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結ばれなかった恋にも、幸せな結末はある。 ~それでも僕たちは、何度でも出会い直す~  作者: なごやかたろう


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第九話 好き、なのかな

「美月。」


放課後。

昇降口へ向かう廊下で、高橋真由が後ろから声をかけた。


「今日も一緒に帰るの?」

「え?」

「朝倉くんと。」


美月は思わず立ち止まった。


「……どうして知ってるの?」

「教室で見てれば分かるよ。」


真由は肩をすくめる。


「毎日、放課後になると二人ともそわそわしてるじゃん。」

「そんなことないよ。」

「あるある。」


即答だった。

美月は少し頬をふくらませる。


「ただ帰る方向が一緒なだけ。」

「うん。」

「本を貸しただけ。」

「うん。」

「それだけ。」

「うん。」


真由は満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ、好きなんだ。」

「えっ?」


思わず大きな声が出る。

廊下を歩いていた生徒が振り返り、美月は慌てて口を押さえた。


「ち、違う!」

「そうかなぁ。」

「違うよ!」

「本当に?」

「……。」


答えられない。

真由は美月の顔をじっと見つめ、それから優しく笑った。


「図書室、行こう。」


昼休みや放課後になると、生徒がほとんど来ない図書室。

二人は窓際の席に並んで座った。


「で?」


真由が机に肘をつく。


「朝倉くんのこと、どう思ってるの?」

「どうって……。」


美月は視線を落とした。


「優しい人。」

「うん。」

「話してて楽しい。」

「うん。」

「本の感想をちゃんと話してくれるし。」

「うん。」

「夕焼けも好きだし。」

「うん。」

「……。」


真由は笑いをこらえている。


「全部好きな理由じゃん。」

「違うの!」

「何が?」

「だから、その……。」


言葉が出ない。

胸の奥が、少しだけ苦しい。


「私、分からない。」


ぽつりと本音がこぼれた。


「初めてだから。」

「初めて?」

「男の子と、こんなに話したの。」


真由は驚かなかった。

知っていたからだ。

美月は昔から人付き合いが得意ではない。

本の世界にいる方が楽だと言っていた。

だから、高校に入って変わろうと決めていたことも。


「朝倉くんと話してるとね。」


美月は窓の外を見る。


「安心するの。」

「うん。」

「沈黙でも、嫌じゃない。」

「うん。」

「また話したいなって思う。」


真由は静かに頷いた。


「それって。」


少しだけ間を空ける。


「恋だよ。」


美月は何も言えなかった。

帰宅して夕食を終え、自分の部屋に戻る。

制服をハンガーに掛け、机の前に座る。

今日読もうと思っていた本を開く。

けれど、一行も頭に入らない。

『それって、恋だよ。』

真由の言葉が何度も浮かぶ。

(恋。)

その二文字を頭の中でつぶやくだけで、顔が熱くなる。

ベッドへ倒れ込み、枕を抱きしめる。

今日、一緒に見た夕焼け。

本を貸した日の笑顔。


「誰かと見る夕焼けは、もっと好き。」


あの時、陽斗が少し照れながら笑った顔。

一つ思い出すと、次々に浮かんでくる。


「……そっか。」


天井を見つめたまま、小さく笑った。


「私。」


静かな部屋で、誰にも聞こえないくらい小さな声。


「朝倉くんのこと、好きなんだ。」


その瞬間だった。

胸の中で何かが、ふわりと花開いた。

窓の外では、春の夜風がカーテンを揺らしている。

恋は、始まる時に音なんてしない。

気づいた時にはもう、心の中に咲いているものなのだ。

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