三 弘徽殿の約束
儀式の後、潔子は中宮顕子に挨拶するため、弘徽殿を訪れた。
顕子は堂々と、潔子を迎えた。
中宮はこの自分。
私こそが後宮の主であると示さねばならない。
「中宮様」
潔子は、頭を下げた。
「どうぞ、よろしくお願い申し上げます」
か細く震える声。
精一杯、気勢を張っているのが見て取れた。
顕子は、改めて潔子を見た。
若く、美しい娘。
華やかで豪奢な裳唐衣が、よく似合っている。
(この娘が......)
顕子は、複雑な想いを抱いた。
(敵対すべきなのか……)
(それとも......)
潔子は頭を下げたまま、小さく震えている。
まるで幼子が叱られるのを待っているように、顕子には見えた。
顕子は、立ち上がり、潔子に近づいた。
そして、潔子の手を取った。
「ようこそ、宮中へ」
顕子は、微笑んだ。
「何か困ったことがあれば、私に言ってください」
潔子は、驚いた。
顔を上げて、顕子を見た。
「中宮様......」
「私も、かつては不安だった」
顕子は、優しく言った。
「私の父は、右大臣です。――だから、誰もが私を警戒しました」
顕子は、潔子の手を握りしめた。
「あなたも、そうでしょう。左大臣の御息女。だから、誰もがあなたを警戒する」
冷たい手だった。
かわいそうに、ひどく緊張しているのだろう。
「ですが」
顕子は、優しく微笑んだ。
「私は、あなたの味方です」
潔子は、涙を浮かべた。
「ありがとうございます」
潔子の声は、震えていた。
「中宮様のお言葉、心に刻みます」
顕子は、潔子を抱きしめるように、そっと、握った手に力を込めた。
「大丈夫。一人ではありません」
潔子は、顕子の手を押し頂くように額につけ、静かに涙を零した。
大江次子——合歓の君は、その様子を見守っていた。
(中宮様は、優しい方だ)
次子は、思った。
(潔子様を、助けようとしている)
次子も、潔子を支援したかった。
しかし......。




