第13話~元ロケットマン選手のお話・前編~
この身体で過ごしていると、ふとした時に、地球で見たアニメ・特撮・映画に出てくるロボットたちのことを思い出すことがある。
かくいう俺も、そういうのが大好きな人間だった。
最新のフルCGで造られたものも悪くはない。だが、自分が生まれるよりもはるか昔の、21世紀初頭から半ばにかけて作られたキャラクターたちは、俺の目にはどれも魅力的に映った。
スタイリッシュで格好いい装甲をした人型戦闘兵器。
昭和時代のスピリットを継ぐ、デカい、強い、そして無骨な鋼の塊。
複数の機体が一つに合体し巨影を形作る、レンジャーロボ。
ガキガキと音を立てながら、乗り物から人型に変形する地球外の生命体。
そんな、デザイナーのこだわりがこれでもかと反映された、ロマンの塊ともいえる鉄の巨人たちが大好きだった。
この新しい身体に生まれた場所が……控えめに言ってひどすぎる場所なのは、この際目を瞑るとして。
今の身体が、将来的にはさまざまな形にカスタマイズできる、無限の可能性を持つロマンの卵だと考えれば、ある意味ラッキーではあるのかもしれない。
さて、なぜ急にこんなことを考えたのかというと。
「うわぁ…」
そんな思いを胸に秘めている俺にとって、夢みたいな光景が目の前に広がっていたからだ。
壁一面に飾られた、さまざまな形の腕や脚のユニット。
ダチェットさんの修理屋でもさまざまなパーツや手足を見ることができるが、それはあくまで普段使いや労働用に依頼されているもの。
それに対して、ここにある品々は、どれも戦闘を前提にして設計され、独特の雰囲気や見栄えにこだわって作られている。
肩から掌にかけて大小さまざまな棘が取り付けられたものや、相手の攻撃を受け流すことを念頭に置いた流線形のフォルムのもの。そのすべてに、勝負の際にできたと思われる大きな傷跡がそのまま残されている。
さらには、色とりどりのステッカーが貼られ、一点物らしい個性が光るものや、表面をわざと傷つけ、タトゥーのような紋様を刻んだものまである。
実用性だけを考えれば、わざわざこんな加工をする必要なんてないだろう。それでも、どのパーツにも、元の持ち主が自分なりの格好良さを追い求めた跡が残っていた。
「カッコイイ!」
心の中のトキメキに呼応したのか、無意識に目元を発光させながら、もっとよく見ようと壁まで近づいていく。
気分は、ホビーショップに飾られた高級おもちゃを見ているようだ。
「ホホホ、気に入ってくれたようだなぁ。私のコレクションを。普段は人には見せないのだが、そんなに喜んでくれるのは嬉しいぞ」
傍らに立っている、小柄なオートマンがそう言ってくる。
この人の名前はキューゾさん。動くたびにギィギィと音がするが、背筋はしゃんと伸びている。顔はフィアットのように丸く、ユーモアのある顔立ちで、表情に合わせて動く目元のパーツが愛嬌たっぷりだ。
「はい! こんなにすごいの、初めて見ました! あっ、もしかして、あそこにあるのはロケット推進機構ですか?」
ユニットのすぐ横にある、大小さまざまな推進装置が設置された棚に近づく。
「そうだよ! よく分かったねェ。私が現役時代に使っていたものを、そのまま飾ってあるのだよ」
「現役?ま、まさか……」
目を大きく見開きながら振り返ると、キューゾさんは胸を張りながらニコリと笑いかける。
「そうさ。私は昔、ロケットマンの選手だったんだよ」
「すごい! もっとお話を聞かせてもらってもいいですか!?」
話題の種が次々とまかれ、話の花畑が広がっていく。
こんな、俺にとって幸せな時間が訪れた理由は、ほんの数十分前のこと。
そもそも、今日会ったばかりの自分が彼のコレクションを見せてもらうのは、本当にたまたまだった。
「ここだな」
ダチェットさんから依頼された配達先には、ビックスとVさんのもとからものの10分程度で到着した。
目の前には、一軒の古びた建物。外壁から古さを感じるが、玄関先はきれいに掃除されている。脇には機械式の観葉植物が置かれ、砂漠の熱風の中でも静かに葉を揺らしていた。
「オートマンにも植物を愛でる文化があったのか」
本日2度目のお客さん。正直、前回があまりにも散々だっただけに、少し警戒心を持ってしまう。
この扉の向こうには、どんなオートマンが暮らしているのだろう。怖くない、普通の人だといいなぁ、と願いながら、俺は扉を三度、軽くノックした。
「すいません。修理屋ダチェットの使いです。キューゾさんはいらっしゃいますか?ご依頼の品をお届けに伺いました」
「はい」
そんな穏やかな返事がして少しした後、ゆっくりと玄関の扉が開く。
姿を現したのは、白く色あせた外装をしたオートマンだった。肩や胸部には何度も修理を繰り返したのか、いくつもの継ぎ目が残っている。
右手には、古い配管に握りを取り付けたような棒を、杖代わりにしていた。
「おやおや…」
俺の姿を見るなり、その老オートマンは、丸い目をさらに丸くした。
「随分と小さなポーターさんが来たものだねぇ」
「あ、えっと…」
“大丈夫。この人を怒らせるようなことは何一つしていない”と緊張を抑え、ゆっくりと声を出す。
「本日から配達を担当することになりました。ゼータと申します」
そう言って、軽く頭を下げる。
「あぁ、そうか。近所の連中が話をしていたの。最近、ダチェットさんの店で見かけるようになったっていう新人さんかい」
俺って噂になっていたのか。目立つような行動をしたつもりはないが、少し恥ずかしい。
「え?あ、そうなんです。目覚めてまだ一週間くらいで…」
「一週間?」
老人は目をパッと発光させた。
驚いた、という感情の表現なのかもしれない。
「そりゃまた。まだまだ分からない事も多いだろう。それなのに、もう働いとるのか」
「はい。そのために作ってもらったので、サボるとかはできませんよ」
「はっはっは。それは立派だことだ。…本当に、立派だ」
老人はどこか嬉しそう、そして少し寂しそうな顔をして笑う。
俺は配達用コンテナを背中から降ろすと、中から注文の品を取り出す。
「えっと、ご依頼いただいた脚部ユニットです」
「おぉ、待っておったよ。上手く動きそうだ」
「あ、あの、すいません。後払い金と受け取りのサインをいただけませんか」
お金の話をするのは気が引けるが、先程と同じ轍を踏むわけにはいかない。
するとキューゾさんは笑顔で料金を渡し、承認のサインもくれた。
何のトラブルも発生しない、実にまっとうなやり取り。これこそ、まっとうな仕事のプロセスというものだよ!
「内容をご確認ください」
「うんうん。ありがとう」
キューゾさんはユニットを受け取ると、満足そうに何度も頷いた。
「これでようやくまともに散歩に行くことができそうだ。愛着のある脚なのだがね、身動きがとれないとそうもいっていられないんだよ」
そういうと、片足をブラブラと振って見せた。
“ありがとう”。そんな一言に、思わず頬が緩む。
ちゃんと役に立てたんだと、そんな実感が湧いてきた。
すると老人は、俺をじっと見つめる。
「ところでキミ」
「はい?」
「燃料は足りているかい?」
「…え?」
一瞬、何を聞かれたのか分からなかった。
昨日も、ダチェットさん行きつけのマイク・ブームに行ってポップオイルを補給してはいるので、足りていないわけではないが…。
「配達の途中でエネルギーも足りていないだろう。オイルくらい飲んでいきなさい」
「えっ、いや、そんな…」
突然の申し出に思考が止まる。
こういう時って、どうするのが正解なんだろう。
ドラマとかで見た内容をそのまま実践するなら、一度は遠慮する。でも、本当に断ってしまうと失礼になることもある。
かといって、初対面でご馳走になるのも図々しい気がする…。
この世界の礼儀なんて、まだ何も知らないし、これがどういう意味を持つかなんて知らないし困ったな。
「い、いえ、お気持ちだけで十分です」
とりあえず無難そうな答えを返すと、老人は穏やかに笑った。
「なに、老いぼれのささやかな願いだ。遠慮せんでいいよ」
そう言って、家の中を指差す。
「若い者が遠慮ばかりしてちゃいかん。もし、ダチェットさんに何か言われたら、私が説明してあげるよ」
どうやら、本当にただ労ってくれているだけなのだ。
俺は少しだけ迷いつつも、
「そ、それじゃあ、お言葉に甘えます」
そう答えると、キューゾさんは家の中へと案内してくれた。
家の中は清掃が行き届いていて、家具の類もそれほど多くなく、こざっぱりしていた。
正直、落ち着く部屋だ。どこぞのカメラ頭にも見習ってほしい。
「はい、どうぞ。グイッとやっておくれ」
鉄製の小さなコップに並々入れられた黒い液体。湯気を立てながら煙を上げるさまはやはり人間の飲み物ではないが、この機械の身体では大切なエネルギー源だ。
「いただきます」
コップを掴み、ゆっくりと口元に傾ける。
ふむ、ポップオイルほどの粘り気はないが、代わりにスルスルと口から体の中へと流れ落ちていく。気分的には、本当にお茶を飲んでいるかのようだ。
「どうだい?キミの身体に合うかな?」
「あ、はい、そうですね。すごく…飲みやすくていいです。何というか、ホッとします」
「そうかい。そう言ってもらえて嬉しいよ。ウチの自家製精製オイルなんだ。中々他人に飲んでもらう機会がないからね」
「えっ、自家製なんですか?」
聞くところによると、石油を扱う業者が日々街にエアカーを走らせ、各家庭へ燃料の原料となるオイルを販売しているらしい。
業者の段階ですでにある程度の処理が施されているため、家庭ではそこからさらに、専用の精製装置を使ってオートマンが飲める状態に仕上げるのだという。
しかも、その精製方法は家庭ごとに異なるらしく、使う装置の設定や加える成分によって、味や粘り気、飲み心地まで千差万別なのだそうだ。
「初めて知りました…自分はいつも、マイクブームというお店で飲んでいるんです」
「あそこはここいらじゃ有名な名店だねぇ。私も飲みに行きたいが、なにぶんこの足腰では思うように体も動かない…」
「うーん…」
その言葉にどう答えればいいか分からず、視線を部屋の中で視線をさまよわせる。しかし、家具らしい家具が無い家でどういう話題を見つければいいのか、と困っていた時に、ふと、壁沿いにあるテレビの横に、さまざまな書籍や道具があつめられているのを見つけた。
「ん?」
失礼に思いながらもそちらに目を向ける。
そこには、戦っているオートマンが描かれた古い雑誌や、何かの競技で使われたと思われる道具が並べられていた。
その中でも特に目を引いたのは、壁に貼られたポスターに大きく描かれている、ロケット噴射を使って空を飛ぶオートマンの姿だった。
「あれって…」
思わず身を乗り出す。
「もしかして、ロケットマンですか?」
「おや」
俺の言葉に、キューゾさんが少し驚いたように目を光らせる。
「分かるのかい?」
「はい!」
俺は勢いよく頷いた。
「マイク・ブームで試合を見たことがあります!あれですよね、ロケットを使って飛び回りながら戦う競技!」
「ほうほう。マイク・ブームで見たのかい」
キューゾさんは嬉しそうに笑う。
「自分が見た時は、ドーソーっていう選手と、あと、ラブラ、いや違う、そうだ、リブラリア!あの2人が戦っていました。全身カッコイイアーマーを装備していて、それがロケットでビュンビュン飛び回って!…あ」
そこで、自分が一方的に喋り過ぎた事に気が付き、恥ずかしくなった。
「すいません。うるさかったですね」
「いやいや、そんなことはない。何を隠そう、私もロケットマンファンなのだよ。この街では、あの競技は純粋な試合ではなく、賭けの対象としてみるオートマンが多いから、純粋にロケットマンの話ができる相手が少なくてねぇ」
そう言ってホホホ、と笑うキューゾさんを見て、気を悪くしなくてよかったとホッとする。
「そうなんですか。でも、すいません。自分もこの競技について全然知らなくって、お気に入りの選手どころか、競技のルールも一切分からないんです」
「生まれて一週間じゃ仕方ないさ。あ、そういえばアウターネットを使って調べてみたりはしたのかな?」
「アウターネット…」
そういえば、インターネット的なものがあるとダチェットさんも言っていた気がする。
早速使おうとするが、そもそもどうやってその機能も使えばいいのか分からない。あとでダチェットさんに聞くことにしよう。
「使い方はダチェットさんに確認します。今日はオイルをご馳走していただき、ありがとうございました」
俺も軽く頭を下げ、帰ろうとした。
――その時だった。
「ちょ、ちょっと待ちなさい」
「はい?」
振り返ると、キューゾさんはテレビの横に置かれたコレクションへ目を向けていた。
何かを考えるように、しばらく黙っている。
「いや、しかしなぁ」
「どうしました?」
「いや、たいしたことではないんだよ」
そう言いながらも、キューゾさんはコレクションから目を離さない。
「この部屋にあるものは、あまり人には見せてこなかったんだ。私にとっては、どれも大切な思い出だからねぇ」
そう言って、少しだけ寂しそうに笑う。
「だから、今さら人に見せるというのも…」
そこまで言って、キューゾさんは俺の方を見る。
俺は何のことか分からず、首を傾げた。
すると、キューゾさんは小さく息を吐くように笑った。
「…でも、君ならいいかもしれないねぇ」
「え?」
「キミ、ええと、ゼータ君だったね。口は堅いほうかい?他の人に喋らないと約束してくれるなら、良いものを見せてあげるよ」
「え、な、なんですか?」
含みを持たせるような。そんな言葉にドキドキとしてしまう。
「ああ。そんなに怯えなくてもいいんだ。実はな…あまり人には見せないロケットマン関連の秘蔵コレクションがあるんだ…」
顔のすぐそばで、ささやくような声でそう告げられた俺は、パッとキューゾさんに顔を向けた。
「み、見たいです!もちろん、誰にも言いません!」
「ホホホ。では、ついておいで」
そういうとキューゾさんは居間の床に杖の先端を差し込み、手元を何度か回す。すると、”カチッ”という音とともに床がひとりでにスライドし始める。隠し通路だ。
案内された先で、俺は想像を遥かに超えるお宝の山を目にすることになる。
「うわぁ……!」
そこには、夢のような光景が広がっていたのだった。
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