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結ばれなかった恋にも、幸せな結末はある。 ~それでも僕たちは、何度でも出会い直す~  作者: なごやかたろう


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第四話 窓際の君

高校一年の春。

校庭の桜は、まだ咲き始めたばかりだった。

入学式を終えた教室は、新しい制服の匂いと、どこか落ち着かない空気に包まれている。


「じゃあ、これから一年間、このクラスで頑張っていきましょう。」


担任の挨拶が終わると、教室は一気にざわつき始めた。


「どこ中だった?」

「部活、何入る?」

「あ、連絡先交換しよう!」


あちこちで笑い声が上がる。

陽斗も前の席の男子に話しかけられ、ぎこちなく自己紹介を交わしていた。


「朝倉だよな? よろしく。」

「うん、よろしく。」


人見知りというほどではない。

でも、自分から輪の中心に入っていくタイプでもなかった。

ふと窓際を見る。

一番後ろの席。

一人の女子生徒が文庫本を開いていた。

周りが自己紹介で盛り上がっている中、彼女だけが静かだった。

長い黒髪。

窓から吹く風が前髪を揺らしている。

教室の喧騒だけが、彼女の周りを避けて流れていくように見えた。


(本、好きなのかな。)


それだけ思って、陽斗は視線を戻した。

その日の放課後。

部活動の勧誘が始まり、校門へ向かう生徒たちで廊下は混雑していた。

陽斗は配られたプリントを眺めながら歩いていると、角を曲がったところで誰かと肩がぶつかった。


「あっ……。」


小さな声。

文庫本が床に落ちた。


「あ、ごめん!」


慌ててしゃがみ込み、本を拾おうとする。

相手も同じタイミングで手を伸ばした。

指先が少しだけ触れる。


「ご、ごめん。」

「いえ……こちらこそ。」


顔を上げると、朝見かけた窓際の女子だった。


「あ。」


思わず声が漏れる。

彼女も少し驚いたような表情を浮かべた。


「同じクラス……。」

「うん。」


陽斗は拾った文庫本を差し出した。

『博士の愛した数式』

きれいに使い込まれた一冊だった。


「これ、面白い?」


思わず口から出た。


「え?」

「いや、本、あまり読まないんだけど……気になって。」


彼女は少し目を丸くしたあと、ふっと笑った。

その笑顔は、とても控えめで、それでいて春の日差しのようにやわらかかった。


「面白いですよ。」

「そうなんだ。」

「難しそうって言われるんですけど……人を好きになる話でもあるので。」

「へえ。」


陽斗は本の表紙を見つめる。

本のことはよく分からない。

でも、その一冊を大事そうに抱える彼女が、少しだけ気になった。


「私、水瀬です。」

「あ、朝倉。」

「よろしく。」

「こちらこそ。」


たったそれだけ。

自己紹介とも呼べない短い会話。

けれど、教室では話しかけられなかった相手と交わした最初の言葉だった。

美月は軽く頭を下げると、人混みの向こうへ歩いていく。

陽斗も反対方向へ歩き出した。

数歩進んだところで、後ろから小さな声が聞こえた。


「あの。」


振り返る。

美月が少しだけ照れくさそうに笑っていた。


「その本、本屋さんで見かけたら、読んでみてください。」


そう言うと、今度こそ歩き出した。

陽斗はしばらくその場に立ち尽くしていた。

本なんて、最後に読んだのはいつだっただろう。

それなのに。


「読んでみようかな。」


そんな気持ちになったのは、生まれて初めてだった。

その日から。

窓際で本を読む彼女の姿が、教室で一番気になる景色になっていった。

読んでいただきありがとうございます。

あの頃の記憶は、きっと誰にとっても少しだけ眩しいものだと思います。

この物語も、そんな"戻れない時間"を辿っていきます。

最後まで毎日更新予定です。よろしければ、これからもお付き合いいただけると嬉しいです。

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