二 錦の道行
神無月、吉日。
源潔子の入内の儀式が行われた。
朝から、京の都は華やいでいた。
源基隆邸から、牛車が出る。
牛車は、美しく飾られていた。
紫の帷。
金の飾り。
錦の布。
牛を引く者たちも、正装している。
潔子は、牛車の中にいた。
裳唐衣を纏い、顔を扇で隠している。
心臓が、早鐘のように激しく鳴っていた。
(私は、これでいいのだろうか)
(萩野は、まだ目を覚まさない)
(それなのに、私は......)
潔子の手が、震えた。
牛車の前後には、随従が並ぶ。
源基隆も、正装して牛車に従う。
笛の音が響く。
鼓の音が鳴る。
祝い事には欠かせない黒方の香が焚かれ、奥深く優雅な甘い香りが漂う。
人々が、道の両側に集まってきた。
「美しい......」
「源氏の姫様だ」
「左大臣様の御息女だ」
人々は、囁き合った。
牛車は、ゆっくりと宮中へ向かう。
真薫は、遠くからそれを見ていた。
式部省の役人として、儀式の準備に関わっていたのだ。
(華やかな儀式だ)
真薫は、思った。
(しかし、その裏で......)
真薫は、萩野のことを思った。
あの女房は、まだ目を覚まさない。
道顕の策略の犠牲者。
(そして、この華やかな儀式の影に、どれだけの策略があるのか)
真薫は、不安を感じた。
牛車が、宮中に到着した。
帝が、潔子を迎える。
公卿たちが、並ぶ。
楽が奏でられる。
笙の音。
篳篥の音。
琵琶の音。
迦陵頻伽か、緊那羅かとも思われるような、雅やかな音色が、宮中に響く。
潔子は、しずしずと牛車から降りた。
扇で顔を隠したまま、帝の前に進み出る。
そして深々と頭を下げた。
帝は、微笑んだ。
「よく来てくれた」
帝の声は、優しかった。
潔子は、涙が滲むのをどうにか堪えた。
(私は、ここにいていいのだろうか)
不安ばかりだ。
だが、耐えねばならない。
萩野に支えられずとも、一人で立たねばならない。
(萩野……)
心は、揺れていた。
しかし、潔子はしっかりと顔を上げた。
扇の向こうで、微笑んでみせた。
「お召しに預かり、恐悦至極に存じます」
潔子の声は、か細かったが、凛としていた。
儀式は、滞りなく進んだ。
華やかで、雅やか。
しかし、真薫には、どこか虚ろに見えた。
(この華やかさの裏に、何があるのか)
真薫は、考え続けた。




