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式部省の呪詛係  作者: 浮田小葉子
第八章 御門の内
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二 錦の道行

 神無月、吉日。


 源潔子の入内の儀式が行われた。

 朝から、京の都は華やいでいた。


 源基隆邸から、牛車(ぎっしゃ)が出る。

 牛車は、美しく飾られていた。


 紫の(とばり)

 金の飾り。

 (にしき)の布。


 牛を引く者たちも、正装している。


 潔子は、牛車の中にいた。


 裳唐衣(もからぎぬ)を纏い、顔を扇で隠している。


 心臓が、早鐘のように激しく鳴っていた。


(私は、これでいいのだろうか)

(萩野は、まだ目を覚まさない)

(それなのに、私は......)


 潔子の手が、震えた。



 牛車の前後には、随従(ずいじゅう)が並ぶ。


 源基隆(みなもとのもとたか)も、正装して牛車に従う。


 (ふえ)の音が響く。

 (つづみ)の音が鳴る。


 祝い事には欠かせない黒方(くろぼう)(こう)が焚かれ、奥深く優雅な甘い香りが漂う。

 


 人々が、道の両側に集まってきた。


「美しい......」

「源氏の姫様だ」

「左大臣様の御息女だ」


 人々は、囁き合った。


 牛車は、ゆっくりと宮中へ向かう。



 真薫は、遠くからそれを見ていた。

 式部省の役人として、儀式の準備に関わっていたのだ。


(華やかな儀式だ)


 真薫は、思った。


(しかし、その裏で......)


 真薫は、萩野のことを思った。

 あの女房は、まだ目を覚まさない。


 道顕の策略の犠牲者。


(そして、この華やかな儀式の影に、どれだけの策略があるのか)


 真薫は、不安を感じた。



 牛車が、宮中に到着した。


 (みかど)が、潔子を迎える。


 公卿たちが、並ぶ。

 (がく)が奏でられる。


 (しょう)の音。

 篳篥(ひちりき)の音。

 琵琶(びわ)の音。


 迦陵頻伽(かりょうびんが)か、緊那羅(きんなら)かとも思われるような、雅やかな音色が、宮中に響く。


 潔子は、しずしずと牛車から降りた。


 扇で顔を隠したまま、帝の前に進み出る。

 そして深々と頭を下げた。


 帝は、微笑んだ。


「よく来てくれた」


 帝の声は、優しかった。

 潔子は、涙が滲むのをどうにか堪えた。


(私は、ここにいていいのだろうか)


 不安ばかりだ。

 だが、耐えねばならない。


 萩野に支えられずとも、一人で立たねばならない。


(萩野……)


 心は、揺れていた。

 しかし、潔子はしっかりと顔を上げた。


 扇の向こうで、微笑んでみせた。


「お召しに預かり、恐悦至極に存じます」


 潔子の声は、か細かったが、凛としていた。



 儀式は、滞りなく進んだ。


 華やかで、雅やか。

 しかし、真薫には、どこか虚ろに見えた。


(この華やかさの裏に、何があるのか)


 真薫は、考え続けた。




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