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式部省の呪詛係  作者: 浮田小葉子
第十章 誤差
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一 冬の底

 霜月(十一月)が終わろうとしていた。


 空気はいよいよ冷え深まる。

 朝霜の名残が、庭の草の端に白く残っているのが見て取れた。


 白砂は乾き、冬の日差しを淡く返す。

 木々はすでに葉を落とし、枝だけが空に映える。

 そこを乾いた風が、吹き抜けていく。


 藤原真薫(ふじわらのちかゆき)は、安倍定明(あべのさだあきら)と共に、左大臣源基隆(みなもとのもとたか)邸を訪れた。


 萩野(はぎの)の容態を確認するためだ。


 二人が屋敷に入ると、女房が出迎えた。


「式部省の方々ですね。萩野は、局におります」


 真薫と定明は、案内された。



 局にて。

 几帳の前。

 萩野は円座(わろうだ)に座っていた。


 起き上がっている。

 顔色も、だいぶ良くなった。

 

 几帳の前に立った瞬間、真薫は無意識に息を整えた。

 目にするまで、無事を信じきれずにいたのだと、そのとき気づく。


 火桶(ひおけ)から、ぱちぱちと炭の爆ぜる音がしている。

 炭の音は穏やかだが、局の端々にはまだ冷えが残っていた。


「藤原真薫殿、安倍定明殿。こうしてお目に掛かるのは初めてとなります」


 萩野は頭を下げた。


「大層ご心配をおかけしたのだと、お聞きました。お心を配ってくださっていたとか。感謝いたします」


「いえ」

 真薫は微笑んだ。

「無事で、何よりです。本当によかった」


「お身体の具合は、いかがですか」


 定明が訊くと、萩野は頷いた。


「はい。もう、起き上がれます。歩くことも、できます」


 萩野は、ふらつきながらも立ち上がってみせた。


「よかった……」


 真薫は心の底から安堵した。

 定明が、萩野に近付いた。


「少し、診させていただけますか」


「はい」


 定明は、萩野の脈を取った。

 目を閉じて、集中する。


 医官のようなこともできるのか。

 真薫は少し驚いた。


 しばらくして、定明は頷いた。


「呼吸は正常です。脈も安定しています」

 定明は、微笑んだ。

「もう、大丈夫」


 萩野は、涙を浮かべた。


「ありがとうございます」


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