四 眠れぬ夜
その夜。
潔子は、眠れなかった。
褥(布団)に横たわっているが、目が冴えている。
(帝に、会う……)
潔子は、恐怖に囚われていた。
(何を話せばいいのか)
(私は、何も知らない)
(宮中のことも)
(帝のことも)
考えて、身体が強張った。
そして……。
(もし、帝が――道顕殿の思惑通りに動かれる方だったら)
潔子は、恐ろしくなった。
叔父上は言った。
「誰も信じるな」と。
中宮も、疑えと。
(では、帝は?)
(帝も、疑うべきなのか)
潔子は、混乱していた。
(わからない)
(誰が味方で、誰が敵なのか)
(わからない)
潔子は、涙を流した。
呟きが、思わず漏れた。
「……怖い」
翌朝。
女房が、潔子を呼びに来た。
「女御様、そろそろお支度を」
しかし、潔子は答えなかった。
衾(掛け布団)を深く被ったまま、動かない。
「女御様……」
女房は、困惑した。
「女御様、帝がお出でになられます」
「……」
潔子は、答えなかった。
「女御様?」
女房が、丸まった衾に近づくと、中からくぐもった声が聞こえた。
「……会いたくない」
女房は、驚いた。
「女御様?」
「体調が、悪いの」
潔子の声は、震えていた。
「だから、会えない」
「しかし、女御様……」
「お願い」
潔子は、泣いていた。
「今日は、お会いできない。そう、主上にお伝えして」
泣き咽ぶ潔子に、女房は困惑した。
しかし、潔子は衾を被ったまま、泣き続けるだけだった。




