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結ばれなかった恋にも、幸せな結末はある。 ~それでも僕たちは、何度でも出会い直す~  作者: なごやかたろう


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第二十九話 約束の花火

八月。

受験生の夏は、思っていたより忙しかった。

問題集を開き、模試を受け、志望校のパンフレットに付箋を貼る。

気づけば、蝉の声も少しだけ弱くなっていた。

そんなある日、美月から一通のメッセージが届く。

『今年も花火大会、行く?』

陽斗は画面を見つめて、少しだけ笑った。

『もちろん。』

短い返事だった。

でも、その一言だけで十分だった。



待ち合わせは、一年生の時と同じ駅前。


「ごめん、待った?」

「今来たところ。」


そのやり取りも、三度目になる。


「浴衣じゃないんだ。」


陽斗が笑う。


「今年は暑すぎるから。」


美月も笑い返した。


「朝倉くんも普通だね。」

「去年、帯を結ぶの大変そうだったから。」

「あれはもう勘弁。」


二人は顔を見合わせて笑った。

変わらない会話。

変わったのは、その笑いの奥にある時間だけだった。



河川敷には、去年より少し人が多かった。

屋台の明かり。

子どもたちの笑い声。

遠くで聞こえるアナウンス。


「今年で最後かもね。」


美月が、りんご飴を見つめながら言った。


「高校生で来るのは。」


陽斗は黙って頷く。


「来年は。」

「大学かな。」

「うん。」

「お互い、違う場所かもしれない。」


その言葉に、どちらも「そうだね」とは言えなかった。



花火が上がる。

夜空いっぱいに、金色の光が広がった。


「きれい。」


美月が小さくつぶやく。


「うん。」


一発、また一発。

光は咲いては消えていく。

まるで、高校生活そのもののようだった。


「朝倉くん。」

「ん?」

「覚えてる?」

「何を?」

「一年生の時。」


美月は笑う。


「『また来年も見よう』って言ったこと。」

「ああ。」


陽斗も思い出して笑う。


「言ったな。」

「ちゃんと三回見られた。」

「そうだな。」


三年間。

春も、夏も、秋も、冬も。

思い返せば、どの季節にも栞堂があって、その隣には美月がいた。


「ありがとう。」


美月が花火を見上げたまま言う。


「何が?」

「三年間。」


その一言に、陽斗は少しだけ息をのんだ。


「こちらこそ。」


それ以上の言葉は出てこない。

胸の奥には、伝えたい気持ちが確かにあった。

でも、それを口にしたら。

今の穏やかな時間が終わってしまう気がした。



大きな花火が夜空を照らす。

歓声が上がる。

その光の中で、美月は静かに思った。

(好き。)

(今でも。)

(でも。)

(朝倉くんには、夢を叶えてほしい。)

その願いの中には、自分がいなくてもよかった。


陽斗もまた、同じ夜空を見上げながら思っていた。

(水瀬なら、きっと素敵な先生になる。)

(本に囲まれて笑っていてほしい。)

(その隣が俺じゃなくても。)

花火の音が、その想いを空へ運んでいく。



帰り道。

駅へ向かう人の波の中を、二人はゆっくり歩いた。


「受験、頑張ろう。」


美月が言う。


「うん。」

「終わったら。」


少しだけ言葉を探す。


「また栞堂で。」


陽斗は笑った。


「約束。」


そう言って、小指を差し出した。

美月は少し驚いてから、笑いながら自分の小指を重ねる。


「約束。」


指切りをしたのは、小学生の頃以来だった。

二人とも笑っている。

でも、その約束は。

「ずっと一緒にいよう」ではなかった。


「また会おう。」


ただ、それだけだった。



その夜。

美月は引き出しを開ける。

渡せない手紙。

交換したしおり。

秋に書いた読書ノートの控え。

高校生活が、少しずつ形になって残っている。

便箋を取り出し、新しい一行を書き足した。

『今日も、ありがとう。』

それだけだった。

まだ「好き」は書けない。

でも、「ありがとう」は増えていく。

封筒は少しだけ厚くなった。



一方、陽斗は机の引き出しから、秋色のしおりを取り出していた。

店主がくれた言葉。

『季節は巡る。同じ景色は、二度とない。』

高校一年の頃には分からなかった意味が、今は少しだけ分かる気がした。

同じ花火は、もう二度と見られない。

だからこそ。

今年の夏は、きっと一生忘れない。

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