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三 紅葉一片
その日の午後。
清涼殿。
帝が、傍に控える蔵人に、ぽつりと言った。
「麗景殿女御に、会いに行こうと思う」
蔵人は顔を上げる。
顕実ではないが、顕実の同僚だ。
「女御様に、ですか」
「ああ」
帝は御簾の向こう側、庭先へと視線を向ける。
紅葉がひらりと一枚舞った。
「入内してから、もう一月以上経った。そろそろ、会ってもいい頃だろう」
「承知いたしました」
蔵人は、頭を下げた。
「すぐに、麗景殿に伝えます」
麗景殿は一気に慌ただしくなった。
「女御様」
息を弾ませた女房に、潔子は少し眉を寄せた。
頬が紅潮し、興奮しているのが見て取れた。
「何ですか」
「帝が、女御様にお会いしたいとの仰せです」
潔子は、びくりと肩を震わせた。
「……帝が?」
「はい」
「いつ……?」
「明日、とのことです」
潔子は、顔から血の気が引いていくのを感じていた。
音が聞こえそうなほどだった。
気が遠くなっていく感覚がしたが、踏み止まる。
「明日……」
「はい」
呻くように呟く潔子に、女房は平伏する。
「お支度を、いたします」
「……」
潔子は、何も言えなかった。
ただ、倒れそうになるのを必死で堪えていた。
女房が去ると、潔子は一人になった。
震えが、止まらなかった。




