田辺さんの二十票。


 この二人が長谷川さんを推薦している。


 そこで。


 和子さんは六十票全部を長谷川さんへ。


 田辺さんも二十票全部を長谷川さんへ。


 合計八十票。


「一人の候補者が、八十票を獲得します!」


 私は大きく丸をつけました。


 ――長谷川修一・八十票。


「一方、社長は百二十票でしたね」


「ああ」


「社長が自分の候補者二人を当選させたいなら、その票を分けなければなりません」


「そうだな」


 たとえば。


 Xに六十票。


 Yに六十票。


 そう分けた場合。


 X。


 六十票。


 Y。


 六十票。


 長谷川。


 八十票。


「長谷川さんが第一位です!」


「そうだ」


「そして、残る一議席をXとYが争うことになります」


 この場合、XとYは同票です。


 同票時の取扱いは、適用される手続や定款等を確認する必要があります。


 でも。


 少なくとも長谷川さんの八十票を、XとYの両方が上回ることはできません。


「どうしてですか?」


 私は自分で問いかけました。


 そして。


 紙に書きました。


 八十票を上回るためには、少なくとも八十一票が必要。


 二人とも八十一票以上を取るには。


 百六十二票以上が必要。


 ところが。


 社長の持ち票は、百二十票。


「足りません!」


 私は顔を上げました。


「つまり、社長は二人とも八十票を超えさせることができないんです!」


 相馬先輩が頷きました。


「そこが核心だ」


 私は、ようやく納得しました。


 少数派の四十株。


 その四十株が、一人に八十票を集中させる。


 多数派の六十株は、百二十票。


 でも。


 二人を同時に八十票より上に置くことはできない。


 だから。


 少数派にも、一議席を確保する道が開ける。


「なるほど……!」


 私は鉛筆を握り直しました。


「これ、ただ票を増やす制度じゃないんですね」


「そうだ」


「多数派がすべての議席を独占することを、防ぐ仕組みなんですね!」


 片桐所長が、奥から短く言いました。


「ただし、必ず防げるとは限らん」


 私は顔を上げました。


「はい?」


「少数派の持株数が足りなければ、集中しても当選できないことはある」


「あ……」


 そうでした。


 累積投票を使えば、どんな少数株主でも必ず取締役を選べる。


 そんな魔法ではありません。


 何株持っているか。


 何人選ぶか。


 誰に何票を投じるか。


 そうした条件によって、結果が変わります。


「はい。そこは注意ですね」


 私はノートに書きました。


 ――累積投票は、少数株主に当選の可能性を与える制度であり、すべての少数株主の当選を保証する制度ではない。


「ところで」


 相馬先輩が言いました。


「実際の杉浦精機では、社長は何票ずつ配分した?」


「はい!」


 私は前回の事件を思い出しました。


 社長の持ち票。


 百二十票。


 候補者X。


 百票。


 候補者Y。


 二十票。


 一方。


 長谷川さん。


 八十票。


「結果は?」


 相馬先輩が聞きました。


「第一位、Xが百票!」


「うん」


「第二位、長谷川さんが八十票!」


「うん」


「第三位、Yが二十票!」


「で?」


「取締役二名を選ぶので、Xと長谷川さんが当選です!」


 私は笑いました。


 あの社長。


 株式を六割持っていることに、絶対の自信を持っていました。


 でも。


 累積投票では、株式数が多いだけでは二人とも選任できない場合がある。


 社長は、自分の持ち票を一人に百票も集中させた。


 その結果。


 もう一人には、二十票しか残らなかった。


「先輩」


「何だ」


「これ、社長が百票と二十票に分けたのが悪かったんですか?」


「それだけじゃねえな」


「え?」


「今回は、どう分けても二議席独占はできなかった」


 私は目を見開きました。


「……あ!」


 そうです。


 社長が六十票ずつ配分しても。


 長谷川さんの八十票が上に来る。


 社長が百票と二十票に分けても。


 長谷川さんの八十票は二位になる。


 社長が百二十票を一人に集中すれば。


 社長の候補者一人と、長谷川さんの二人が当選する。


 つまり。


 今回の条件では。


 少数派が四十株分の八十票を一人に集中させた時点で、社長の二議席独占は阻まれるのです。


「……すごい」


 私は呟きました。


「社長の配分ミスだけで勝ったわけじゃないんですね」


「そういうことだ」


 相馬先輩が言いました。


「相手がどんな配分をしても、こちらの一人を落とせない。それが今回の四十株の強さだ」


 私は赤鉛筆で囲みました。


 ――四十株を一人に集中すれば、六十株の多数派は二議席を独占できない。


 これです。


 この一行。


 今回の事件の、一番大事な部分です。


「でも、先輩」


「何だ」


「もし少数派が、二人の候補者を推薦していたらどうなりました?」


「ほう」


 相馬先輩がこちらを見ました。


「考えてみろ」


 私は別の紙を取り出しました。


 少数派。


 四十株。


 持ち票八十票。


 これを。


 候補者Zに四十票。


 候補者Wに四十票。


 と分散させた場合。


 一方、社長は百二十票を持っている。


 社長がXに六十票。


 Yに六十票。


 そう配分すると。


 X。


 六十票。


 Y。


 六十票。


 Z。


 四十票。


 W。


 四十票。


「……あれ?」


 私は固まりました。


「社長の候補者二人が、両方当選しちゃいます!」


 相馬先輩が笑いました。


「そうだ」


「同じ四十株なのに!」


「票を分けたからな」


 私は机を叩きました。


「もったいない!」


 そうです。


 同じ四十株でも。


 一人に八十票を集中させれば、取締役一人を選任できる。


 ところが。


 二人に四十票ずつ分ければ、両方落選する可能性がある。


「なるほど……」


 私は呟きました。


「累積投票って、誰を当選させたいのかを明確にすることが大切なんですね」


「そうだ」


「少数派が欲張って二人を通そうとすると、かえって一人も通らないことがある」


「いいところに気づいたな」


 私は顔を上げました。


「褒めました?」


「一応な」


「やった!」


「調子に乗るな」


 私は笑いました。


 でも。


 ここは本当に重要です。


 累積投票では、持ち票が増えます。


 しかし。


 増えた票をどう配分するかが、結果を左右する。


 試験問題でも、そこを見落としたら間違えるでしょう。


 私はノートに書きました。


 ――累積投票は、票の総数だけでなく、集中と分散が勝敗を決める。


「では、次です!」


 私は六法を開きました。


「累積投票は、株主が希望すればいつでも使えるんですか?」


 相馬先輩は首を横に振りました。


「条件がある」


「はい!」


 私は一つずつ確認しました。


 まず。


 取締役を二名以上選任すること。


「一名だけ選ぶ場合は?」


 相馬先輩が聞きました。


「一株につき一票なので、累積投票による集中の効果は生まれません!」


「そうだ」


 二名以上を選任するからこそ、票を累積できる。


 次。


 定款。


「ここが杉浦精機の事件で重要でしたね」


「ああ」


 私は定款の写しを広げました。


 杉浦精機には、累積投票を排除する規定がなかった。


 だから、法定の手続によって累積投票を請求する余地があった。


「では、定款にこう書いてあったらどうなります?」


 私は読み上げました。


「当会社の取締役の選任については、累積投票によらないものとする」


 相馬先輩が答えます。


「累積投票を請求できねえな」


「そうです!」


 私は赤線を引きました。


 定款による排除。


 これが、重要なポイントです。


「でも先輩」


「何だ」


「そもそも、どうして法律で認められている制度を、定款で排除できるんですか?」


 相馬先輩は少し考えました。


「少数株主の保護だけじゃなく、会社の運営の仕方も考える必要があるからだろうな」


 確かに。


 累積投票には、少数株主の意見を取締役の構成に反映しやすくする利点があります。


 一方で。


 経営方針の違う取締役が選ばれることで、意思決定に時間がかかる場合もある。


 そこで、法律は定款による排除を認めている。


「ただし」


 片桐所長が言いました。


「排除できるからといって、社長が口頭で一方的に排除できるわけではない」


「はい!」


 私は頷きました。


 定款は、社長の気分で書き換えられるものではありません。


 定款変更には、所定の株主総会決議が必要です。


 だから。


「俺は累積投票が嫌いだ!」


 と社長が怒鳴っても。


 それだけで、定款に排除規定が生まれるわけではありません。


「杉浦精機の社長、そこを分かっていませんでしたね」


 私が言うと、相馬先輩が笑いました。


「あいつは、会社の決まりを自分の機嫌と勘違いしてたからな」


「ひどい言い方ですけど、納得です」


 私はノートに書きました。


 ――累積投票は、定款に排除規定がないかを先に確認する。


 そして、もう一つ。


 請求期限です。


「先輩。累積投票は、株主総会当日に突然思いついて請求すればいいんですか?」


「駄目だ」


「ですよね」


 私は頷きました。


 現代の会社法第三百四十二条では、株主総会の日の五日前までに請求しなければなりません。


 昭和六十三年の事件でも、当時の旧商法に基づく請求手続と期限を確認したうえで、早めに通知を出しました。


 大切なのは。


 総会の前に、適法に請求しておくこと。


 そして。


 その事実を証明できるようにしておくことです。


「だから内容証明だったんですね」


 私は言いました。


「そうだ」


 相馬先輩が答えました。


「内容証明は、何を通知したかを残せる。配達の記録も確認しておけば、到達の証拠を確保しやすい」


「はい」


「でも、内容証明を出したから必ず勝てるわけじゃねえ」


「そこも重要ですね」


 私は書き足しました。


 内容証明郵便。


 法律上の権利を自動的に発生させるものではない。


 通知内容と発送の事実を証拠化する手段。


 それを利用して、適法な請求を記録する。


「行政書士の仕事って、本当にこういうところなんですね」


 私が言うと、片桐所長が頷きました。


「紙を作るだけじゃない」


「はい」


「必要な事実を確認し、書くべきことを正確に書く」


 私は、完成した通知書の控えを見ました。


 たった一枚。


 でも、その一枚を作るまでに。


 定款を確認した。


 株主名簿を確認した。


 選任人数を確認した。


 議決権を計算した。


 請求期限を調べた。


 その積み重ねがあったからこそ。


 会社は、累積投票による選任手続を進めることになった。


「所長」


「何だ」


「内容証明って、やっぱり怖いですね」


「怖いのは、正しい請求を無視した後に生じる法律問題だ」


「……なるほど」


 今回も。


 紙そのものが、相手を倒したわけではありません。


 紙の中にある法律上の根拠が、社長の思い込みを崩したのです。


「ところで」


 私はふと気づきました。


「先輩。昭和六十三年の累積投票って、どの法律に書いてあるんでしたっけ?」


「旧商法だ」


「ですよね!」


 私はノートの左側に書きました。


 ――昭和六十三年。


 会社のルール。


 商法第二編。


 そして有限会社法など。


 累積投票については、旧商法第二百五十六条ノ三。


「ノ三……」


 私は呟きました。


「やっぱり、この時代の条文番号は独特ですね」


「何だよ、急に」


「いえ、何でもありません!」


 未来人としては、どうしても慣れません。


 現代なら。


 会社法第三百四十二条。


 ところが昭和六十三年には、独立した会社法は存在しない。


 会社の規律が商法の中に置かれている。


 そのため。


 現代の会社法をそのまま開くことはできません。


「それに、会社を作るための条件も違いますよね」


 私は言いました。


「そうだ」


 相馬先輩が頷きました。


「昭和六十三年の株式会社なら、発起人は七人以上だ」


「はい!」


「取締役も三人以上」


「はい!」


「監査役も必要だ」


 私はノートに書きました。


 昭和六十三年。


 株式会社の設立。


 発起人七人以上。


 取締役三人以上。


 監査役一人以上。


「現代だと、ずいぶん違うんですよね」


「現代?」


 相馬先輩が怪訝な顔をしました。


 しまった。


「い、いえ!」


「また妙なことを言い始めたな」


「仮に、もっと簡単に株式会社を作れる制度があったら、という話です!」


 私は慌ててごまかしました。


 でも。


 頭の中には、現代の会社法が浮かんでいます。


 平成十七年に成立した会社法。


 平成十八年施行。


 商法などに分かれていた会社の規律が、独立した法律として整理される。


 現代では、発起人一人でも株式会社を設立できる。


 取締役も、会社の機関設計によっては一人でよい。


 最低資本金制度も撤廃され、法律上は資本金一円で設立できる。


 もちろん、実際の事業運営には別の資金が必要になるでしょう。


 それでも。


 昭和六十三年の設立要件と比べれば、大きな違いです。


「先輩」


「何だ」


「昔の株式会社って、作るだけでも大仕事ですね」


「そうだな」


「だから、人数を揃えるために、名前だけ貸してもらうこともあったんですね」


「まあ、そういう問題はあっただろうな」


 私は考えました。


 発起人七人。


 取締役三人。


 監査役一人。


 事業を始めたい人が一人でも、法定の人数を揃えなければならない。


 そうなると。


 実際には経営に関わらない人を、形式的に役員にすることも考えられる。


「でも、名前を貸しただけだから責任はありません、では済まない場合もあるんですよね」


「そうだ」


「役員としての義務が問題になることもあります」


 私は頷きました。


 昔の制度は、会社を作る段階から一定の組織を要求していました。


 一方、現代では会社設立の負担が軽くなり、事業規模や実情に応じた機関設計を選びやすくなっています。


「でも、先輩」


「何だ」


「会社を簡単に作れるようになったとしても、株主同士の対立はなくなりませんよね」


「そりゃそうだ」


 社長が過半数の株を持つ。


 少数株主が経営に不満を持つ。


 取締役の選任を巡って争う。


 こうした問題は、会社の設立要件が変わっても起こり得ます。


「だから、累積投票のような仕組みは、現代の会社法にも残っているんですね」


「何だって?」


「あっ!」


 私は慌てて口を押さえました。


 相馬先輩が、じっと見ています。


「お前、本当にどこの法律を読んでるんだ?」


「……新しい参考書です!」


「昭和六十三年の法律を読め!」


「はいっ!」


 また怒られました。


 でも。


 これこそが、私にとって一番面白いところです。


 会社の設立ルールは、大きく変わった。


 会社法も、独立した。


 それでも。


 多数派の力と少数派の保護を、どう両立させるか。


 その問題は、昔も今も続いている。


 累積投票は、時代を超えて残された一つの答えなのです。


「さて」


 相馬先輩が新聞を畳みました。


「もう一つ、勘違いしやすいところがあるな」


「何ですか?」


「累積投票で選ばれた取締役は、誰のために働くんだ?」


 私は少し考えました。


「……推薦してくれた株主ですか?」


「違う」


「あっ」


 そうでした。


 私は慌ててノートを開きました。


 長谷川修一さん。


 杉浦精機の取締役。


 和子さんと田辺さんが推薦し、累積投票で選任された人です。


 でも。


 だからといって、長谷川さんが和子さんだけの代理人になるわけではありません。


「会社のために職務を行うんですよね」


「そうだ」


「取締役として、会社に対して義務を負う」


 相馬先輩が頷きました。


「少数株主に推薦されたからって、その株主の言うことを何でも聞いていいわけじゃねえ」


「はい」


 私は書きました。


 ――累積投票で選ばれた取締役も、会社のために職務を遂行する。


 これは重要です。


 累積投票は、少数株主の意見を取締役の構成に反映しやすくする制度。


 でも。


 選ばれた取締役は、会社全体の利益を考えなければなりません。


 特定の株主の利益だけを追いかけて、会社に損害を与えてよいわけではない。


「じゃあ、杉浦精機の場合は?」


 相馬先輩が聞きました。


「長谷川さんは、社長の支出について確認し、必要なら取締役として意見を述べることができます」


「そうだな」


「でも、一人で会社の決定を全部覆せるわけではありません」


「そうだ」


 私は頷きました。


 杉浦精機には、三人の取締役がいます。


 社長。


 社長の義弟。


 長谷川さん。


 長谷川さんが一人選ばれただけで、会社の経営権が少数株主に移ったわけではありません。


「ただ」


 片桐所長が言いました。


「経営を監督する立場の人間が一人入る意味は、小さくない」


「はい」


「誰かが見ている。それだけで、行動が変わることもある」


 私は思い出しました。


 杉浦精機の社長。


 会社の金を自分のもののように使っていた疑いがある。


 周囲の人たちは、意見を言いにくくなっていた。


 そこに。


 会社の利益のために職務を果たそうとする取締役が、一人加わった。


 それだけでも。


 会社の中に、新しい流れが生まれるかもしれません。


「所長」


「何だ」


「累積投票って、取締役を一人選ぶだけの制度じゃないんですね」


「そうだな」


「会社の中に、別の意見を届ける仕組みなんですね」


 所長が頷きました。


「そういう意味もある」


 私は少し嬉しくなりました。


 試験のテキストでは、累積投票はただの計算問題でした。


 一株につき何票。


 候補者に何票。


 誰が当選。


 そういう話です。


 でも。


 現場では違う。


 一人の取締役が選ばれるかどうかで、会社の未来が変わる可能性がある。


 法律って。


 やっぱり、面白い。


「ところで先輩」


「何だ」


「累積投票で選ばれた取締役を、社長が気に入らないからってすぐ解任したらどうなるんですか?」


 相馬先輩が、少しだけ笑いました。


「いい質問だな」


「褒めましたね!」


「まだ説明してねえだろ」


 私は慌てて口を閉じました。


 確かに。


 少数派が苦労して取締役を一人選んでも。


 多数派がすぐに解任できるなら。


 累積投票による少数派保護の意味が薄れてしまいます。


「ここにも、法律上の特別な扱いがある」


 相馬先輩が言いました。


「え?」


 私は六法に目を落としました。


 累積投票によって選ばれた取締役の解任。


 現代の会社法では、通常の取締役解任とは異なる決議要件が設けられている。


 累積投票で選ばれた取締役については、株主総会の特別決議が必要になる。


「つまり」


 私は呟きました。


「普通の過半数だけで、簡単に解任できるわけじゃないんですね」


「そうだ」


 ここも、試験で間違えやすそうです。


 取締役の選任。


 累積投票。


 取締役の解任。


 それぞれ、要件を区別する必要があります。


「先輩、もし杉浦精機の社長が、すぐに長谷川さんを解任しようとしたら?」


「少なくとも、通常の過半数決議だけで済む話じゃねえ」


「ですよね」


 私は頷きました。


 多数派の六十株。


 少数派の四十株。


 特別決議では、原則として出席株主の議決権の三分の二以上という要件などが問題になります。


 今回のように百株すべてが議決権を持ち、全株主が出席して四十株側が反対するなら。


 六十株では、三分の二に届きません。


「だから」


 私は言いました。


「社長が六十株持っていても、長谷川さんを自由に解任できるわけではないんですね」


「そういうことだ」


 私は、またあの社長の顔を思い出しました。


「俺が六割持っている!」


 ……。


 申し訳ありませんが。


 六割と三分の二は、違います。


 私は思わず笑ってしまいました。


「何がおかしい」


 相馬先輩が聞きました。


「いえ」


 私は首を振りました。


「社長、また六割って言いそうだなと思って」


「あいつなら言うだろうな」


 二人で笑いました。


 でも。


 ここにも法律の考え方があります。


 少数株主の意思を反映して選ばれた取締役。


 その地位を、通常の多数決だけで簡単に失わせない。


 累積投票による選任を、実効性のあるものにするための配慮です。


「なるほど……」


 私はノートに書きました。


 ――累積投票による取締役の選任と、その取締役の解任は、セットで理解する。


 夕方。


 事務所の窓に、橙色の光が差し込んでいました。


 私はここまでのノートを見直しました。


 通常の選任。


 累積投票。


 一株当たりの票数。


 集中投票。


 定款による排除。


 請求手続。


 当選者の決定。


 少数株主の保護。


 そして、解任。


「……意外と多いですね」


 私が呟くと、相馬先輩が笑いました。


「一つの制度でも、覚えることはあるだろ」


「はい」


「じゃあ、確認問題だ」


「来ましたね!」


 私は姿勢を正しました。


「第一問」


 相馬先輩が言いました。


「百株発行している会社で、取締役を三名選ぶ。累積投票なら、全部で何票だ?」


「三百票です!」


「正解」


「第二問もどうぞ!」


「六十株持っている株主は、何票持つ?」


「百八十票です!」


「正解」


「簡単です!」


 私は得意になりました。


 でも。


「じゃあ、その百八十票は、必ず三人に六十票ずつ分けなきゃならねえか?」


「いいえ!」


 私は即答しました。


「一人に百八十票を集中させてもいいし、複数の候補者に分けてもいいです!」


「そうだ」


「次!」


「累積投票は、取締役一名だけの選任でも、少数派に票の集中という利益を与えるか?」


「いいえ!」


「理由は?」


「選任人数が一名なら、一株当たり一票だからです!」


「よし」


 私は拳を握りました。


 順調です。


「次。定款に累積投票を行わない旨の定めがあったら?」


「原則として、累積投票を請求できません!」


「次。定款に排除規定がなくても、請求の手続を無視していいか?」


「駄目です! 法定の期限などを守る必要があります!」


「次。累積投票で選任された取締役は、推薦した株主だけの利益を守ればいいか?」


「いいえ! 会社に対して取締役としての義務を負います!」


「よし」


 相馬先輩が頷きました。


「じゃあ最後だ」


「はい!」


「六十株の社長と、四十株の少数派がいる。取締役二名を累積投票で選ぶ。少数派が八十票を一人に集中させた。社長は二人とも当選させられるか?」


「できません!」


「なぜだ?」


「二人とも八十票を超えさせるには、百六十二票以上必要ですが、社長は百二十票しか持っていないからです!」


 相馬先輩が、にやりと笑いました。


「完璧だな」


「やった!」


 私は両手を上げました。


 累積投票。


 もう、怖くありません。


 計算の仕組みが分かれば、きちんと答えが出る。


 そして。


 なぜその制度があるのか。


 杉浦精機の事件を思い出せば、すぐに分かります。


「所長!」


 私は奥に声をかけました。


「何だ」


「一つ、聞いていいですか?」


「言ってみろ」


「法律って、どうしてこんなに面倒な制度を作るんでしょう?」


 片桐所長が顔を上げました。


「面倒か」


「はい」


 私はノートを指差しました。


「普通に多数決で決めたほうが、簡単じゃないですか」


「そうだな」


「一株一票で、過半数を取った人が決める」


「うん」


「なのに、わざわざ票を二倍にしたり、集中させたり……」


 所長は、少し考えました。


 そして。


「こはる」


「はい」


「多数決は、便利な仕組みだ」


「はい」


「だが、多数派がいつも正しいとは限らん」


 私は黙りました。


「六十株を持つ者が、会社の利益を考えているとは限らん」


「……はい」


「四十株を持つ者が、間違っているとも限らん」


 私は、杉浦精機の事件を思い出しました。


 社長は、六十株を持っていました。


 でも。


 会社のお金の使い方には疑問があった。


 一方。


 四十株の少数株主は、会社の将来を心配していました。


 もちろん、少数派だから必ず正しいというわけではありません。


 けれど。


 多数派がすべての役員を独占できる仕組みしかなければ、少数派の意見が会社の経営に届きにくくなる。


「だから」


 所長は言いました。


「法律は、数だけで決まらない仕組みも用意している」


 私は頷きました。


 累積投票。


 それは、多数決を否定する制度ではありません。


 多数派の株式に応じた投票権も、きちんと認める。


 そのうえで。


 少数派が票を集中することで、取締役を選任する可能性を確保する。


 多数派の力と、少数派の声。


 その両方を考える制度なのです。


「なるほど……」


 私は呟きました。


「法律って、単純な多数決だけじゃ守れないものも守ろうとしているんですね」


 所長が頷きました。


「そうだ」


 私は少し、胸が熱くなりました。


 百株。


 六十株。


 四十株。


 その数字の向こうに、人がいる。


 会社を作った人。


 会社を引き継いだ人。


 工場で働いている人。


 取引先。


 そして。


 会社を信じて株を持っている人たち。


 累積投票は、その人たちの思いを、取締役選任の仕組みに反映させる一つの方法なのです。


「よし!」


 私はノートの最後のページを開きました。


「今日の一行を書きます!」


 相馬先輩が、こちらを見ました。


「何て書くんだ?」


 私は鉛筆を握りました。


 そして。


 ゆっくり書きました。


 ――累積投票は「一株×選任人数」の票を集中させ、少数株主にも取締役を選ぶ道を開く制度。


「……できた!」


 私はノートを掲げました。


「どうですか!」


 相馬先輩が覗き込みました。


「まあ、いいんじゃねえか」


「褒めましたね!」


「一応な」


「やった!」


 私は笑いました。


 でも。


 この一行を見ていると。


 あの工場のことを思い出します。


 創業者の写真。


 油の染みた作業着。


 毎日機械を動かしている従業員たち。


 会社のお金の使い方を心配していた和子さん。


 そして。


 累積投票で取締役に選ばれた長谷川さん。


 たった四十株。


 でも。


 その四十株が、会社の中に一つの新しい目を置いた。


 だからこそ。


 この制度を忘れることは、もうないでしょう。


「ところで、こはる」


 相馬先輩が言いました。


「はい?」


「勉強会は終わりか?」


「はい!」


「じゃあ、掃除しろ」


「……またですか?」


「昨日もお前、計算ばっかりして掃除が中途半端だったろ」


 私は腕を組みました。


「先輩」


「何だ」


「今回は、民主的に決めましょう」


「は?」


「掃除当番です!」


 私は机に三枚の紙を並べました。


「所長、先輩、私の三人で、掃除当番二名を選びます!」


「また始まった……」


「今度は累積投票の仕組みを応用します!」


 私は得意になりました。


「三人が一人一票の立場で、掃除当番を二名選ぶとします!」


「うん」


「累積投票方式なら、一人二票!」


「うん」


「私は二票を全部、先輩に投じます!」


「おい」


「先輩は、自分に二票を投じてください!」


「何でだよ!」


「そうすれば、先輩が四票を獲得します!」


 私はにっこり笑いました。


「先輩、当選確実です!」


「勝手に当選させるな!」


 私は笑いました。


 でも。


 そこで、片桐所長が静かに言いました。


「こはる」


「はい!」


「掃除当番は、株主総会の取締役選任ではない」


「……はい」


「商法の累積投票の規定は適用されん」


「……ですよね」


 相馬先輩が大笑いしました。


「ほら見ろ!」


「ちょっと実験しただけです!」


「実験で俺を掃除当番にするな!」


 私は頬を膨らませました。


 でも。


 そこで、ふと気づきました。


「所長」


「何だ」


「じゃあ、掃除当番を決める場合は、普通に話し合えばいいんですね」


「そうだ」


「では、提案します」


「言ってみろ」


「三人で掃除を分担しましょう!」


 所長は少し考えました。


 そして。


「よし」


「えっ!」


「それでいい」


 私は目を輝かせました。


「本当ですか!」


「机はこはる。床は相馬。私は書類棚を片付ける」


 相馬先輩が目を丸くしました。


「所長、俺もですか!」


「そうだ」


「何で俺まで!」


「三人で分担するんだろう」


 私は思わず吹き出しました。


「先輩!」


「何だ!」


「多数決でも累積投票でもなく、話し合いで決まりましたね!」


「お前が余計なこと言うからだろ!」


 所長は、何事もなかったように書類棚へ向かいました。


 私は笑いながら、机を拭き始めました。


 窓の外。


 夕暮れの町に、家々の明かりが灯っていきます。


 どこかの工場では、今日も機械が動いているのでしょう。


 杉浦精機も、きっとその一つです。


 六十株を持つ社長。


 四十株を持つ少数株主。


 会社の中で、意見が違うことはある。


 でも。


 意見が違うからといって、片方の声を完全に消してよいわけではありません。


 会社は、たくさんの人の力で動いています。


 株式を持つ人。


 経営する人。


 働く人。


 そして、会社を信頼して取引する人。


 そのすべての利益が、いつも一致するとは限らない。


 だからこそ。


 商法は、さまざまな仕組みを用意しているのです。


 累積投票。


 言葉は難しい。


 計算も少し面倒です。


 でも。


 その仕組みを理解するだけで。


 六十株に押し切られるはずだった四十株が、一人の取締役を選ぶ力になる。


 私は机を拭く手を止め、ノートの最後の一行をもう一度読みました。


 ――累積投票は「一株×選任人数」の票を集中させ、少数株主にも取締役を選ぶ道を開く制度。


 よし。


 完璧。


「こはる!」


 相馬先輩の声が飛びました。


「はい!」


「ノート見てねえで机を拭け!」


「今、学習内容を確認していたんです!」


「掃除しながら勉強するな!」


「先輩!」


「何だ!」


「私、次の行政書士試験で累積投票が出たら、絶対に正解できる気がします!」


「そうかよ!」


「六十株、四十株、二名選任!」


「もう聞いた!」


「百二十票、八十票!」


「分かった!」


「そして、八十票を一人に集中!」


「だから分かったって!」


 私は笑いました。


 でも。


 最後に、もう一つだけ。


 言っておきたいことがあります。


「先輩!」


「まだあるのか!」


「累積投票って、少数派を必ず勝たせる制度じゃないんですよね!」


「そうだ!」


「少数派にも勝つ可能性を与える制度なんですよね!」


 相馬先輩は、少しだけ笑いました。


「……まあな」


 私は頷きました。


 そう。


 多数派を悪者にする制度ではない。


 少数派を特別扱いして、必ず勝たせる制度でもない。


 ただ。


 会社の経営に、多様な意見が届く余地を作る。


 それが、累積投票の意味なのです。


 六割の社長が、何を言おうと。


 百株のうち、残り四十株にも。


 ちゃんと意味がある。


 そして。


 その意味を知らない社長ほど。


 株主総会で、驚くことになるのです。


「こはる!」


「はい!」


「もう本当に掃除しろ!」


「はいっ!」


 私は笑いながら、布巾を動かしました。


 昭和六十三年。


 商法の世界は、今日も奥が深い。


 でも。


 もう迷いません。


 取締役を二名以上選ぶなら。


 まず、定款を確認する。


 累積投票の請求ができるかを調べる。


 選任人数を確認する。


 株式数に、選任人数を掛ける。


 そして。


 誰に何票を集中させるかを考える。


 それだけで。


 多数決では見えなかった答えが、見えてくることがある。


 法律は。


 大きな声を出した人だけを、勝たせるものではありません。


 たくさん株を持っている人だけを、守るものでもありません。


 時には。


 少数派が、知恵と法律を使うことで。


 会社の未来を、少しだけ変えることができる。


 そのことを。


 私は、あの町工場の四十株から教わりました。


 ――そして今日も、六法の中には、まだ知らない逆転の仕組みが眠っているのでした。

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