91/100
九 記録する者
夜更け。
真薫は、再び裏帳簿を手に取っていた。
一冊一冊、確かめるように頁を繰る。
文字は淡々としている。
感情は、極力排している。
それでも――そこに記された事実は、重い。
真薫は、最後の帳簿を閉じ、手箱に戻した。
蓋を閉める音が、静かな部屋に響く。
(準備は、できている)
そう思う一方で、理解している。
(まだ、動けない)
だが、独りではない。
定明がいる。
逃げずに立つと、そう言った。
顕実とも、かろうじて繋がっている。
それが、どれほど危ういものであっても。
真薫は、庭へ視線を向けた。
如月の月は、冴え冴えと冷たい。
春の気配など、まだ微塵もない。
それでも――。
(嵐は、近い)
風が、簀子縁を撫でて通り過ぎる。
冷たいが、確かな手応えがあった。
真薫は、立ち上がった。
(記録する者は、待つことも仕事だ)
だが、その時が来たなら――
必ず、動く。
そう静かに誓い、真薫は夜を見据えた。
春は、まだ来ない。
だが、来ることだけは疑いようがなかった。




