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五 誤報
それから数日。
宮中に奇妙な噂が流れ始めた。
「麗景殿女御が、懐妊したそうだ」
誰が言い始めたのかは、わからない。
女房たちの間で、いつの間にか囁かれ始めた。
「本当ですか?」
「わかりませんが、そういう噂が……」
「だって、主上が毎日のように麗景殿を訪れておられる」
「中宮様が里下がりしている間に……」
噂は、瞬く間に広がった。
殿上人たちの間にも。
他の貴族たちの間にも。
しかし、誤報だった。
完全な、誤報だった。
誰かの勘違いか。
あるいは、悪意ある噂か。
真相はわからない。
麗景殿。
萩野が、潔子に報告した。
「潔子様、奇妙な噂が流れております」
「噂?」
潔子は、顔を上げた。
「女御様が、懐妊なさったという……」
潔子は、驚いた。
「私が、懐妊?」
「はい」
萩野は、困惑した表情で頷いた。
「そんな……」
潔子は、首を振った。
「私、懐妊などしていません」
「存じております」
萩野は、頷いた。
「誤報でございます」
「しかし、どうして、そのような……」
潔子は、不安になった。
(誰が、そのような噂を……)
(なぜ……)
萩野も、不安そうだった。
「わかりません」
「しかし、この噂は……」
潔子は、言葉を濁した。
不吉な予感がした。
何か、良くないことが起きる。
潔子は、そう感じていた。




