表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結ばれなかった恋にも、幸せな結末はある。 ~それでも僕たちは、何度でも出会い直す~  作者: なごやかたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/36

第二十四話 未来の自分へ

十月の終わり。

商店街の街路樹は赤や黄色に色づき、栞堂の入り口には小さなかぼちゃの置物が飾られていた。


「季節ごとに変わるんですね。」


美月が笑う。


「店主さんらしい。」

「毎年やってるよ。」


店主は照れくさそうに肩をすくめた。


「季節を迎える準備をするとね。」


窓の外を見ながら続ける。


「人の心も、その季節に追いつく気がするんだ。」



窓際の席。

陽斗は数学の問題集を閉じ、大きく伸びをした。


「勉強ばっかり。」

「今日は本を読まないの?」


美月が尋ねる。


「少し休憩。」

「水瀬は?」

「私も。」


二人は温かいココアの湯気を眺めながら、しばらく何も話さなかった。

外では枯れ葉が風に舞っている。


「静かだね。」


陽斗が言う。


「うん。」

「でも、この店の静けさって落ち着く。」


美月は頷いた。


「たぶん、本の音がするから。」

「本の音?」

「ページをめくる音とか。」

「時計の音とか。」

「お茶を置く音とか。」

「全部合わせて、栞堂の音。」


陽斗は耳を澄ませる。

カタン、と店主が本を棚へ戻す音。

ページをめくる音。

壁掛け時計の秒針。

確かに、それだけなのに心地いい。


「そうだ。」


店主が奥から読書ノートを持ってきた。


「今日は、こんなことを書いてみないか。」


栞を一枚、ノートに挟む。

そこには手書きで書かれていた。


『未来の自分へ』

「未来?」


陽斗が首をかしげる。


「五年後でも。」

「十年後でもいい。」

「今の自分に、何か伝えるとしたら?」


美月は少し考えた。


「難しいですね。」

「だから面白い。」


店主は笑う。


「未来の自分は、きっと忘れている。」

「今日の空の色も。」

「今日笑ったことも。」

「だから書いておく。」

「思い出は、覚えていようとするより、残しておく方がいい。」


二人は静かにペンを取った。

陽斗は、何度も書き直した。

美月は、一度だけ空を見上げてから書き始めた。

書き終えると、二人とも自然にノートを閉じる。


「見せない?」


陽斗が笑う。


「見せない。」


美月も笑う。


「また秘密が増えた。」

「そうだね。」



店主は二人が帰ったあと、読書ノートを棚へ戻す。

ページを閉じる前、一瞬だけ文字が目に入る。

読もうと思えば読める。

でも読まない。


「預かるだけでいい。」


誰に言うでもなく、小さくつぶやく。


「想いには、持ち主がいるからね。」


ノートを閉じ、本棚の一番上へ戻した。



帰り道。

夕焼けはすっかり秋色だった。


「未来の自分へって。」


陽斗が歩きながら言う。


「何を書いた?」

「秘密。」


美月は笑う。


「朝倉くんは?」

「秘密。」

「ずるい。」

「おあいこ。」


二人は笑い合う。

駅までの道は短い。

それでも、その時間はいつもより少しだけゆっくり流れているように感じた。



その夜。

読書ノートには、新しい二つのページが増えていた。


十月三十一日

『未来の僕へ。

もし今、本を読まなくなっていたら、一冊でいいから読んでほしい。

高校一年の秋、本を読む時間が好きだった。

それ以上に、本の話をする時間が好きだったことを、忘れないでほしい。』

――朝倉陽斗


ページをめくる。


十月三十一日

『未来の私へ。

今の私は、毎日がとても楽しいです。

笑ったことも、泣かなかったことも、全部大切です。

だから未来の私が幸せなら、この時間はちゃんと意味があったんだと思います。』

――水瀬美月


二人のページは、また隣り合っていた。

けれど。

その言葉を読むのは、ずっと先の未来になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ