四 文のやりとり
麗景殿。
源潔子は、萩野からの文を受け取った。
女房が、読み上げる。
——潔子様、私は元気です。
もう起き上がれます。
歩くこともできます。
ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした。
一日も早く、潔子様の側に戻りたいと思っております。
潔子様も、どうか、お身体を大切になさってください。
潔子は、文を聞いて、涙を流した。
「萩野……よかった……」
潔子は、女房に言った。
「すぐに、返事を書きます。紙と硯を」
「畏まりました。代筆は誰にいたしましょうか」
「いいえ、自分で書くわ」
文台に向かうまでに、潔子は何度も深く息をした。
書き始めれば、涙が止まらなくなるとわかっていたからだ。
潔子は、文台に向かった。
そして、自ら筆を執った。
——萩野、無理をしないでください。
お前が元気になってくれることが、今の私の、一番の願いです。
中宮様が、私を助けてくださいました。
もう一人ではありません。
だから、安心してください。
そして、ゆっくり休んでください。
お前が戻ってくる日を、心待ちにしています。
潔子は、筆を置いた。
ぽとりと涙が紙に落ち、丸く染みをつくった。
「萩野……」
潔子は、呟いた。
「早く、会いたい」
源基隆邸。
萩野は、潔子からの文を受け取った。
手跡からも、萩野を気遣う潔子の想いが伝わってくる。
文を読み終えるまで、萩野は何度も行を戻った。
文の端に残った染みに気付き、萩野はまた、涙を流した。
「潔子様……」
だが、悲しみの涙ではない。
萩野は、文を胸に抱いた。
「もう一人ではない、と……」
穏やかに頷いた。
「本当に、よかった……」
萩野は、決意した。
(潔子様が、頑張っておられる)
(私も、早く元気にならなければ)
潔子が一番大変なときに、傍にいられなかった。
一番必要とされるときに役に立たなかった。
側仕えとして失格だ。
だからこそ。
(一日でも早く、潔子様の側に戻らなければ)
萩野は、立ち上がった。
まだ少しふらつくが、歩ける。
(必ず、戻る)
萩野は、誓った。
(潔子様を、お守りするのだ)




