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六 道顕の妄信
右大臣邸。
その日。
道顕はついにその噂を聞いた。
使者が、宮中から戻ってきた。
「右大臣様、宮中で噂が流れております」
「何だ」
道顕は、顔を上げた。
「麗景殿女御が、懐妊したと」
その言葉を聞いた瞬間、道顕の顔が凍りついた。
口元が細かく震えた。
「何だと……」
「確証は、ありませんが……」
使者は言葉を続けようとした。
しかし、道顕は聞いていなかった。
既に正気を失っていた。
噂を真実だと信じた。
疑うことすら、しなかった。
「潔子が、懐妊した……」
道顕は呻いた。
強く拳を握る。爪がてのひらに食い込む。
だが、わずかな痛みさえ感じはしない。
「男子を産むかもしれない……。いや、それだけは……」
道顕は、立ち上がった。
目は狂気に光っていた。
焦点が、合っていない。
「それだけは、阻止しなければ――!」
道顕は叫んだ。
「潔子を、今すぐ排除する!」
使者は道顕の様子に恐れを感じた。
邸内には今まさに、顕子が産屋にいる。
しかし、道顕は顕子のことなど、もう忘れているようだった。
潔子への執念だけが、道顕を支配していた。




