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結ばれなかった恋にも、幸せな結末はある。 ~それでも僕たちは、何度でも出会い直す~  作者: なごやかたろう


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第七話 好きなもの

「おすすめのもの……か。」


その一言が、陽斗の頭から離れなかった。

好きなもの。

趣味。

夢中になれること。

考えてみても、すぐには浮かばない。

部活は中学までやっていたサッカーを続けるつもりだが、「おすすめ」と言うほどではない。

音楽も、映画も、漫画も嫌いじゃない。

でも、人に語れるほど詳しくはなかった。


「朝倉、どうした?」


昼休み。

前の席の佐々木がパンをかじりながら聞いてきた。


「難しい顔して。」

「そんなに?」

「してる。」


陽斗は苦笑した。


「好きなものって聞かれたんだけど。」

「誰に?」

「……水瀬。」


その名前を口にした瞬間、佐々木の目が大きく開いた。


「おいおい、もう名前で呼ぶ仲か?」

「違うって。」

「違わないだろ。」

「本を貸してもらっただけ。」

「へぇ。」


佐々木はにやにや笑う。


「青春だなぁ。」

「そういうんじゃない。」

「本人はみんなそう言うんだよ。」


その時だった。


「朝倉くん。」


聞き慣れた声がして、陽斗は肩を震わせた。

教室の入り口に、美月が立っている。


「ちょっといいですか?」

「あ、うん。」


陽斗は席を立つ。

すれ違いざま、佐々木が小声で囁いた。


「頑張れ。」

(だから違うって……。)


廊下へ出ると、美月は申し訳なさそうに笑った。


「ごめんなさい。また呼び出しちゃって。」

「大丈夫。」

「おすすめ、思いつきました?」

「それが。」


陽斗は頭をかく。


「全然。」

「そんなに悩まなくても。」


美月はくすっと笑う。


「好きなものなら、何でもいいんですよ?」

「何でも?」

「うん。」

「難しいな。」


少し考えて、陽斗は窓の外を見た。

校庭ではサッカー部が練習を始めている。

グラウンドを走る音。

ボールを蹴る音。

春の風。


「あ。」


一つだけ思い浮かんだ。


「夕焼け。」

「え?」

「昔から好きなんだ。」


美月は少し驚いた顔をした。


「夕焼け?」

「理由は分からない。」


陽斗は照れくさそうに笑う。


「部活の帰りとか、一人で見てると落ち着く。」

「……。」

「変かな。」


美月は首を横に振った。


「全然。」


そう言って、窓の外を見た。


「私も好きです。」

「ほんと?」

「うん。」


少し間が空く。


「夕焼けって、一日頑張った人だけが見られる景色みたいで。」


その言葉に、陽斗は思わず笑った。


「そんな考え方したことなかった。」

「本に書いてあったんです。」

「また本?」

「また本です。」


二人で笑う。

短い沈黙。

けれど、不思議と気まずくない。


「じゃあ。」


美月が言った。


「今度、一緒に見ませんか。」

「夕焼け?」

「帰り道。」

「……。」

「ほら、部活が始まったら忙しくなるから。」


美月は慌てて付け加える。


「帰る方向、途中まで同じですよね?」

「うん。」

「だから、その……。」


言葉が止まる。

頬が少し赤い。

陽斗は、その理由に気づかなかった。


「いいよ。」


何気なく答える。


「じゃあ、一緒に帰ろう。」


その一言だけで、美月はほっとしたように笑った。


「約束ですよ。」

「約束。」


チャイムが鳴る。

二人は教室へ戻っていく。

その後ろ姿を、廊下の角から見ている人物がいた。


「へぇ……。」


同じクラスの高橋真由。

美月の中学時代からの親友だった。


「美月が、自分から男子を誘うなんて。」


真由は小さく笑う。


「これは、面白くなりそう。」


本人たちは、まだ気づいていない。

ただ一緒に夕焼けを見て帰る約束が、十年経っても忘れられない思い出の一つになることを。

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