一 冬の底
霜月が終わろうとしていた。
空気はいよいよ冷え深まる。
朝霜の名残が、庭の草の端に白く残っているのが見て取れた。
白砂は乾き、冬の日差しを淡く返す。
木々はすでに葉を落とし、枝だけが空に映える。
そこを乾いた風が、吹き抜けていく。
藤原真薫は、安倍定明と共に、左大臣源基隆邸を訪れた。
萩野の容態を確認するためだ。
二人が屋敷に入ると、女房が出迎えた。
「式部省の方々ですね。萩野は、局におります」
真薫と定明は、案内された。
局にて。
几帳の前。
萩野は円座に座っていた。
起き上がっている。
顔色も、だいぶ良くなった。
几帳の前に立った瞬間、真薫は無意識に息を整えた。
目にするまで、無事を信じきれずにいたのだと、そのとき気づく。
火桶から、ぱちぱちと炭の爆ぜる音がしている。
炭の音は穏やかだが、局の端々にはまだ冷えが残っていた。
「藤原真薫殿、安倍定明殿。こうしてお目に掛かるのは初めてとなります」
萩野は頭を下げた。
「大層ご心配をおかけしたのだと、お聞きました。お心を配ってくださっていたとか。感謝いたします」
「いえ」
真薫は微笑んだ。
「無事で、何よりです。本当によかった」
「お身体の具合は、いかがですか」
定明が訊くと、萩野は頷いた。
「はい。もう、起き上がれます。歩くことも、できます」
萩野は、ふらつきながらも立ち上がってみせた。
「よかった……」
真薫は心の底から安堵した。
定明が、萩野に近付いた。
「少し、診させていただけますか」
「はい」
定明は、萩野の脈を取った。
目を閉じて、集中する。
医官のようなこともできるのか。
真薫は少し驚いた。
しばらくして、定明は頷いた。
「呼吸は正常です。脈も安定しています」
定明は、微笑んだ。
「もう、大丈夫」
萩野は、涙を浮かべた。
「ありがとうございます」




