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結ばれなかった恋にも、幸せな結末はある。 ~それでも僕たちは、何度でも出会い直す~  作者: なごやかたろう


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第二十七話 古い写真

六月。

梅雨の雨が降ったり止んだりする午後。

学校帰りに栞堂へ寄ると、店内にはいつもと少し違う空気が流れていた。


「あれ?」


美月が首をかしげる。


「模様替えですか?」

「少しね。」


店主は脚立に乗り、高い棚の整理をしていた。

古い段ボール箱を下ろし、本を一冊ずつ並べ替えている。


「手伝います。」


陽斗がすぐに脚立を押さえる。


「ありがとう。」

店主は穏やかに笑った。


「若い人がいると助かるよ。」



本棚の整理をしていると、一冊の古いアルバムが段ボールの奥から滑り落ちた。


「あっ。」


美月が慌てて拾い上げる。


「すみません!」

「いや、大丈夫。」


店主はアルバムを受け取り、少しだけ懐かしそうな顔をした。


「ずいぶん久しぶりだな。」

「写真ですか?」


陽斗が尋ねる。


「昔の栞堂だよ。」


店主は少し迷ったあと、アルバムを開いた。



写真の中の栞堂は、今より少しだけ新しかった。

看板の色も鮮やかで、本棚もまだ少ない。

若い店主が、照れくさそうに立っている。


「店主さん、若い!」


美月が思わず笑う。


「髪、黒いですね。」

「そういうものだよ。」


店主も笑った。

ページをめくる。

店の前で写る何人ものお客さん。

子どもたち。

常連らしい男性。

その次のページで、美月の手が止まる。

若い店主の隣に、一人の女性が写っていた。

優しく笑う人だった。

本を胸に抱えている。


「……素敵な写真ですね。」


美月はそれ以上、何も聞かなかった。

聞いてはいけない気がした。

店主も、しばらく写真を見つめていた。


「この人はね。」


静かに口を開く。


「昔、一緒によく本を読んでいた人だ。」


それだけだった。

名前も。

関係も。

語らない。

雨音だけが、静かに窓を叩いている。



しばらくして。

店主は写真をアルバムへ戻した。


「その人がね。」


微笑みながら言う。


「ある日、言ったんだ。」

『本は、人を待つことができる。』


陽斗と美月は顔を上げる。


「人は待てなくても。」


店主は窓の外を見る。


「本は、ずっと同じ場所で待っていてくれる。」

「だから私は、本屋になった。」


その言葉には、不思議なくらい後悔がなかった。



帰り道。

雨はもう止んでいた。


「店主さん。」


陽斗がぽつりと言う。


「昔、好きな人がいたのかな。」

「たぶん。」


美月も静かに頷く。


「でも。」


少し考える。


「悲しい顔じゃなかった。」

「うん。」

「思い出して笑ってた。」


二人は少しだけ黙る。

商店街を吹き抜ける風が、雨上がりの匂いを運んでくる。


「いいね。」


美月が小さくつぶやく。


「そんなふうに思い出せる人がいるって。」


陽斗はその横顔を見つめる。

(いつか。)

(俺も誰かを、あんなふうに思い出す日が来るんだろうか。)

その時はまだ、自分が見つめている相手が、その人になるかもしれないとは思っていなかった。



その夜。

店主は閉店後、一人でアルバムを開いた。

若い日の写真。

隣で笑う女性。

写真の裏には、小さな文字が書かれている。

『また、同じ本を読もう。』

店主は指先でその文字をなぞる。


「約束は。」


静かに笑う。


「形が変わっても、約束なんだよ。」


アルバムを閉じ、本棚の一番上へ戻す。

店の時計が、静かに時を刻んでいた。

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