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三 産屋
右大臣邸の一角に、産屋が設えられていた。
白い幕で囲まれた、清浄な空間。
新しい畳が敷かれ、白い帳が張られている。
すべてが、白。
穢れを避けるため。
新しい命を迎えるため。
顕子は白装束に着替えた。
そして、産屋に入った。
次子は常に側にいた。
「中宮様、お体の具合は如何ですか」
「ええ、大丈夫」
顕子は微笑んでみせた。
しかし、不安そうだった。
腹は、大きく膨らんでいる。
中の子が、時折動く。
顕子は優しく、腹を撫でた。
(男子だろうか)
(女子だろうか)
顕子は、自問した。
答えはまだわからない。
だが、どちらであるかで未来が決まる。
運命の子だ。
次子が、顕子の手を取った。
「中宮様、大丈夫です」
「合歓……」
「私が、お側におります。お守り致します。必ず」
次子の手は温かかった。
顕子は、少し安心した。
そして同時に、自分の手が冷え切っていたことに気付いた。
(無事に生むために、私が健康であらねば――)
(強く、あらねば――)
産屋の外。
道顕は、産屋を遠くから見ていた。
近づくことは、できない。
産屋は穢れの場所。
男子、特に位の高い者は近づいてはならない。
道顕は、ただ待つしかなかった。
男子が産まれることを。
すべてが、それにかかっている。
道顕は、拳を握りしめた。




