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結ばれなかった恋にも、幸せな結末はある。 ~それでも僕たちは、何度でも出会い直す~  作者: なごやかたろう


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第二十話 夏の終わりに

夏休み最後の日。

朝から空には、大きな入道雲が浮かんでいた。

蝉の声も、少しだけ勢いをなくしている。


「宿題、終わった?」


栞堂へ向かう道で、美月が笑いながら聞いた。


「昨日の夜に。」

「危なかったね。」

「毎年こうなんだ。」

「分かる。」


二人で笑う。

その笑い声さえ、夏の終わりを惜しんでいるようだった。



栞堂の扉を開けると、店主は本棚の配置を変えていた。


「こんにちは。」

「おや。」


店主は振り返り、穏やかに目を細める。


「今日は夏の終わりだからね。」

「店も少し模様替えだ。」


入口近くの棚には、小さな札が立てられていた。

『季節の変わり目に読む本』


「また手書きですね。」


美月が嬉しそうに近づく。


「字まで味があります。」


店主は照れくさそうに笑った。


「機械じゃ出せないものもある。」


その言葉に、陽斗は静かに頷く。



店の奥、いつもの窓際の席。

二人はアイスコーヒーとアイスティーを前に座っていた。


「夏休み、あっという間だったね。」

「うん。」

「学校が始まったら。」


美月は少し考える。


「また忙しくなるかな。」

「文化祭も終わったし。」

「次は体育祭?」

「たぶん。」


そんな何気ない会話が続く。

沈黙になっても、不思議と気まずくはない。

窓の外では、風鈴が小さく鳴っていた。


「朝倉くん。」

「ん?」

「この前の花火。」

「うん。」

「楽しかった。」

「俺も。」


短い返事。

でも、それだけで十分だった。


「また来年も。」


美月が言いかけて、少しだけ口をつぐむ。

来年。

その頃、自分たちはどうしているのだろう。

同じ教室だろうか。

別のクラスだろうか。

考え始めると、少しだけ胸がざわついた。

陽斗も同じことを考えていた。

高校生活は、まだ始まったばかり。

なのに、楽しい時間ほど早く過ぎてしまう。

そんな気がした。


帰り際。

店主がレジの横から、一枚の栞を取り出した。


「二人とも。」


差し出されたのは、秋色の落ち葉が描かれた栞だった。

裏には、いつものように短い言葉。

『季節は巡る。同じ景色は、二度とない。』


「夏のしおり。」


店主が言う。


「……じゃなくて。」


少し笑う。


「秋を迎えるしおりかな。」


美月はその言葉を何度も読み返した。


「同じ景色は、二度とない……。」

「少し寂しいですね。」


店主は首を横に振る。


「だから、今日を覚えていられる。」

「同じ景色が続いたら、人は思い出にしないから。」


陽斗は静かに栞を受け取る。

その言葉の意味は、まだよく分からなかった。



夕方。

駅へ向かう道。

空には、夏と秋が混ざったような雲が浮かんでいた。


「明日から学校か。」

「うん。」

「また図書室で。」

「また栞堂で。」


二人は同時に言って、笑う。

駅の改札前。


「じゃあ、また明日。」

「また明日。」


当たり前の挨拶。

明日も会える。

そう思えることが、どれほど幸せなのか。

まだ二人は知らない。



その夜。

美月は日記を開いた。

八月三十一日。

夏休みが終わる。

今年の夏は、きっと忘れない。

花火。

栞堂。

しおり。

読書ノート。

どれも朝倉くんがいる景色だった。

秋も、冬も。

こんな毎日が続けばいい。

そう思ってしまう私は、やっぱり少し欲張りなんだろう。

日記を閉じると、本に挟んだ手作りのしおりが、静かにページの間から顔をのぞかせていた。

美月はそれを指先でそっとなで、小さく微笑んだ。

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