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式部省の呪詛係  作者: 浮田小葉子
第八章 御門の内
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九 記される内裏

 真薫は屋敷に戻り、手箱を開けた。


 中には、八つの裏帳簿。


 藤原維時の事件。

 藤原行斉邸の事件。

 賀茂光保の事件。

 道顕の自作自演。

 賀茂保規の口封じ。

 道顕の監視。

 兼遠との同盟。

 萩野の卒倒の件。


 真薫は、新しい紙を取り出した。


 そして、筆を執った。


 ——神無月(十月)、源潔子、入内。


 華やかな儀式。牛車、装束、楽。

 しかし、その裏で新女御は孤立。


 左大臣派、警戒のあまり、誰も潔子に近づけさせず。

 中宮顕子と次子、潔子を支援しようとするが、左大臣派に阻まれる。


 道顕、満足。

 何もせずとも、潔子は孤立。


 中宮顕子、懐妊確定。道顕は男子と信じている。


 顕子、不安。


 萩野、まだ回復せず。

 潔子、孤立。誰も信じられない。



 真薫は、筆を置いた。


 裏帳簿も、早九つ目となった。


 真薫は、裏帳簿を手箱に丁寧に仕舞った。

 そして、蓋を閉じた。



 真薫は、庭へと目をやった。


 澄んだ夜気に、月の光が冴えわたる。

 虫の音が途切れ途切れに続き、夜の長さを感じさせる。


 真薫は、呟いた。


「源潔子様が、入内した。華やかな儀式だった。しかし、潔子様は孤立している」


 真薫は、拳を握りしめた。


「左大臣派の警戒、道顕様の策略……すべてが、潔子様を孤独にしている」


 真薫は、月を見上げた。


「私にできることは、何もない。ただ、記録するだけだ」


 真薫は、静かに誓った。


「しかし、それでも、諦めない。いつか、この記録が、道顕様を追い詰める。――そう信じて、記録を続ける」


 真薫は、(しとね)に座った。

 目を閉じた。


 秋の夜の静けさの中で、真薫は考えた。


(潔子様は、どうなるのか)

(孤立したまま、宮中にいるのか)

(それとも......)


 真薫は、不安だった。


(そして、中宮様が産むのは、男子か女子か)

(道顕様は、男子だと信じている)

(しかし、もし女子なら......)


 真薫は、恐ろしかった。


(道顕様は、どうするのか)


 真薫は、目を開けた。


 文台に向かい、筆を執った。


 報告書を書く。


 ——源潔子の入内、滞りなく。

 問題特になし。


 だがそれは、嘘だ。


 潔子は、孤立している。

 しかし、それを書くことはできない。


 真薫は、報告書を置いた。


 そして、手箱の蓋に手を置いた。

 そこには、書き連ねられた真実が詰まっている。


 真薫は静かに吐息した。


「いつか――」


 真薫は、呟いた。


 月の光が、真薫を照らしていた。

 静かな夜だった。


 しかし、真薫の心は、大きくざわめいていた。


 戦いは、続いている。


 見えない戦い。

 記録という小さな武器で、あまりにも巨大な敵に立ち向かう。


 だが、真薫は、それを続けるつもりだ。

 いつか、必ずと信じて――


 秋の風が、吹き込んできた。

 風に揺れる草の音が、かすかに響く。


 真薫は、その風を感じながら、静かに筆を執り続けた。



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