六 兼遠の分析
式部省。
藤原兼遠が、真薫を呼んだ。
「真薫くん」
「兼遠様」
「萩野殿が、回復しているそうだね」
「はい」
真薫は頷いた。
「定明殿の診断では、もう大丈夫だと」
「そうか」
兼遠は、微笑んだ。
「よかった」
兼遠は、御簾の向こうに視線をやる。
少し遠い目をしていた。
「道顕様は、萩野殿のことを忘れているだろう。もう盤上から消えたとさえ、思っているはずだ」
「......はい」
「しかし、それが誤算だ」
兼遠は真薫を見た。
「誤算……」
「ああ」
そして頷いた。
「萩野殿は生きている。そして、回復している。それが潔子様の心の支えにも、なっているだろう。――これは、道顕様の計算にない事態だ」
兼遠の目が、鋭くなった。
「道顕様は、人の感情を軽視している。駒として使い、使い終われば忘れる。だが――人は駒ではない。人の繋がりは、計算できない」
ゆっくりと噛んで含めるように、兼遠は言う。
真薫は、息を呑んだ。
兼遠は不敵に微笑んでみせた。
「萩野殿と潔子様の繋がり。顕子様と潔子様の友情。これらは、道顕様の計算を超える。いつか、それが道顕様を追い詰めるかもしれない」
真薫は、兼遠の言葉に希望を感じた。
「だからこそ、記録を続けろ」
兼遠は、真薫の肩を叩いた。
兼遠は、言葉にする前に一度だけ目を伏せた。
それは希望ではなく、長年耐えてきた者の確信だった。
「人の繋がりを信じろ。それが、私たちの武器であり、強さだ」
真薫は、頷いた。




