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結ばれなかった恋にも、幸せな結末はある。 ~それでも僕たちは、何度でも出会い直す~  作者: なごやかたろう


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第十二話 栞堂

「今日は寄り道しませんか。」


放課後。

いつもの帰り道で、美月が立ち止まった。


「寄り道?」

「うん。」


少しだけ照れくさそうに笑う。


「行ってみたい場所があるんです。」


陽斗は頷いた。


「いいよ。」


駅前の大通りを一本外れる。

商店街を抜けると、人通りはぐっと少なくなった。

住宅街へ続く細い道。

その角に、小さな木の看板が立っていた。

古本 栞堂

店先には季節の花が植えられ、小さな風鈴が春風に揺れている。


「こんなところに本屋があったんだ。」

「私も最近見つけたんです。」


木製の引き戸を開けると、鈴の音が静かに鳴った。

店の奥から、ゆっくりと一人の老人が顔を上げる。


「いらっしゃい。」


穏やかな声だった。

白髪交じりの髪に丸眼鏡。

年季の入ったエプロンを身につけ、本を一冊読んでいたところらしい。


「こんにちは。」


美月は慣れた様子で頭を下げる。


「また来たのかい。」

「はい。」

「今日は友達も一緒か。」


陽斗も軽く頭を下げた。


「初めまして。」

「初めまして。」


老人はにこりと笑う。


「ここは急がなくてもいい店だからね。」


その一言が、不思議と店の空気によく似合っていた。

店内には、時間がゆっくり流れている。

木の棚。

少し色あせた背表紙。

紙の匂い。

窓から差し込む柔らかな光。


「落ち着く……。」


思わず陽斗がつぶやく。


「でしょう?」


美月が嬉しそうに笑う。


「本屋さんというより、図書室みたい。」

「うん。」


二人は並んで本棚を眺め始めた。


「朝倉くん。」

「ん?」

「この前、おすすめがないって言ってましたよね。」

「うん。」

「じゃあ今日は、一冊選んでみてください。」

「俺が?」

「はい。」

「でも、本詳しくないし。」

「だからです。」


美月は一歩後ろへ下がった。


「表紙でも、題名でも、何でもいいです。」

「自分で選んでみてください。」


陽斗は本棚を見回す。

難しそうな本。

古い小説。

写真集。

何となく歩いていると、一冊だけ手が止まった。

『風待ちのベンチ』

聞いたことのない題名だった。


「それにする?」


美月が覗き込む。


「なんとなく。」

「その『なんとなく』って、大事なんですよ。」


老人が後ろから笑った。


「え?」

「本はね。」


老人は陽斗の手元を見つめる。


「選ぶんじゃない。」


一拍置く。


「呼ばれるんだ。」


陽斗と美月は顔を見合わせた。


「呼ばれる?」

「読む時期の本は、自分から目に入る。」


老人は棚へ本を戻しながら続ける。


「十年後に来ても、今日とは違う本を手に取るよ。」


その言葉は、どこか不思議で、少しだけ心に残った。


「じゃあ。」


老人は紙の栞を一枚差し出した。

栞堂とだけ書かれた、シンプルな栞。

裏には、小さな文字。

『本は、人生の続きを急がない。』


「サービス。」

「ありがとうございます。」


店を出る頃には、空は少しだけ茜色に染まり始めていた。


「いいお店だった。」


陽斗が栞を眺めながら言う。


「うん。」


美月は嬉しそうに頷く。


「私ね。」


少しだけ歩幅を緩める。


「お気に入りの場所を、人に教えたの初めてなんです。」


陽斗は思わず足を止めた。


「そうなの?」

「はい。」


照れくさそうに笑う。


「だから今日、少しだけ緊張しました。」


陽斗は何も言えなかった。

お気に入りの場所。

それを最初に教えてもらえた。

その意味はまだ分からない。

でも。

それが少しだけ嬉しかった。

帰り道。

二人はいつもより少しだけゆっくり歩いた。

夕焼けに染まる商店街で、風鈴の音だけが静かに春を知らせていた。

その日から。

栞堂は、二人だけの帰り道にある、大切な寄り道になった。

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