55/98
一 忍ぶ月
葉月が過ぎ、やがて長月も終わった。
萩野は、まだ目を覚まさない。
藤原真薫は、時折左大臣源基隆邸を訪れ、萩野の容態を確認した。
しかし、何も変わらなかった。
萩野は褥(布団)に横たわり、静かに呼吸をしている。
たまに、うわごとを言う。
「......くろい......」
「......こわい......」
か細い声。
源潔子は、毎日萩野を見舞った。
「萩野......」
潔子は、萩野の手を取る。
「私、もうすぐ入内します。お前の犠牲を、無駄にはしません」
潔子の声は、震えていた。
源基隆は、諦めなかった。
藤原道顕の妨害を乗り越え、潔子の入内準備を進めた。
道顕は、様々な手段で妨害を続けた。
しかし、源基隆は押し切った。
左大臣としての権威。
源氏としての格。
すべてを使い、道顕と渡り合った。
そして、神無月。
吉日が選ばれた。
ついに、源潔子の入内が決まった。




